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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第三章 ラグナ大陸編
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第百六話 銀の槍


「ギルド……!?」


私のその一言にリィンが反応する。


「はい!我がスピナスフローレはユリウスで一番大きな冒険者ギルドなんですよ!」


冒険者ギルドだって!?ラグナ大陸にもギルド組合があるのか!

そうか……だからサキは……って、一番大きなというのはどういうことだ?

ギルドはギルドじゃないのか……?


「あれ……?あちらの方は?」


リィンに背中を押されるものだから、コレットを置いて行きそうになってしまった。


「さっき泥棒してたの捕まえた。その人も一緒」


サキは振り向くことなくリィンに伝える。

コレットの姿格好を見るなりリィンの表情が険しくなっていく。


「ええっと……それってマズくないですか?マスターはご存知で?」


リィンは少し怯えているようだった。

サキにしがみつくようにしてそう尋ねたリィンだったが、


「ううん。これから話す」


とサキの一言に驚愕するリィン。


「いやいやいや駄目ですって!!マスターの性格ご存知でしょう!?あんな人中に入れたら私殺されちゃいますっ!!」


「しょうがないでしょ?こっちだって想定外なんだから……」


なんだか物騒な話になってきた。

リィンはすでに半泣きになっている。

マスターと呼ばれる人はそんなに怖い人なのだろうか……。


建物の最上階、一番奥にある部屋の前で私達は立ち止まった。

白く大きな両開きの扉。その向こうから伝わってくる重たい空気……。

サキは一度大きく息を吐いてから扉をノックした。


「入るよ」


重たい扉が開かれたその先には大きな執務机があり、その椅子に腰掛けた人物を見た瞬間、私は言葉を失ってしまった。



黄金に輝く長い髪。

吸い込まれそうなほど透き通った青い瞳。

そして雪のように白い肌。


女性だ……。

そして何より、美しい……。息を飲むほどに……。


サキ話を聞く限りてっきり男の人だとばかり思っていたのだが、まさか女性だったとは……。



「お待たせ、リゼ」


「よく戻ったわねサキ。まずは仕事の報告から聞こうかしら」


ピシッと伸びた背筋から発せられる綺麗な声。美しくも芯があり、心を掴まれるような声だ。


「オッケー。やっぱり私達の予想通り、女性達が行方不明になってたのはソウルイーターの仕業だった……」


サキはリゼと呼ばれた人物に、クローディアとの一連の顛末を報告した。

クローディアは拐った女性達に始覚の実を食べさせ、強制的に魔力を覚醒させ奪い取っていたこと、集落にいた女性達はエドと呼ばれていた男性がそれぞれの身元に返しているということ。

そして最後に、クローディアは世界樹の呪いを克服するために、聖女の力を欲しているということだ。


「なるほど……世界樹の呪いをね……」


「ごめんリゼ……。仕留めきれなかった……」


うつむくサキにリゼは優しく笑いかけた。


「謝ることではないわサキ。私達では手も足も出なかったあのソウルイーターの居場所を突き止めただけではなく、有益な情報まで持って帰ってくれたじゃない。成果としては充分よ」


リゼはそう言ってスッと立ち上がってこちらを見る。


「挨拶が遅れたわね。冒険者ギルド『スピナスフローレ』のマスター、リーゼロッテ=ランバディルよ」


黒いロングのワンピースドレスには、太ももの付け根の辺りまで大きくスリットが入っており、そこから覗く白く長い足に目を取られてしまう。

それはそうとランバディルって……何処かで聞いたことあるような……。


「あっ……!シルヴィア=イスタリスと申します。お目にかかれて光栄に御座います」


「あら?貴族の生まれなの?イスタリス……聞いたことが無い名前だけど……」


「えーっと、それに関しては私から説明するね。」


サキは私がベルガンド大陸の人間であること、そして聖女であることリゼに説明する。


「……ということなの。ソウルイーターは必ずまたシルヴィアを狙ってくる……。だから彼女は私が保護することにしたわ」


リゼは顎に指をあて、頷きながらサキの話を聞いていた。


「そう……。そういう理由であれば問題は無いわ。よろしくねシルヴィア。あなたのように可愛らしい女の子は大歓迎よ!」


「か、感謝いたします!リーゼロッテさん!!」


「リゼでいいわよ」


私に微笑むリゼ。それに私は微笑みで返す。

なんだ……。思ってたより全然優しい人じゃないか。

取り越し苦労だったようだ。


「ところで……そっち子は?」


リゼはコレットの方に目をやった。


「彼女はその……なんというか……シルヴィアの友達で……」


少し言いにくそうなサキに変わって私が代わりに説明をする。


「コレットといいます。重ねてのお願いで申し訳無いのですが、彼女も私と行動を共にさせていただけないでしょうか?」


「あら?何故かしら?」


「実は、彼女は今住むところや食べるものが無くて困っているのです。それも盗賊ギルドに利用されたせいで……」


ダンッ!と何かを叩く様な衝撃音と共に、リゼの姿が一瞬で消えた……。


「ひぃっ……!!」


振り返った私の目に映ったのは……。

コレットの喉元に白銀の槍を突きつけたリゼの姿だった。


先程までの優しい表情ではなく、まるでゴミでも観るかのように冷たく殺気に満ちた顔をしている。


「悪いけど……奴らに関わった人間は一人残らず始末すると決めているの」


コレットは座り込んで震えることしかできない。


まずい……!!リゼは本気だ……!!

私は咄嗟にコレットの前に立って槍を掴む。


「待ってください!!お願いします!!どうか彼女を助けてください!!」


私の声などまるで聞こえていないかのように、リゼは私が掴んだままの槍をゆっくり引き寄せ、コレット心臓に狙いを定める。


「邪魔するならあなたも一緒に貫くけど?」


私は必死で槍を掴みながら制止する。


「皆様にご迷惑はお掛けしません!!仕事を!私達にも仕事を与えて下さい!!なんでもします!どうか彼女を……!!」


「ねぇリゼ落ち着いて!私からもお願い……」


サキは槍を掴む私の手に、自分の手を重ねる。


一分……?いや五分……。

数十秒だったかもしれない。


しばらくの沈黙の後、リゼは槍を下げて言った。


「本当になんでもするのね?」


勢いで言ってしまったのだが、背に腹は代えられない。私はその言葉に頷いた。


「わかった……」


「ありがとうございます!!」


「ただし……一つ条件があるわ」


リゼはそう言うと振り返って再び椅子に腰掛ける。


「あなた……仕事が欲しいと言ったわね……?」


「はい……」


「あなた達がうちの仕事を受けられる素質があるのか試させてもらう」


リゼのその言葉にサキが喰らいついた。


「リゼ!シルヴィアは私が保護するって言ってるじゃない!」


「そうね。でもその女を側に置くと言うなら話は別よ。いくらあなたと言えどもこの決定は覆らない」


「そんな……」


困惑するサキを諭す様に、私はサキに頷いた。


「ここグランハイム近郊に私達が所持している土地があるの。あなた達にはそこで入団試験を受けてもらう。出発は明朝の鐘の音と同刻。良いわね?」


「はい。分かりました」


「シルヴィア……」



私達はリゼの部屋を後にし宿へと戻ることになったのだが、その道中もサキはずっとうつむいて暗い表情のままだった。


「申し訳ありませんサキ……。せっかくの気遣いを不意にしてしまって……」


サキは黙って首を横に振った。

そして立ち止まって私に言う。


「スピナスフローレは基本的に一般の入団を受け付けていないの……」


「そうなのですか……?では特別に試験を設けていただいたということですか?」


サキは私の言葉にまた黙って首を横に振る。


「ううん。それでも門を叩いてくる人間はいる……。そういう人達に諦めてもらうために、入団試験があるの」


え……?じゃあそれって……?



「私も内容は知らない……。だけど……今まで入団試験に合格した人間は一人もいないらしいの」





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