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幼き恋から愛へ

「ここの景色も暫らくは見れないのね」


シャルロッテはお気に入りの場所に坐って庭園を眺めていた。

一面に咲き誇るコスモス。風に揺れる花弁を見つめ、静かに想い出にふける。


(一番最初にリカルド様に会ったのはここだったわね。とても美しい人が立っていたのに気が付いて。その人はずっとティーナ様を見つめていて。あの悲しそうな目が忘れられなくて)


立ち尽くすリカルドの姿を思い出して、シャルロッテは胸が痛くなった。どれだけティーナの事を思っていたのだろう。それでも、ティーナの幸せを想い、黙って立ち去ろうとしたリカルドに、シャルロッテは心惹かれたのだった。


「リカルドおじさまか。あれはちょっと言い過ぎてしまったし.......」


6年前はまだまだシャルロッテも子供だった。その目からみたリカルドはルベリオンとヘンドリックから比べれば幾分か年下で若いが、シャルロッテからみたら十分おじ様だったのだから。


「いや、君から見たら十分おじさんだったからな。無理もないさ」


突然聞こえた声に、シャルロッテは驚きで身体が固まった。


「あれから6年経った。あの時よりも、私はもっとおじさんになったが、それでも君はかまわないといってくれるのかな?」


シャルロッテが腰掛けている張り出した枝の根元に、リカルドが立っていた。6年前、一目見た時に美しい人と思ったが、年月を重ねてもなおその美しさは損なわれる事無く、年齢を重ねた分の大人の魅力も、増している様子だった。


「あの時でさえ、わたくしはリカルド様の妻になりたいと思ったのですもの。わたくしも年を重ねて大人になりました。リカルド様がさらにおじ様になられたとしても、つり合いはとれるでしょう?」


にっこり笑ってリカルドを見下ろすと、リカルドは目を細めてシャルロッテを見つめていた。


「あの時もはっきりと物を言う娘だと思ったが、年をとっても変わらないのだな。シャルロッテ嬢、あの時君は6年待てるのなら妻になると私に言った。正直、子供の戯言だと思った。気まぐれな子供が言った気まぐれな一言。いい大人の自分が、そんな子供の言った事を真に受けたりはしないとね。一年後、君の誕生日に届いた手紙を見ても、正直なにも思う事はなかった」


淡々と告げるリカルドの言葉が、シャルロッテの胸をツキンと刺した。


(分っていたわ。リカルド様はわたくしの事なんか眼中にもしていなかったって事。ただの子供の戯言って思っていた事も)


「2年後、また君の誕生日に届いた手紙。君の近況とルベリオンやフレデリカとの生活の様子。フレデリカが幸せにしている事にホッとした。私が狂わせてしまった彼女の人生が、漸く明るく光に満ちている事に感謝をした。君の事など少しも気になりはしていなかった」


(フレデリカお義母様の事を案じていたのも知った。フレデリカお義母様の事を書けば、手紙だけは読んでくれるだろうと、そう思ったのだから)


分っていたが、改めてリカルドの口からその言葉を聞くと、シャルロッテの心は痛んだ。


「3年後、君の誕生日に届いた手紙でラべリオンの誕生を本当だと確認した。フレデリカがルベリオンの子を身ごもって、公妃となった事は陰からの報告で聞いていはいたが、リシャール熱の後遺症の事もあったし、何かの間違いではないかと疑っていたからだ。しかし、君からの手紙でそれを確信して、私の心に長く刺さっていた棘がようやく抜けたんだ。それからだ。6年前に会った時に宣言した君の言葉に真剣に向き合ったのは。.....年齢も一回り違う。これから花開いて行く君と、衰えていく私。二人の女性を傷つけてしまった私が、自分の幸せを望んでも許されるのか。幾ら弟が生まれたからと言って、私に君が嫁ぐのをルベリオンが許すあろうか?ルベリオンと従姉弟のヘンドリックの妻はティファーナだ。果たしてベルガーライドがどう反応するだろうか?と。考えればきりがない程に、君を妻と迎える事は許される事ではないのではないかと、そう思ったよ。一年に一度届く君からの手紙が、それだけが君と私との繋がりだった」


下から見上げるリカルドの視線とシャルロッテの視線が絡み合う。


「18歳になるまで、それまで会わないと決めていた。もしかしたら、君の気持ちが変わるかもしれない。私と会った事で、君の未来を狭めたくはなかったから、敢えて会う事はしなかった。私から手紙に対して返事を出さなかった事も、同じだ。きっと、私からの返事がない事で傷ついた事もあったかもしれない。でも、会ってしまった事で取り返しのつかない、戻る事ができなくなるような事はどうしても避けたかったんだ。.....君の事を好きになってしまっていたから」


リカルドの告白が、シャルロッテの息を止める。


(リカルド様が、私の事を好きと言ってくれた?!)


会いたい会いたいと思い過ぎて、自分の望む様に言葉を聞き間違えてしまったかもしれない。シャルロッテは、息も出来なくなる程に高まる心臓の高まりに、赤らめた顔をしてリカルドを見つめていた。


「18歳まで会わないと決めたし、手紙を出す事もしないと決めた。だから、影をラストラスに遣わせて、君の日々の様子を知らせてくれるように命令した。ベルガーライドに行って、ティファーナに諸国の言語を習っていた君。自国へ戻ればフレデリカに淑女として学び、王妃となるべくあらゆる知識を吸収しようと努力している君の姿を知って、この日が来るのをどれだけ待ち望んでいたか、きっと君には理解できないかもしれない」


自嘲するリカルド。シャルロッテは、そんなリカルドを見て、声を荒げてしまった。


「リカルド様、何故、自分だけで物事を全て決めてしまわれるのですか?確かに、リカルド様だけの決断が必要な事もおありかとおもいますが、わたくしとリカルド様、2人の事柄ならば、わたくしにも決定する権利はあるのですよ?!6年経つまでに、わたくしの気持が替わってしまうかもしれない?そうなった時に、わたくしが困らない様にそれまで会う事はしない?見くびらないでくださいませ!わたくしはラストラス公国の公女。わたくしが望んだ事は全て叶うのです。わたくしがリカルド様の妻になりたいと望んだのです。そんなわたくしの心を疑うなんて、そんな事は許しません!!」


怒りで一気に言葉をはいたシャルロッテを見て、リカルドは目を丸くした。


(あぁ、またやってしまった!!!お父様にもお義母様にもあれだけ言われているのに!!)


淑女たるもの、どんな場面でも自分の気持ちを外へ出す事は許されないと、公女であれば、王妃となる事を望むのであれば、自分の気持ちを抑える事も必要と、ティーナからも言われていた。それなのに、一番肝心な時に、シャルロッテは、やらかしてしまったと、絶望的な気持ちになった


「くっ、くっ、くっ、くっ............。あはははははははははは」


目を丸くしたリカルドだったが、すぐに破顔し身体を折り曲げる様にして笑い出した。


「あははははははは。やっぱり変わってないな。どんなに美しい淑女然としても、根本は変わる訳ないな」


ヒーヒーと息も出来ない位笑っているリカルドを見て、シャルロッテは恥ずかしさから全身真っ赤になっていた。羞恥心からこれ以上赤面しようもない状態になっているシャルロッテを見て、リカルドは両手を広げて呼びかけた。


「おいで、シャルロッテ。そんな変わらない君の事が好きだ。素直な気持ちをぶつけてくれる君じゃないと、きっと私は幸せになる事は出来ない。もし、私と一緒に幸福になってもいいと思ってくれているのであれば、この腕の中に飛んでこい」


リカルドの告白が終わる前に、シャルロッテは枝からリカルドの腕の中に飛び込んだ。6年前の少女のシャルロッテであればそのまま受け止められたかもしれないが、18歳になっているシャルロッテ。リカルドは腕でシャルロッテを受け止めたものの、勢いに負けて腕の中に抱き締めたまま、2人で芝生の上を転がってしまった。芝生だらけになったお互いを見つめあう二人。


「ふっ、ふふふふふふ」

「はっ、あははははは」


抱き締めあったまま笑いあうシャルロッテとリカルドの声がいつのまにか止んで、幸せそうに口づけしあう二人の間に怒り狂ったルベリオンが駆け付けるまであと数分。


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