7.猛者の全力
「すごい勝負だ……まさかあいつがここまでやるとは」
二人の勝負を観ていたザビメロから自然と率直な言葉が出てくる。トップランカーと戦い、そして負けるのも良い経験と特に止めなかった彼だが、この展開になってからは五分の戦いを楽しむ観客と化していた。
「すっげー!なんか戦ってんなーって思ってたら、アピナさんがマジになってんじゃん」
「あの対戦相手の子ってだれ?ランカーにあんな子いた?」
「というか二人ともビギナーズデッキの内容で戦ってるな、どういうことだ?」
周囲からの声にザビメロが振り返ると、いつの間にか二人を囲むように観客が集まっており、リゼリアが初心者ということを知らない人々がランカーと戦う謎のプレイヤーのことで盛り上がっていた。
「いつの間にか……私たちの戦いに魅了された人々が集まっていますわね」
「え?あ!本当だ……」
「私はランカー……貴方のような素人に負けるという恥は晒せませんの、だから……完膚なきまでにぶっ潰しますわ!!」
アピナは叫び鋭い眼光でリゼリアを睨みながら、デッキから一枚、手札からも一枚のカードをプレートに叩きつけた。
「デッキから一枚!手札から一枚をチャージ!!そしてぇ!!EC二つを使い『魔素標べの盲目兵』を二体プレイ!!」
同じ兵士が三体、アピナの前に並ぶ。
「ここからは小細工無用!!最後のECを使い[交差する予言]を発動!!……これはいいですわねぇ、そのまま手札に加えますわ」
アピナはカードを叩きつけてデッキの一番上を捲る、そして内容を確認するとリゼリアを見てニタァと笑いそのまま手札に加えた。
「それではバトル、スキルを使ったことで『魔素標べの盲目兵』は攻撃が可能ですが、召喚されたターンには攻撃が出来ませんので……一体で攻撃ィ!!」
盲目兵の一体が突撃してリゼリアを槍で突く。
「ぐはあっ……!くっ!」
「ではこれにてターンエンド、では貴方のターンですわ」
「アピナの奴、リゼリアの手札が一枚しかないのを見て一気に畳み掛けるつもりか!」
ダメージを受けてリゼリアが怯むが、すぐにアピナを真っ直ぐ見据える、そんな彼女にアピナも影のかかる不適な笑みを返した。
第三ターン(リゼリア)
バイタル24
手札1 EC 0
盤面
無し
「私のターン!ドロー!」
リゼリアが引いたカードを見て「くっ……!」と小さく唸り、渋々手札に加える。
「私は、デッキから一枚チャージしてターンエンド」
第四ターン(アピナ)
バイタル15
手札2 EC 2
盤面
(ユニット)魔素標べの盲目兵 3
「あはっ!もう手詰まりのようですわね!では……私のターン!ドロー!デッキと手札からそれぞれ一枚チャージ!」
カードを引き、デッキと手札からそれぞれ一枚ずつチャージする。そして、勝利を確信した笑みを浮かべてカードをプレイする。
「私は再び『ギルドのホログラムターゲット』を召喚!更に[基本調査]を発動!カードを三枚引かせて貰いますわぁ!!」
アピナが勢いよく三枚ドローする。
「そしてそしてぇ!!スキルを使ったことによりぃ!三体の『魔素標べの盲目兵』は攻撃できるのですわぁ!!槍で串刺しにしてハリネズミにして差し上げなさい!!」
「くっ!!」
三体の盲目兵がリゼリアに突撃し、リゼリアはその衝撃で後方に吹っ飛んだ。
「がっ……ぐ……!?」
「くっ、やはり本気のランカーには手も足も出ないか……あんな無闇に突撃せず、ユニットを出していればまだ攻撃を防ぎ、勝機のある戦いが出来ていただろうに」
「私のターンは終了ですわ、あとは貴方の足掻きを見たあとに料理するだけ……ふふふ……オーホッホッホッ!!」
手の甲を頬に当てて高笑いをするアピナ、その姿は勝利を確信して疑っていなかった。
「…………へー、そんなお上品な笑い方する人って実在するんだね」
「おや……?チッ……」
吹っ飛び、うつ伏せになっていたリゼリアがボソッと呟きながら立ち上がる。まだ心の折れていないその顔を見たアピナは一瞬表情が険しくなり、小さく舌打ちをした。
第四ターン(リゼリア)
バイタル15
手札2 EC 1
盤面
無し
「私のターン!ドロー!くぅ……!デッキから一枚チャージしてターンエンド」
「リゼリアは一体何をしているんだ……?ユニットカードもスキルカードも出さずに……まさかあいつ……!」
第五ターン(アピナ)
バイタル15
手札3 EC 1
盤面
魔素標べの盲目兵 3
ギルドのホログラムターゲット 1
「いい加減諦めなさい!どうやっても勝ち筋などないでしょうに!」
「まだ……あと一回は受け切れる……!」
「……呆れましたわ、私のターン、ドロー、デッキから一枚、手札から二枚チャージ、そして[基本調査]を発動」
「私は!RECを二つ使い[拳闘の波動]を発動!自分の墓地にあるスキルの数だけ相手にダメージ!」
「無駄な足掻きを……!EC一つを使って[ごまかし]を発動!これはこのフィールドにいない扱いになる【霧散】をユニット一体にターンの終わりまで付与するスキル!そして対象は『ギルドのホログラムターゲット』!そして『ギルドのホログラムターゲット』の効果で対象を変更!!その攻撃は不発ですわ!」
ホログラムターゲットが透けて波動の塊がそれを貫通する、リゼリアの攻撃は無駄に終わってしまった。
「そのまま『魔素標べの盲目兵』三体で攻撃!ズタボロにおなりなさい!」
三体の盲目兵の再度の突撃、振りかぶった槍の斬撃が何度もリゼリアに襲いかかる。
「あああぁぁぁ!!」
「リゼリアーー!!」
斬撃を喰らい、絶叫するリゼリアを見て思わずザビメロが叫ぶ。流石に限界が来ていたのか、攻撃を受けたリゼリアが膝をついてしまった。
「自ら負けを認めることをサレンダーと言いますわ、というわけでサレンダーしなさい?身の程知らずさん」
「まだ……勝負は終わってない……」
リゼリアが地面を勢いよく殴り、その反動で立ち上がる。
「往生際が悪いですわ、もう私の勝利は揺るぎないと、何故分からないのです?」
「あはは……最後まで油断しない方がいいんじゃないの……?」
「減らず口を叩くのはおよしなさい、この状況からの逆転は不可能と言って差し支えありませんのに」
第五ターン(リゼリア)
バイタル6
手札2 EC1
盤面
無し
実際、アピナの言う通りだった、盤面の状況はアピナが絶対的に有利な上、リゼリアは足元すらおぼつかない状態だ。周囲の観衆の中にもアピナが優勢だという事実を疑う者はいなかった。
「私のターン、いや……まだ諦めない、このドローに全てをかける!」
リゼリアが右手で拳を作り、強く握りしめる……そして手を開きデッキの上に置いた。
「勝負は時の運って言うからね、負ける時もある……だけど、この勝負で勝利を引き寄せるのは私だっ!!ドロォォォ!!」
力強くカードを引き、そして……リゼリアがゆっくりと見る。
そのカードを見た時、少女の目がキラリと輝いた。