4.ランカーお嬢様登場
「ちょっと貴方、今の言葉は聞き捨てなりませんわね」
「ん?え、誰?ていうかデカ!」
二人の前に現れたのは、二人の従者を従えた見るからに偉いところのお嬢様と言った佇まいの、青いドレスで青色の髪に青い目の女性だった。リゼリアが驚くほどの長身で、ザビメロと並んだ際には彼よりも背丈が高かった。
「アピナか、おもちゃ呼ばわりされて気を悪くしたのかもしれないが、こいつは新参の流されモノなんだ、勘弁してやってくれ」
「随分と甘いですわねザビメロさん、定期的に発見される新規ギミックに頼るのではなく、単純なシナジーを強化するスタイルだけで結果を出し続けるクレバーな貴方が、こんな知性を感じない理由で始めようとする者を擁護するなんて……どういう風の吹き回しですの?」
アピナと呼ばれた女性はリゼリアを見下しつつ、リゼリアを庇うザビメロに苛立ちと失望を含んだ言葉を返す。
「お前はアルカネラを神聖視しすぎなんだ、あくまでこれは戦闘技術でかつ、単純な娯楽の一つでしかないことを理解しろ」
「そんなですからこのような世間知らずに舐められるのですよ?私達は解明者でこのアルカネラのトップランカー、毅然とした態度で接するべきですわ」
「なんでもいいけどさ、そんなに自信があるなら私と勝負しない?負けたらさっきのことは謝るからさ」
「な!?リゼリアお前!」
二人の会話を黙って聞いていたリゼリアが、横から割って入り挑戦的なセリフを放つ、リゼリアの突然の行動にザビメロも流石に驚き、彼女を見た。
「ほぉ〜……まともにルールも把握していないのに随分と大口を叩きますわね、そんな初心者未満の貴方がランカーの私と勝負して勝てるとでも?」
「ん?さっきから言ってるそのランカーってなに?」
「このコロニーではアルカネラの実力が順位付けられている、そこで上位に名を連ねる者をランカーと言うんだ」
「そういう事ですわ、つまりそんな実力者の私に勝てるとお思いで?」
「さあね、だから勝負しようって言ってんじゃん、結果を出すために勝負をするんだから」
アピナがどこか軽蔑にも似た目でリゼリアを見下ろす。リゼリアにとってはいきなり現れて勝手なことを言うアピナは鬱陶しい常連ヅラの厄介者で、アピナにとってはリゼリアはニワカの癖に軽口を叩くチンピラに見えたのだ。
そんな二人の対立は最早、第三者の言葉で止まるものではなかった。
「そうですか……ならば格の違いをお教えしませんといけませんわね」
そう言ってアピナが指を鳴らし、後ろの従者に何やら指示を出した。
「アピナ様、本当によろしいのですか?まだお身体の方が……」
「そうです、このような三下、我々にお任せ下されば相手をします」
メイドのような、シスターのような格好をし、目元をアイマスクで隠した従者がアピナに言葉を返す。
「大丈夫ですわ、この程度なら何の問題もありません」
そう言って振り返り、彼女が従者の方を向く。
「気を遣わせてしまったわね、ありがとう」
「と、とんでもございません!」
「アピナ様なら片手間でも倒せるはずです!デッキをどうぞ!」
アピナの感謝を聞いた従者の顔が赤くなる、そして片方の従者が顔を手を当て身悶え、もう片方の従者がデッキを乗せた盆を取り出してアピナに献上した。
「さて、貴方に私からのプレゼントです。」
そう言って従者を前に出すアピナ、従者の持つ盆中には八つのデッキが置かれている。
「それはビギナーズデッキ、カードプレイヤーに登録した解明者やこの区域に来た初心者に配布される入門用のデッキですわ」
「へー、これ全部くれるの?」
「勿論、ですが使うのはどれか一つ、それぞれ色ごとに分かれているのでお好きなのをお選びくださいませ」
差し出されたデッキを適当に掴み、リゼリアが中身を見る。
「確かに、色々見てるけどそれぞれカードの枠が赤だったり紫だったりするね、これ意味あんの?混ぜて使えないの?」
「勿論ちゃんと意味がありますわ、それぞれ色ごとに出来ることが違いますの、混ぜて使うことも出来ますが、二色なら二枚まで、三色なら一枚までしか手札からチャージ出来なくなりますので、初心者にはオススメ出来ませんわね。ちなみに基本的に四色以上ではデッキを組めないのでお気をつけてあそばせ」
「ふーん、チャージがどういう意味か知らないけど、とりあえずさっきザビメロに見せてもらったデッキと同じ……この、赤色のやつにするよ」
聞いておきながら適当な相槌を打ってデッキを眺めるリゼリア、そして中身を見ておきながら全く関係ない理由で赤のデッキを握った。
「はぁ〜……そんな理由で選んだら、後悔のある結末になるかもしれませんのに……まあいいですわ」
ため息を吐きながらアピナもデッキを握る。
「私もビギナーズデッキでお相手しますわ、そうでなければフェアでなく、実力を証明できませんもの」
「そ、じゃあザビメロにルール教えてもらうから、ちょっと待ってて」
「ルールは私が教えますわ、それよりもザビメロさんにデッキの改造をお願いした方がいいですわよ?」
「え?どういうこと?」
「ランカーがビギナーズデッキの内容を把握していないとお思いで?カードゲームは情報戦、これでは完全なフェアとは言えませんわ、なのでザビメロさんからカードを借りてデッキを弄ることをオススメします」
「確かにそうだな、リゼリアこっちに来い」
アピナの意見に同意したザビメロがリゼリアを呼ぶ、そしてバッグを開けて赤のカードを広げると適当な一枚をリゼリアに見せた。
「アピナは青の使い手だ、青は魔法を主軸にしているから【魔封じ】というキーワード能力を持つカードを入れるのがオススメだ」
「キーワード能力?」
「テキストに単語一つで表現されている能力のことだ、【魔封じ】なら魔法の対象にならない、【空戦】なら同じ【空戦】か【対空】を持つユニット以外にはブロックされなくなる」
「はあ、とりあえずカード見せてよ」
「……お前は少し礼儀をわきまえた方がいいぞ、俺はともかく他の連中と折り合いが悪くなるからな」
話もそこそこに二人はカードの吟味を始めた、しかしザビメロが数枚のカードを勧めてもリゼリアの反応はイマイチだ。
「はぁ……お前はなんだったら頷くんだ」
「そうは言ってもなんか微妙なんだよね、デッキの中身見てるともっと何か出来そうな……」
そう言ってカード群を眺めていたリゼリアが、ふとあるカードを見て手に取った。
「これ、どういう効果なの?」
「ああ、これはだな……」
ザビメロの説明を聞いたリゼリアが微かに笑う。
「そっか、いまいちよく分かってないけどこれが一番良い気がする」
「おい正気か?これは初心者が扱うカードじゃない、所謂ロマンカードってやつだぞ、とてもじゃないが……」
「いいからいいから、私に任せてって」
そういうとリゼリアは自分流にしたデッキを掴み、アピナと向かい合った。
「もういいですの?」
「うんバッチリ、待たせたね」
「では、互いにデッキを握り、『デワース』と言いなさい、そうすればアルカネラを展開出来る空間が発生しますわ」
「デワース?」
「アルカネラを作った世界の人たちの言葉で"決闘"という意味だそうですわ、つまりその言葉が戦いの合図ですの」
「分かった、いくよ」
「では、参りましょう」
「「デワース!」」
掛け声と共にアピナの背後から黒いプレートが現れ彼女の腰より少し高い位置で停止し、リゼリアの前にホログラムのテーブルが現れた。
今、戦いが始まる。