2.リゼリアの知らない文明
コロニーと呼ばれる場所は遠くで見るよりずっと巨大な壁に囲まれており、想像以上のスケールを誇るそれにリゼリアは少し圧倒されてしまっていた。
「到着だ、今から門を開けるぞ」
そう言うとザビメロは懐から板切れのような物を取り出す、見ればそれは掌サイズの機械のようだった。
「……へぇ、随分と複雑な機械を持ってるんだね」
「お前、これが端末だと分かるのか?」
「端末か何かは知らないけど大体は、それって機械の類でしょ?でもそんな札みたいな機械は私は知らないかも」
「う〜む……」
リゼリアの返答に何か返す訳でもなくザビメロは低く唸ると、門と思われる場所へと近づきその側の壁から生えている看板のような物に当てた。
「何してんの?」
「フロントディスプレイを通じてセキュリティにアクセスしているんだ、こうしないとコロニーには入れないからな」
「???……なに?どういうこと?」
質問に対し、謎の呪文を返すザビメロにリゼリアは首を傾げて聞き返す、そんな彼女の態度をザビメロは予想通りといった表情で眺めている。
「端末……ケータイと言った方がいいか、それを知らない上に今の単語にも反応しないあたり、お前はいわゆるマジョリティ文化の人間ではないようだな」
リゼリアの質問には返さずに、ザビメロは一人で納得したように語り出した。
「だが端末を見て察せるくらいには機械を知っている……お前の元いた世界の文化系統は少々特殊なようだ」
そうザビメロが喋っていると、フロントディスプレイから『認証しました、出入り口が開きますので離れていてください』と声が発せられ、それとほぼ同時に人が通る用と思われる小さな門が開いた。
「ゲートが開いたぞ、説明は組合に入ってからする、とりあえずついて来い」
そう言ってさっさと先に行くザビメロに不信感を募らせながらも、他にあてのないリゼリアは渋々ついて行くしかなった。
………………
ある程度コロニーの中を進んでいくと、街に暮らす人々がポツポツと見え始め、中心部ともなるとどこもかしこも人で溢れ大変賑わっていた。
「すごい人の数……入ってすぐには全然人がいなかったのに」
「俺たちが入ってきた方面はあまり人の出入りがないからな」
「それに人じゃないのもいるね、どういうこと?」
見れば人の群れの中には、竜のような翼と尻尾を持つものや、体色の違うもの、毛むくじゃらのものなど明らかに人間とは違うものがいた。
「それについても組合に着いてから説明する」
「そればっかりだね、そもそも組合ってなに?」
「それも着いてから説明する」
「…………」
「さ、着いたぞ、とりあえず中に入れ」
リゼリアの中でザビメロへの不満が爆発しそうになった時、ザビメロが足を止めてリゼリアの方を見た。
組合と呼ばれる場所は、遠くから見た時に見えたあの巨大なタワーのことだった。遠方でも存在感を放っていたそれは、近くで見上げると頂上が高すぎて見えないほどだった。
「すごい場所だね、ここでなにするの?」
「この世界で居場所を作るにはまず組合で証を発行する必要がある、でなければなにも始まらん」
「そういうことなら分かったよ」
そう言ってリゼリアが入り口に立つと、扉が自動で開いて彼女を迎え入れる。
「自動ドアなんて珍しいね、私初めて通るかも」
内心ワクワクしながらリゼリアがドアをくぐると……
突然柵が上から降りてきてリゼリアを取り囲んだ。
「え……!なによこれ!?」
逃げ場が無くなり、狼狽えるリゼリアの全身を何か光のようなものがくまなく照らしていく。
『未登録の生体を認証、危険物ナシ、登録希望者は奥のカウンターへお進みください』
どこからともなくそんな声が響き、リゼリアを囲う柵が無くなる。
「おい、次は俺の番だ、さっさと先に行け」
「…………私を騙したの?」
先ほどのイベントに触れもせず、ザビメロはリゼリアを前に行かせようとする。そんな彼の態度に、リゼリアはゆっくりと振り向きながら怒りの声を出した。
「誤解を恐れず言うならその通りだ、お前が人間に擬態した化け物だったらたまったものじゃないからな、だが問題はなかっただろう?」
「そういうことじゃ……!」
「はいはいストーップ!!」
ザビメロの勝手な物言いにリゼリアが反発しようとした時、いきなり二人の間に翡翠色の髪をツーサイドアップにした少女が割って入ってくる。
「ダメですよギルド内での喧嘩は!みんな仲良くバトルがアルカネラコロニーの信条なんですから!」
「いきなり誰よあんた、邪魔しないでくれる?」
「わたしはこの解明者組合 アルカネラ支部の職員で名前を萌丹歌と言います!とりあえず落ち着いてください!」
萌丹歌と名乗る騒がしい少女に落ち着けと言われ、リゼリアは気が散って怒りを削がれてしまった。
「私はリゼリア、別に喧嘩じゃないよ、ただこいつのやってることが勝手だから抗議してるだけ」
「この世界に初めて来た人には抜き打ちで検査をするように義務づけられているんです!ザビメロさんは義務を果たしただけなので許してあげてください!この通りです!だからここまで下がってください!ザビメロさんが検査出来ないので!」
「はぁ〜……はいはい、分かったよ」
事情を捲し立てながら頭を下げる少女にどうでも良くなったのか、リゼリアは適当に返事をして、彼女の指示する位置まで下がる。
そして、今度はザビメロが施設に入ると再び柵が降りてきて全身を光がくまなく照らした。
『カードプレイヤーのザビメロ様、認証完了、危険物ナシ、お疲れ様です』
「と、こんなふうに皆さんこのセンサーでの検査は受けるんです、だからご容赦くださいね?ザビメロさんももう少し言い方は考えてください」
「分かってるって……」
「すまない、どうしても喋るのは苦手なんだ」
萠丹歌に制されて大人しくなったは二人はそのまま自分たちより小さい少女に連れられて奥にある受付カウンターに向かった。