8.勝ちへの連撃、そして……
「き、きたぁ!待たせないでよね!」
目が強く輝き、溌剌とカードを掴むリゼリア、その顔は希望に溢れている。
「私はデッキと手札からそれぞれ一枚づつチャージ!そして、ECを三つ使って[残火烈道]を発動!」
「なんですって!何故そんなカードを!」
リゼリアが力強く宣言したカード、それを見たアピナの表情はランカーの誇りを心掛けていた者とは思えないほど滑稽だった。
しかしその顔を見ていた者など誰一人としていなかった、リゼリアの出したカード、一般的に使われているスタンダードなデッキタイプでは中々見かけないそのカードの出現に、皆の視線が集中していたのだ。
「そりゃあ、これに勝ちへの道が見えたからよ!もう一つ言うなら、『何故そんなカードを!』ってあんたに言わせる為かな!」
リゼリアがカードをプレイすると、墓地が赤く光り出す。
「このカードは追加でグロウポイントを5払う必要がある、今払ったECもそのまま使えるから実質3だけどね」
グロウゾーンから五枚のカードがデッキの下に戻る、そして赤く光りだした墓地にリゼリアが手をかけた。
「そしてこのカードの効果は、ECの代わりにグロウポイントを使って墓地のカードをプレイできる!使ったカードは除外されるから再利用出来ないらしいけど、あんたをぶっ飛ばすだけなら問題ないね!」
墓地から一枚カードを取りフィールドに置く、するとグロウゾーンから二枚のカードがデッキの下に戻った。
「まずは[拳闘の波動]!相手フィールドのプレイヤーかユニット一体に墓地のカードの枚数分のダメージを与える!」
「ぐうっ……!『ギルドのホログラムターゲット』の効果発動!波動の対象をこれに移します!」
「まだまだぁ!お次は[焼けた投擲球]を発動!」
「RECを含む三つを使って[流される信仰]を発動!これはプレイヤー一人とユニットを一体を選択してそのユニットに【停滞】を付与した状態で指定したプレイヤーのコントロールに移すカード!選択するのは『ギルドのホログラムターゲット』とリゼリア!これで互いの場にユニットがいることになりダメージは3に減りますわ!」
「でも!まだ!止まらない![焼けた投擲球]をもう一発!」
レスポンスブロックが終了し、カードの処理が始まる、まず一発目の投擲球が発射され、パセネの鳩尾にヒットする。
「がはっ!」
そしてホログラムターゲットがリゼリアのフィールドに移動して、再び投擲球が発射され今度は頬にめり込む。
「おごっ!?」
最後に拳闘の波動だが……これは相手フィールドを参照するカードのため、リゼリアのフィールドにホログラムターゲットが移動して対象が消えてしまったが故に不発となってしまった。
「でもまだある!お次は[尋問用電撃]!これは単純に相手のプレイヤーかユニットを指定してそれに3のダメージを与える!今度こそくらえ!」
地面を走る電撃が、ふらついて尻もちをついたアピナの地面に接地している尻と足裏から感電してダメージを負わせる。
「あがががぁ!ががぎご!?」
「そして、最後に[ラッシュ]を発動!トドメだぁ!!」
リゼリアの前に複数の拳が現れ、アピナに飛んでいく。
「く、くうっ!?そ、そんな……私はランカーのはず……優雅な勝利者で、厳格な見本となるはずの私が、こんな……!がごぉっ!?」
無数の拳撃がアピナをタコ殴りにする、その中には電撃や鉄球による攻撃も含まれていた。
最後に渾身のアッパーが入り、アピナが宙を舞った。
「私の……勝ちだ!」
『勝者、リゼリア』
システムボイスが決着を告げると、観客から歓声が上がる。それほどドラマのあるバトルだったのだ。
「「アピナ様!」」
従者二人がすぐさまアピナに介抱する。アッパーを喰らってふっとび、地面に顔から落ちていながらアピナの顔や服はかすれているくらいですんでいるようだ。
「うう……」
地面に這いつくばるアピナの側までリゼリアが歩み寄る。見下ろす彼女の顔をアピナは睨むが、すぐに拳を握りながら目を伏せた。
「くっ……私の負けですわ、まさかあのような戦法を取るとは……」
そう言ってアピナが立ち上がり、ドレスを軽く払うとリゼリアを一瞥する。そんな彼女にリゼリアが右手を差し出した。
「……なんですの?」
「楽しかったよ、ありがとう」
その言葉に表情が険しくなったアピナが、リゼリアの手を払う。
「図に乗らないでくださいまし、勝てたからそのような顔が出来るのですわ。それと、今回油断してあのカードの存在を考慮出来ていなかっただけで、普段の私なら問題なく勝てていましたわ」
それだけ言ってアピナが背を向ける。
「次に戦う時は私が必ず勝ちますわ、覚悟しておいてくださいませ」
従者に支えられながら、アピナが立ち去る。その姿に観衆は誰も何も言わなかった。
「プライドを傷つけられるとアピナはああなってしまう、そうなると誰がなに言っても聞かなくなるから困ったものだ」
「ザビメロ……」
いつの間にかリゼリアの横にはザビメロが立っており、ため息混じりにアピナの姿を見送っている。
「それよりお前すごいじゃないか、全くの初心者があれだけ出来るとは俺も予想出来なかったぞ」
「え?そうなの?」
「そうだ、ランカーのアピナを下せたんだし、お前にはセンスがあるんだろう、どうだ?なってみないか、アルカネラのカードプレイヤーに」
「……ふふふ、そんなに褒められるならなってあげてもいいかな」
そんな静かに話す二人をアピナが去ったあとの観衆が見逃す筈もなく、あっという間に外野が取り囲む。
「スッゲー!アンタ一体何者だぁ!?」「ザビメロさん!こんな秘蔵っ子いたなんて聞いてないですよ!」「次は私と一戦しませんか!?」
「うわわっ!?いきなりなんなの!?」
「ははっ……こりゃしばらく帰れないな」
リゼリアの騒々しい初日は、バトルに魅了された者たちに揉みくちゃにされて終わった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品、バトル内容はトランプを使って把握しながらの執筆なので、更新に時間がかかるかもしれません。