表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

24.おっさん、フロッガーに会う

「あのー、凛さん? いい加減に諦めた方が良いと思いますよ」


「私はコボルトと散歩するもん!」


 あれから凛はコボルトに鞭を絡ませようとした瞬間に、自ら命を絶って素材に生まれ変わっていた。


 少し可哀想に感じた俺は凛がコボルトを探すのに合わせて、わざとコボルトを遠ざけて逃していた。


 ちなみにスマホを見ると、新着コメント数に溢れていたが見るのはやめておいた。


 ドローンは俺を追いかけるように設定してある。


 ってことは俺の背後から撮ると、俺の目線で凛とのダンジョン探索が生配信されているのだ。


 きっと鞭を使って、笑顔でコボルトを引きずって走っているところもしっかり配信されているのだろう。


 全世界の視聴者に凛の良さを伝える前に、あの姿を見せることになるとは思いもしなかった。


 ただ、本人は楽しそうだからよかった。


 凛が何を言われても、俺はいつでも味方でいるつもりだ。


「次の階層にも可愛い魔物がいるかもしれないよ」


 一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに怪しい目で俺を見ている。


 特に何かやったわけでもないのに、なぜこんな扱いを受けているのだろうか。


「んー、有馬さんすぐに嘘をつくから」


「俺って嘘ついたことあるか?」


「コボルトキング」


 そういえばコボルトキングの存在を教えた時に、凛はすぐに会える存在だと思っていたことがある。


 それを考えると違う魔物に会えると言わない方が良いだろう。


「あの時はすまなかった」


「もういいですよ。階層のレベルが上がると会える確率は上がるんですよね?」


「ああ」


 階層が変わるとその分強い魔物がゴロゴロと出てくる。


 金色ランクから入れる階層は、ハイコボルトやハイオークがその辺に溢れるほどいると聞いたことがある。


 ひょっとしたら、凛の願いを叶うにはランクを上げた方が早いのかもしれない。


「なら次に行きましょうか」


 俺達は次の階層に向かって再び歩き出した。


 隠れていたコボルト達は、ゾロゾロと出てきては背後で嬉しそうに喜んでいた。


 そんなに凛が怖かったのだろう。


「あっ、素材の回収忘れてました」


「えっ!?」


 凛は再び後ろを振り向くと、コボルト達と目が合っていた。


 背後からは見ていなくても、状況がわかるほど凛からの熱気とコボルト達の口がガクガクと奏でる音が聞こえてくる。


 もはやその音は細かいリズムを刻むドラムのようだ。


「有馬行ってきます」

 

「ああ」


 そのまま振り返らないように、凛が帰ってくるのを待つことにした。


 今きっと振り返れば、凛の嬉しそうな顔とコボルトの悲惨な表情が配信されてしまう。


 ただ、聞こえてくるのは悲痛な声で鳴くコボルトの声だった。





「はぁー、満足できるほど散歩できました」


 しばらくすると凛は戻ってきた。


 もはやそれは散歩という名の拷問だろう。


 しかも、犬の散歩をするというよりは自分の散歩のような気がする。


 周囲に魔物の反応はないため、きっとコボルトは全滅した。


 守れなくてすまない。


 次の階層に移動すると、周囲は薄暗く泥沼があるダンジョンに切り替わった。


 湿度も高めなのか、汗がじんわりと溢れてくる。


「ここはどんな魔物が出るんですか?」


「あー、ここはフロッガーっていうカエルのような魔物が出てくるぞ」


「カエルですか?」


 凛はカエルを見たことがないのだろうか。


 ちょうど近くに泥沼があったため、俺はそこに立ってフロッガーを待つ。


 やつらは泥沼に生息して、獲物である探索者がくるのを待っている。


 こいつらと戦いたくないのであれば、泥沼を避けていればすぐに次の階層に移動できる。


 しばらく待っていると、泥沼から空気がポコポコと出てきた。


 あとはひょっこり顔を出すのを待つだけだ。


「散歩できますかね?」


「いやー、それは無理だと思うぞ」


 鈍い音と共に泥沼から何かが現れた。


「カエルです」


「へっ……」


「さすがにこいつの散歩はしたくないだろ?」


 泥沼から出てきたのはカエルのような顔をした、五十代半ばのおじさんだった。

「大変申し訳ないんですが、ガチャを引くには★★★★★が必要で……」


「それじゃあもらえないわよ?」


「ならどうすれば?」


「下僕達、私のために★を課金しなさい?」


 凛はアーティファクトである鞭を振り回した。


「凛がどんどん変わっていく……お前達のせいだからな! レビューも書けよ」


 俺は配信を終えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ