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騙り部はやさしい嘘しかつかない  作者: 川住河住
第二章 神の左手悪魔の右手
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第14話 逃走と闘争

「おい! お前らそこを動くな!」


 怒鳴り声が夜の街に轟く。

 声のする方を向けば見るからにガラの悪そうな男が立っていた。すぐ後ろには仲間らしき男が二人もいる。髪を派手な色に染めたり逆立てたりしている。

 人を見かけで判断してはいけないと教えられているが、一目で不良だとわかる三人組だ。わざとらしく肩で風を切って歩く姿から怒っているのは明らかだ。


「待てぇ! おい! コラァ!」


 男たちが叫ぶと同時に走ってくる。彼らの視線の先をたどってようやく気がついた。


 薬を持った女性が逃げていた。腕を大きく振って全速力で走っている。

 

 僕と師匠はどうすべきだろう。この場から去るべきか、留まるべきか。


「誠実! 後は任せた!」

「えぇ! ちょっと! 師匠!」


 呼び止めるよりも先に走り出していた。彼女はそのまま夜の街に溶け込んでいく。


 仕方ない。

 人探しはあちらに任せて、こちらはなんとかしよう。


「あの、すみません……」

「なんだぁてめぇ!」

「どけぇ!」

「殺すぞおらぁ!」


 どうやら人間の言葉を理解していないらしい。


「めんどくさいなぁ」


 そうこうしているうちに強面こわもての男たちが走ってくる。あと数メートルでぶつかってしまう。しかし、師匠に任されたのだからそう簡単に退くわけにはいかない。


「おらぁ!」


 気がつけば金髪の男が目の前に立ち、右拳を振り上げて殴りかかってきていた。


「はっ」


 小さく息を吐き出しながら相手の右腕を払いのける。


「コラァ! 避けんじゃねぇ!」

「いや、当たったら痛いじゃないですか」

「うるせぇ! てめぇは黙って殴られろ!」


 当たり前のことを言っただけなのに、金髪男は怒鳴り散らしながら拳を振り回す。


 次々に飛んでくる相手の拳を手でさばいたり腕で防いだりしてなんとか避ける。

 

 秋功学園が文武両道で助かった。これも授業でみっちりやらされたおかげだ。実戦は初めてだけれど、不思議と恐怖や不安といった感情はまったくない。


 それどころか興奮する。

 いつの間にか言い表しようのない高揚感が僕を支配していた。

 体が熱くなって心の奥底から快感がわき上がってくるようだった。

 なんだか知らないが、とても気持ちがいい。


「おい! お前らもやっちまえ!」


 金髪男が仲間に声をかける。遅れてやってきた男たちも拳を固めて向かってくる。


「クソ野郎!」

「死ねぇ!」


 大柄な男と髪を逆立てた男が息の合ったコンビネーションで顔面を的確に狙う。

 一方は避けられたけれど、もう一方は避けられないとわかったので肩で受ける。

 鋭い痛みが一瞬走る。だが大したダメージではないのですぐに距離をとった。


 どうする。

 こちらからも攻撃するしかないのか。

 僕は右手を固く握り込む。


「警察だー! 警察が来たぞー!」


 その時、大きくてよく通る声がどこかで聞こえてきた。

 不良達は舌打ちして僕を睨みつけると、すぐに走り去っていった。


「大丈夫? ケガはない?」


 気がつけば目の前に師匠の顔があった。


「……はい。でもすみません。なにも聞き出せませんでした」

「気にしないでいいよ。もう遅いから帰ろうか」


 師匠は先に立って歩き始める。腰まで伸びた黒髪が小さく揺れている。


「ちょうだい」


 急にどこからか幼い子どもの声が聞こえた。

 辺りを見まわすが、誰もいない。


 街のスピーカーから流れる時報を聞き間違えたのかもしれない。


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