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21 秘密の暴露大会

 

「キールくん、それでいつ、誰に、何を飲まされたの?」

『飲まされたんじゃなくて、甘い葉っぱを最後の試合前にもらって、食べたんだよ』


「甘い葉っぱ? それはいつも相棒の騎士さんから貰う葉っぱなの?」

『違うよ。相棒のゲイリーからじゃない。でも固い帽子で顔が隠れてたから、誰かわかんない。それに初めて食べた葉っぱだった!』



 私がそこまで聞いた話をみんなに伝えると、一番に反応したのは相棒のゲイリーさんだった。興奮しているのか、騎士団長を押しのけて前に出てきた。



「だからいつも俺から貰ったもの以外は、食べるなって言ってるだろ! おまえはいっつも落ちてる物をバカスカ食べて、腹壊すんだから!」

『だって、すっごく甘くていい匂いだったから! それにその男の匂いも嗅いだことあったし!』


「えっ? 知ってる人だったの?」

『う〜ん? 竜気の匂いを嗅げばわかると思う』



 その事実をあわてて団長さんに伝えると、ライラさんが落とした竜石を嗅いでもらうことになった。しばらくフンフンと石を嗅いだあと、キールくんはしっぽをピンと立てた。



『これ! この竜気だよ!』



 その答えは、私が伝えるまでもなかったらしい。団長始め騎士たちは、みんなガッカリとした表情になっている。すると先ほど団長さんに命令を受けていた騎士があわてた様子で戻ってきて、追い打ちをかけるような情報を報告した。



「やはり寮にギークがいません! 貴重品や予備の竜石もすべて持ち出しているようです!」

「そうか。妹に自分の竜石を渡したか。きっと甲冑も一体、紛失しているだろうな……」



 試合に出る人以外は会場の警備をしていたらしく、そういった騎士たちは甲冑を身に着けていたという。だから顔をかぶとで隠して、竜のいる控えの場に出入りすることも可能だったのだろう。



 それでも仲間から犯人が出たこと、相棒である竜を危険にさらしたことなどで、騎士たちはみんな落ち込んでいる。するとその様子を見て、竜王様が活を入れるように大声で話し始めた。



「いいかげんにしないか! 団長も騎士たちも、気持ちを切り替えろ! 冷静な心でいないと、また問題が起こるぞ!」



 そう言うと竜王様のあたりから、ビュウと強い風が吹いた。するとその風を浴びるように、キールくんが飛び上がり、嬉しそうに口を開けている。



『わあ〜竜王様、すっごい威圧! 気持ちいいなぁ〜』

『キール! みんな真剣なんだから、黙ってろって!』



 どうやらこの二頭、ちょっとヤンチャなキールくんと、お世話係のヒューゴくんということらしい。しかし二人のそのワチャワチャと絡む様子に、騎士さんたちも普段の気持ちを取り戻したようだ。



 すると空中をクルクル飛び回りながら、キールくんが私に話しかけてきた。



『ねえ、ねえ、それで君の能力を認めさせるのは、しなくていいの?』

「う〜ん、そうね。みんな信じてくれてるなら、わざわざ秘密を暴露しなくても良さそうな……」



 すると私の言葉を聞いて、話の内容がわかったのだろう。シリルさんがあわてて止めにはいった。



「ダメですよ! せっかく竜の言葉がわかるなら、聞いておかないと! それに迷い人としての能力ですから、公式文書として残させてください!」



 そうでした。シリルさんは私の日本語も書き残しておきたいと言っているくらいだ。竜とのやり取りなんて、もっと欲しいだろう。竜王様や団長さんも同じようにうなずいている。



「まあ、それもそうだな」

「私たち騎士からもお願いします」



 するとその言葉を聞いたキールくんは「ヤッタ!」と喜ぶと、私の隣に座った。目がキラキラと輝いていて、相棒の秘密を暴露したくてしょうがないって顔だ。ちなみにその相棒のゲイリーさんは、ハラハラした顔でキールくんが話すのを待っている。



『じゃあ話すね! あのね〜 僕の相棒のゲイリーは、失恋してばっかりなんだ! 今は街の酒場の売り子に恋してるんだって。でもどうせまたフラれるよ。グズグズして声すらかけないんだからさ〜』

「…………」



(これ、どうやって伝えよう……)



 秘密としては、微笑ましい気もするけれど、ゲイリーさんにとっては大恥だ。皆の前で言うのは(こく)じゃないだろうか? 私はなんでもない様なフリをして、竜王様のほうを振り返った。



「あの、まずは相棒の彼にだけ、お伝えしても?」

「なに? そんなに言いにくいことなのか?」

「……たぶん」



 私のその言葉に集まっている騎士たちは、一気に青ざめ始めた。やっぱり何かうしろめたい事があるのかな、と思っていると、団長さんが「おまえら何を隠しているんだ?」とお怒りだ。それを見て竜王様も「隠さなくてよし! この場で言っていいぞ」と私に秘密暴露の許可を出してきた。



(そうよね! こういう事はサッと言っちゃえばいいのかも!)



 私が黙っていると、よけいに意味深で重要な秘密みたいに思われてしまいそうだ。そう思った私は、明るい調子でさっき聞いたゲイリーさんの秘密を、皆の前で話し始めた。すると。



「あっはははは! ゲイリーまたかよ!」

「おまえ、相棒にまで馬鹿にされてるじゃないか!」

「こんな秘密なら、みんなの竜からも聞いてみたいぜ!」



 内心戸惑いながら話していた私の気持ちを吹き飛ばすように、聞いていた騎士たちは大笑いし始めた。竜王様も団長さんも、リディアさんたちまで笑っている。あわてているのは、当の暴露されたゲイリーさんだけだ。



「な、なな、なんでそれを! あっ! 俺がいつも竜舎で愚痴ってるからか?」

『そうだよ〜 今朝も、昨日の夜その女の子をデートに誘えなくて、食べきれないほど注文したって愚痴ってた!』

「あ、あの、今朝も昨日の夜デートに誘えなくて愚痴を言ってたと」

「バ、バカ! 全部バラすなよ!」



 それでも不思議とゲイリーさんは嬉しそうだ。「もう言うなよ」なんて言ってキールくんの口を手で押さえてるけど、キールくんのしっぽは、嬉しそうにブンブン揺れている。



 するとさっきまで尻込みしていた他の騎士たちも、その楽しそうなやり取りを見て、抵抗がなくなったみたいだ。我も我もと自分の相棒の竜を連れてきて、私の前に列を作り始めてしまった。



「迷い人様! お願いします!」

「わ、わかりました!」



(とりあえずこれって、みんなに信用してもらうチャンスよね!)



 私は「よし!」と気合いを入れ、次々と竜たちの言葉を通訳していった。



『竜舎の道具箱にヘソクリを隠してるよ〜』

「げ! なんでそれを!」


『最近、あなた太ってきてる! ぜったい規定体重より超えてるはずよ! 重いから痩せて!』

「俺が乗ると文句を言うと思ってたら、そういう意味だったのか! 夜中の飯を減らさなくては……」


『この前、団長さんのマントを勝手に着て、未来の団長ごっこしてた!』

「おまえ……何をやってるんだ?」

「すみません! ちょっとだけ夢を見たかったんです!」



 次々と私が竜たちの言葉を通訳していくと、騎士たちは笑ったり恥ずかしがったりと大騒ぎだ。それでも何を言っているかわかったことで、より仲良くなったみたい。竜たちも相棒の騎士に甘えるように、頭をこすりつけて喜んでいる。



(いいな〜私も竜に乗ってみたい。それに私だけの相棒の竜がいたら楽しそう……)



 私にプロポーズしてきたキールくんだって、今はもう相棒のゲイリーさんをからかうのに夢中で、こっちに帰ってこない。そんな様子を見ていると、せっかく異世界で竜がいるんだから私にも……と思ってしまうのだが、そこまで考えて、ハッとある事を思い出した。



(そうだ! ドタバタして忘れてたけど、お腹にいる竜王の卵君はどうしてるんだろう?)



 空中から落ちる寸前までは、声を出していた。しかし目覚めてからというもの、声はおろか、お腹をポコポコと叩く感触すらない。



(一人になって話しかけてみなきゃ!)



 今さらだけど、あの時必死になって私を呼んでいた声を思い出して苦しくなってくる。私はあわてて竜王様のもとに行き、部屋に帰らせてもらえるよう頼んだ。



「あの、私そろそろ、着替えをしたいのです!」

「ああ! そうだな! リディア!」



 リディアさんを呼ぶと、竜王様は自分の着ていたマントを私の肩にかけた。そのまま首にある留め具をパチンとつけると、頭を優しく撫で始める。



「今日は大変だったな。ゆっくり休め」

「ありがとうございます」



 私の着ていたドレスは埃まみれで、ボロボロだ。これで王宮を歩くのはちょっと恥ずかしいと思っていたから、竜王様の気遣いに胸の奥が甘くしびれるような気持ちになる。



「竜王様、警備の者から報告が入っておりますから、こちらに」

「ああ、そうか。リディア、リコを頼んだぞ」

「はい」



 竜王様やシリルさんも、これからまた仕事みたいだ。ううん。今回の事件でもっと増えたんだろうな。私もこれ以上二人の仕事を増やさないように、迷惑をかけないようにしなくっちゃ。



 しかしそこからも、けっこうドタバタだった。私を狙った者がいるということで、王族クラスの要人しか通れない裏通路を歩くことになった。これがけっこう複雑で、遠かった。



 またリディアさんが万が一のことを考え、私の侍女部屋も念入りに調べることになり、ようやく部屋に入れたのはあれから一時間以上経った頃だった。



(それにしても、こんなに時間が経ってるのに、まだ卵くんが反応しないなんて……)



 身支度を整え、一人っきりになってようやく、私は竜王の卵に向かって話しかける。



「卵くん。ねえ卵くん、そこにいるの? 大丈夫?」



 しかし何度話しかけても、卵くんは返事をしなかった。


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