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#79 : 仲間はずれ。

「お待たせしましたー!」

「お疲れー!」


 すっかり機嫌を直した俺は、お待ちかねの沙埜ちゃん登場で更に機嫌が良くなった。


「いつものビールが無いのが残念ですけど」

 流石にこう言う店でメキシコビールは置かないだろう。

「んーっと、カシスウーロン下さい!」

「少々お待ち下さーい」

「沙埜ちゃんがカシウーなんて珍しいね?」

「アレが無い時はインスピで選んじゃう!」

 直感型なのか。服とかアクセとかセンス良いもんな。


「お疲れー!」

 沙埜ちゃんと二度目の乾杯をする。

「ん…?カシス、高いヤツの方だ!」

 一口飲んだだけでメーカーがわかるのか。味覚が鋭いのだろうな。俺でもウーロン茶で混ぜられたら自信無いぞ…。


「だとしたらこの値段って割安かもね?」

「ですよねー!?ウチより安いもん!」

 沙埜ちゃんのお店は決してぼったくりでは無い。大衆居酒屋に比べたら、の値段だ。それには空間演出や質の良い接客も代金として含まれている。

 昔は安ければ安いほど得した気分になってそう言う店しか行かなかったが、最近は質を求めるようになった。年食ったよなぁ。


「祝日前でこの盛況ぶり、ウカウカしてらんない…!」

 珍しく?沙埜ちゃんが仕事モードだ。コレはコレで新鮮味があって良いな。オジさん、ワクワクしてきたぞ!


「串盛りお待たせしましたー」

 トンッと皿に盛られた串焼きが湯気を立て、香ばしい香りを撒き散らしている。ゴクリ…。コレはとてもハラが減るタイプだ。本能が早くしろと訴える。


「んーっ!オイシイ!」

「うん、美味い!」

 近年稀に見る美味い焼き鳥だ。大抵はガスで焼くから燃焼した匂いと脂臭さが残る。ガスだと身に火が通りづらいので、どうしても過燃焼気味で身がパサついてしまう。

 その点、炭火でじっくり焼き上げると匂いも余分な脂も付かず、遠赤外線で中まで火が通るから、素材本来の旨味とジューシーな柔らかさが堪能できる。


 炭の火力を均等に維持するには炭の組み方・並べ方を知らないと出来ない。適当に並べた炭では火力にバラつきが出て、炎が上がって焦げ臭くなるだけだ。

 いつもは塩派だけどこりゃあタレも行っとかないとダメだな?久しぶりにワクテカしてきた。


「小畠さんはもう夜に戻らないんですか?」

「やりたいけど現実的に、ね」

 そりゃあ俺の天職だと思っている。好きな酒でオマンマが喰えるなんて。しかし、この歳だと自分で店を始めるとしてもピーピーなのは目に見えている。


 ここの焼き鳥屋も炭火だから美味いワケでなく、仕入れの鳥から鮮度の良いものを使っているから相乗して美味いのだろう。安くて良い素材を入手できるルートがあるはずだ。

 価格設定も安く原価率で計算しても儲けは多くはない。なので人件費を削ったり、不要なサイドメニューを排除しロスを減らし、客単価が低い分、席の回転数を考慮した接客、早朝まで開けて利益を出しているのだろう。

 取引先、顧客ニーズ、市場リサーチ、あれやこれやと今の俺にはしんどくて無理だ。


「小畠さんがお店やってくれたら毎日行っちゃうなー」

「またまたぁ」

 冗談を軽く()なして鳥モモを頬張る。美味い。

「…ホンキです、よ」

「ほへ?」

 鳥モモを含んだまま沙埜ちゃんを見ると赤くなってる。釣られた俺も赤くなる。なんだコレ?破壊力あるな…。


「こないだ可愛いって言ってくれたのにー!」

 ちょっぴりむくれながらカシウーを飲む。か、可愛いよ。確かに。オジサン ウソ ツカナイ。


「…今日、皆んなと飲もうと思って誘ったら、瑠海姉ェがパスって。ナオも用事があるって。なんかおかしいなぁと思って、ナオに電話したんです」

 ギュッ…と心臓が締められるような苦しさを覚える。その先は、ダメだ。沙埜ちゃんの口から聞きたくない。


「クチ割らなかったんですけど、絶対に隠し事してるって。私だけ仲間はずれにされた気持ちだったんですけど、小畠さんが来てくれるってなってうれしくて」

 なお君はこの間のことを言わなかったのか。流石だ。疑ってごめんと心で手を合わせる。また赤くなる前にドリンクを頼む。


「あの二人からしたらまだ子供なんですかね?それはそれでサミシイなぁ」

 うん。そんな表情は年相応で可愛らしさがある。幼い、と言えば語弊があるが、俺から見たら子供と言っても良い年齢だ。

「俺が言うのも何だけどさ、慌てて大人にならなくても良いんだよ」

 あの時、四ツ谷に言ってあげられなかった言葉が口を吐く。ほんとクズだな。俺は。言う相手とタイミングが違うだろ。


 瓶ビールとレモンサワーが運ばれてくる。

「18で瑠海姉ェ達と一緒になって、去年、今の店を任されたんです。先に行ったナオの後釜として」

 レモンサワーを飲みながら遠い目をする。初めて見る表情だ。キュッと胸が締め付けられる。甘く、切ない痛み。


「…三年も一緒にいるのに信用無いのかなぁ」

 ドキ、と違う痛みがする。瑠海の言っていることとは違う、自分に言い聞かせ落ち着きを取り戻す。


「…年数なんか関係無いよ。良いと思えたらその日のうちに仲良くなるもんさ」

「ホントですかぁ?」

「実際、沙埜ちゃんと初めて会った時になお君の店で飲んだじゃんか」

 瑠海に糾弾された時、言えれば良かったのかな。でもそれは瑠海が嫌いな『そこら辺の男』認定されて同じ運命か。


「でも、それは…」

 少し顔を赤らめてレモンサワーを飲み干す。沙埜ちゃんにまで毒牙をかけたらアカン。絶対に。

「やっぱアレ無いとダメだ!食べたらあそこ行きましょ!」

 右手でダーツを投げる仕草でどこかはわかった。今日くっつかれたら俺は理性が舞ってしまうぞ?

 そんな心配をよそにガンガン飲む沙埜ちゃん。焦らなくても良いのになぁ。

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