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#76 : ビールは喉越し。

 目当ての焼き鳥屋は小畠と行った店の方だった。


「食べれないものとかある?」

「好き嫌いは特にありません」

「アレルギーとかは?」

「…大丈夫です」

 男性と言うものは皆、このような質問をするのがお決まりなのだろうか?それとも、和田も小畠と同様に細かい視点を持ち合わせているのだろうか?美希は知らない。小畠から学んだデート術と言うことを。


「お酒、飲める?」

 どこまでも小畠をトレースする和田。

「大丈夫です。子供扱いしないで下さい!」

「ややっ、そうじゃなくてさ!」

 少し怒ったフリをすると、急に和田が焦り始める。余裕がある美希は少し意地悪になっていた。

 気分を害すと忘れそうなので、今のうちに母親に食事を済ませて帰るとメッセージを送る。


「いらっしゃいませー、ご予約は?」

「20時にお願いした和田っス!」

「お待ちしてましたー、どうぞー」

 小畠に連れて行ってもらった店とは接客の質が違うな、心の中で比べてしまうのも大人だからか。


「ボクはカシスウーロン!美希ティーは?」

「紅茶のお酒は置いてますか?」

「すいませーん。ウチでは取扱ってませーん」

「…では」

 一息吐いてメニューを凝視する美希。

「ビールをお願いします」

「生とビンどちらにしますかー?」

「生でお願いします」

「少々お待ち下さーい」

 パタパタと定員の女の子がカウンターへ向かう。

「ビール飲めるなんて美希ティーおっとなー!」

 和田には言えない。小畠への意趣返しとは。

「もう子供じゃ無いですからね」

 ツン、とした態度を取ってしまうところはまだまだお子様なのだが。


「カンパーイ!」

 ガチ、とグラスが割れそうな勢いで合わせてくる和田は、飲み慣れていないことが美希にもすぐにわかった。また、彼と比べているー。

「…もうイヤ」

 小声で呟くとジョッキを両手で掴み、一気に飲む。

「み、美希ティー!?」


 目を瞑りゴクゴクと流し込む。ビールは喉越し、意味が少しわかった気がする。喉で飲むと苦味が軽減されキレとビール本来の甘さ、香りが鼻腔から抜けて行く。唇の端から少しだけビールが伝う。

 トン、とジョッキをテーブルに置き、普段の美希なら絶対にしない、手の甲でビールを拭い和田にけしかける。

「…()()()()頂けましたか?」


「お、()()()()、ね、すいませーん!」

 空になったジョッキを掲げておかわりを注文する。

「も、もう子供じゃないってことです!」

 抗議も虚しく二杯目のジョッキが美希の前にドンッ!と置かれる。

「スゴイね!ボクはまだビール飲めないや!」

 なんだか嬉しそうにしている和田を見ていたら、どうでも良くなってきた。飲み慣れないビールを一気に飲んだせいか、意識と身体がポワポワしてくる。


「わ、私も甘いお酒の方が好き、です」

 美希にこの店のジョッキは大きいのか、両手で抱えて仕方無しにビールを飲む。

「大丈夫!小畠さんだってビール飲め無かったんだよ!」

 ズキ、と心が痛む。あの時聞いた話だ。

「串盛りお待たせしましたー」

「キタキター!冷めないうちに!」

 和田がスッと皿を差し出す。


「…本当、美味しいですね」

「でしょでしょー!」

 まるで自分を褒められているような喜びように、美希も釣られて微笑んでしまう。

「あ、やっと笑った!」

「へ?」

「ずっと美希ティー元気無かったからさ、どうしたのかなーって」

 やはり、あの日の涙を心配してくれていたのか。泣かせた張本人に八つ当たりするようにビールを煽る。


「…社会人一年生でも、壁に当たるんです」

「ボクは…うん、あった。思い返すとあったよ」

「どんな事です?」

 少しフラつきながら美希が聞き返す。本音は興味が無いのだが、場が持たない。


「入社した時、小畠さんはまだリーダーで、ボクのバディでもあったんだ」

 師匠と弟子の歴史を振り返りながら、カシスウーロンをチビりと飲む。全くサマになってないが、本人は満足気だ。


「その後、事業が拡大する事になって二課が出来た。田口さんが二課になって空いた一課の課長は、前の本部長からの推薦もあって小畠さんになった。ボクはまだ仕事が全部わからないのに、二課に異動になってね」

 ウンウンと頷きながら話しをする和田。美希は黙って聴いている。


「田口さんは言動がキツい所があって、ボクは鈍臭いからコテンパンにやられてた。毎朝、会社に行くのが怖くなるくらい。そんな時、小畠さんが心配してちょこちょこ来てくれたんだ。自分も課長職になってスゴイ忙しいのに」

 美希の時もそうだった。自分の仕事を差し置いて部下を護ろうとする、そんな彼だから好きになったのだ。想いが込み上げそうになるのでビールで押し返す。


「そんな毎日だったんだけどある日、田口さんのスタイルは男性だけじゃなく女性にも同様に厳しい人なんだって気づいた。差別も区別もしない人なんだって」

 言葉を溜めるようにカシスウーロンを飲む。

「小畠さんとは違う優しさがあの人にはあるんだ。他の人はそんなの無いって言うけど、ボクはそう思っている。今思うとカベだったなぁ、田口さん」


 美希は田口と交流が無い。田口からすれば新卒などお荷物に等しいと感じているので、2枠の募集をかけた時に選考基準から外している。なので美希は一課に、同期は営業部ではなく総務へと配属になった。大宮の力もあったのだろう。


「…で、小畠さんはどんなことを?」

 酒の勢いで良からぬことを聞いてしまった。

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