#71 : 優柔不断
俺の優柔不断はところ構わず発動する。
自分で考えて行動するにも、他者に賛同して動きだすにも、対立する意見を押し付けられた時も。
仕事に関しては決断を迫られる立場だから早くはなったが、私事に関しては未だに治らない。
優の初日の出暴走は即断即決で断ったがな。アイツはまた別だ。
自覚はしているが無意識なんだ。自分の歩んできた歴史に自信が無いワケじゃあない。心のどっかで自分が選択した結果で他人を不快にしたり、傷つけたくないと考えてしまう。
どの選択をすれば最善なのか、相手が喜ぶのか、俺も納得できるのか。
一挙手一投足、いつもこんな事を考えているから頭が爆発しそうになる。仕事で感情を出さないようにしたストレスは酒に注がれる。酒もこんな俺の相手をさせられて迷惑極まりないだろう。ストレスの吐口ではなくもっと美味しく飲んでもらいたいだろうに。
そのくせアレコレ考えに考えた結果、他人の意思を尊重し過ぎて自滅する。沙埜ちゃんの言う通り、他人を優先して身を削る。毎度お馴染みのパターンだ。
わかってはいてもクセは治らないモンだ。無くて七癖なんて言うが本当の事だと思う。俺が気づいていないだけでコレ意外にもクセはあるだろう。
あの瑠海もストローを噛む悪癖があった。可愛いと思いつつ…ちょっと怖かったけど。
あんだけツメられたのに、フラフラとスリープ・ウォークで沙埜ちゃんに泣きつきに行く。情けない…。
沙埜ちゃんなら元気にしてくれる、そんな甘えが瑠海を怒らせたと言うのに反省も成長もしていない。
ちゃんと元気を貰えたのに四ツ谷が心のスキマに入り込み、麻生からも火曜会を飛ばすメッセージが来て息苦しさを覚えた俺は、朝から社外に出てサボっている。
こんな息苦しさは前にもあったような気がするし、いつもこんな感じなのかもしれない。もう、自分でもよくわからなくなってきた。
会社の周りを一周したら帰ろうー。
「おはようございます。いらっしゃいませ」
「おはよう。今日はテイクアウトでお願いできるかな?」
「かしこまりました!」
いつものコがいてくれて安心する。
「朝からお見えになるなんて珍しいですね?」
普段は天気とか、新メニューとか、当たり障りの無い雑談しかしないが、いつも可愛いコちゃんを二人も連れ回してるスケベ親父が朝に来たらそりゃ不思議に思うわな。
「…朝から行き詰まっちゃってね。逃げ出してきた」
「それは大変でしたね…。私はコーヒーを淹れる位しかできませんが、あまり無理をなさらないようにして下さいね」
両手で紙カップを渡される。…俺ってヤツは本当に。
「ありがとう。オジさん元気出てきたよ」
珍しく本心だ。この雪とまだ早い時間で人がいないってのもあったから言えたけど。
「元気が無くなったらいつでも来て下さい!たくさんコーヒー淹れますから!」
名前も知らないコに助けてもらってしまった。とことんクズ野郎だと自覚するよ。ウチの会社に来てくれないかな、ホント。
あのコが淹れてくれたコーヒーは気持ちも暖かくなる。どんよりと凝り固まった鳩尾の気分が解されていく。
ゆっくりと歩きながら、昨日から目を背けてしまった四ツ谷とのことを考える。好意を持たれていたんだよ、な…?きっと。
誰がなんと言おうと事実は曲げられない。起こってしまった事は変えられないんだ。変えられるのは今・ここ・自分だけ。他人は変えられないし、起こってしまった過去も過ちも変えられない。今にフォーカスしろ。そう腹を括り社内へ戻る。
『お疲れ様です。無事に届いていて安心しました。雪は止みましたが足元が悪いのと、寒さも厳しいので体調管理に気をつけて』
…何が事実は曲げられないだ。完全に意識して曲げている。このまま関係を絶とうとする返信だ。四ツ谷のメッセージに対しての返事は一切無い。
このまま送って良いものか?でも既読がついたまま返さないのもなんだし…ってまた悩んでいる!
これは俺の悪いクセ、そう自認して送信する。あ〜あ、送っちゃった。知らん。もうなる様になれ。仕事しよ。