#63 : 雪の城 8
研修は終わっていなかった。恥じらいと欲情が同時に美希を襲う。
『ふしだら』と言われるだろうが、美希はもう他人の目などどうでも良かった。早く彼から教わりたかった。彼じゃなければダメだった。
資材置場の痕跡を片付け、会社を出た二人は帰宅ラッシュから解放されたタクシーを拾い、線路を越え反対に位置する歓楽街へと移動する。
オフィス街の近くには飲み屋があり、飲めば仲が良くなる事もある。どの街にも似た様な風景があるものだ。
彼は流石にそのまま直行するのは品がないと思い、手前の飲み屋街でタクシーを降りる。美希に手を差し出し、エスコートしながら研修会場へと向かう。
カフェでお釣りを渡す時に握ってしまった手が、向こうから差し出されたことが嬉しくて、美希は彼にしがみつき幸せを感じていた。
足元は踏み慣らされて汚れた雪の後に新雪が積もり、革靴でも幾分濡れずに済んだ。美希はレインブーツのままだ。
話には聞いていたが初めて入った場所で、初めての研修が行われる。
資材置場で行われたやり取りが巻き戻され、美希ではなく彼が主導権を握り再生された。
「んっ、ですから、耳は、ダメ…」
「ダメ?こんなにも熱くなっているのに?」
熱くなっているのは彼も同じだったが、彼には美希がイヤがっているようになど聴こえていない。ダメだからもっとして欲しいのだ。聞こえてくるのは美希の嬌声と、初めてとは思えないほど溢れ出た桃蜜の隠微な音だけだ。
「お願い、です。ダメ、もう…」
「もう?」
「切なくて、ヘンになりそう…」
経験が無いせいだろうか、絶頂を迎える喜びが分からず何と表現したらいいのか戸惑っている。
「力を抜いて。ココに集中して」
息を飲み彼に言われた通りに力を抜き、言われた箇所に集中する。生理現象と入浴時以外触れた事が無い場所から切なさが溢れ出てくる。
「あぁっ!」
女の喜びを知った事を全身で表現する。痙攣が止まらない。意図せずに大きな声が出たが、もう恥ずかしく無かった。
「…感度が良いんだね。今のが大人の扉を開けるカギ」
階段は登れど扉が開かれなければ王子が待つ舞踏会には入れない。そのカギが美希の中で目覚める。
自分でさえ良く見たことが無い場所に彼の顔が埋められている。羞恥心で息ができなくなるが、それよりも快感の方が殊更に上回る。体温より少しだけ熱い舌先が純真無垢の扉を開けようとする。舌先を尖らせ入口に這わせ少しずつ、少しずつ横に押し広げるように挿入ってくる。
目を閉じていた美希はその動作が見えないが、感覚からナニをされているのかはわかった。彼といる時はいつもドアを開けてくれていたことを思い出す。
経験がある者ならこう答えただろう。彼がドアを開ける時はとても優しく丁寧で、紳士的だと。その分、焦らされている気持ちが高まってしまうとも。
顔を埋めたまま彼の左手は水蜜桃を優しく慈しみ、薄桃色の核を指先が触れるか触れないか、紙一枚分の間隔で撫で回し興奮を高めていく。上からも下からも快感の波が押し寄せる。
「怖くない?大丈夫?」
「大丈夫、です。から、もう心配はしないで…」
全てを委ねているのだから、気遣いをして欲しくなかった。
「痛かったらガマンしちゃダメだよ?」
「良いんです。痛くされても好き、なの」
美希から桜の花びらを進呈される。彼女の心の準備はとっくに出来ていた。瑠海に水を差されたあの夜からずっと心に決め、この時までずっと月に思いを馳せていた。
彼女の確信の二つ目が華開く。
今日、私は、子供じゃなくなる。
そんな彼女を愛おしく思った彼は、優しく口づけを交わしながら初めての時を思い出すように重なった。
芯は硬いのに柔らかく熱い彼が入口をノックする。溢れ出た桃蜜がシーツを濡らしている。様子を見ながら少しずつ、少しずつ挿入ってくる。
美希は初めての怖さや痛さよりも、満たされている幸せから泣いていた。彼と一つになれた喜びは、今までの人生で間違いなく一番に幸せな気持ちだった。
初めてだったので入口付近で様子を見ていたが、美希が自ら彼を深く誘った。焦らさないで、子供扱いしないで、大人の様に深く深く貫いて欲しかった。資材置場で感じた腰の痙攣が比較にならない程に早く強くなってくる。
様子を見ていた彼は大丈夫そうだと確信した後、優しいながらも強弱をつけ色々な角度で美希を貫いた。体内で彼が動く度に込み上げてくる快感が、頭の中を新雪の様に真っ白にさせる。
美希は王子といつまでも雪の城で過ごしたいと願った。




