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#57 : 雪の城 2

「販路のリストと梱包内容のリスト、この二つがあって初めて梱包に移れます。販路ごとに店舗数は平均して8店舗。販路数は20ですので…」

「ひゃ、160店舗分…!?」

「送り状を書く作業もあります。1販路に最短で約二十分かかると想定して四百分、時間計算で六時間四十分です!」

 畳み掛けるように美希が言い放つ。

「因みにですが、二十分は二人で作業した場合ですのでお一人だと倍の四十分、合計八百分、十三時間二十分です!」

「どひゃあ〜!」

 彼には珍しい反応が返ってきて可笑しくも思うが、このまま一人でやらせる訳には行かない。


「小畠課長だけが辛い思いをされるのは心苦しいです。どうか、一緒にやらせてください」

 首から腰まで真っ直ぐでキレイなラインを保ち、美希が深々と頭を下げる。


「わかった。やれる所までにしよう。今の内にご家族に連絡をしておく事。良いね?」

「ありがとうございます!もう済んでおります」

「アラ、オシゴトデキルワネ…」

 上長の威厳を持って発した言葉は軽くいなされた。

 腕時計に目をやると十九時を過ぎていた。美希の計算を信じれば終電まで四時間、残された作業時間は二時間四十分だが、小畠一人だと倍の五時間二十分、朝イチまでには間に合いそうだと安堵する。明日は絶対に休むぞ、と大雪の中の休日出勤を恨めしく思いつつ、気合を入れて取り組む。


「じゃあ俺が梱包するから、送り状をお願い出来る?」

「かしこまりました!」

 小さく敬礼した美希に遅れて水蜜桃がたゆんっと反応する。目のやり場に困りそうだが、資材(ガラクタ)置場に二人きり、誰も咎めはしない。


 リストを睨めながら段ボールを組み立てる。店舗によって封入数が異なるのが厄介だが、自社の製品を販売して頂けるのに厄介も何も無い、感謝の気持ちで取り組むのみ。心頭滅却して梱包に移る。


 音楽も何も無い部屋にカリカリと伝票を書くボールペンの音、梱包テープをベリベリと引っ張る音、ガサガサと詰め込む音、二人の息遣いだけが淡々と流れた。


『ティロン♪ティロン♪ティロン♪』


 唐突に静けさを断ち切ったのは小畠のアラームだった。もうそんな時間かと携帯をポケットから取り出す。汗をかいていたので画面にうっすらと結露が生じている。

 時刻は二十二時三十分、雪の影響を鑑みて早めに美希を帰すためにセットしておいたのだ。

 想定の四時間は集中して出来た。後は彼が一人寂しく朝まで頑張れば良いだけだ。


「っと、ありがとう!もう時間だから今日はここまでにしよう!早く帰ろう!」

「お疲れ様です!肩が凝ってしまいました…」

 焦る彼に対し肩をトントンしながら返事をする美希。

「良くやってくれた。感謝する。ありがとう。さ、早く上ろう!」

「感謝だなんて、そんな」

 両手を天に向け伸びをする美希の水蜜桃はいつもより大きく強調されている。あまりにも無防備で危なげにも見えた。

「いやいやいや、今は帰る事をー」

「お言葉ですが、電車、止まってます」

 そう言うと携帯の画面を目の前に突き出した。


「え?マ?」

「マ。です!」

 呆気に取られている小畠に付き合って軽口を叩く。つい数ヶ月前までは考えられない事だった。美希自身、少し驚いている。

「ですので、ご飯にしませんか?コンビニは開いてますので!」

「あ、ああ。し、仕方ない…」

 彼が心配しなくても朝に荷物が届かなかった時から、美希は会社に泊まり込むつもりだった。一緒に対応する予定の同期も先に帰した。母にも連絡を入れてある。用意周到、準備万端だ。


「何にしようかしら…」

 嬉しそうにコートを羽織り、レインブーツに履き替える美希とは対照的に、何かを心配している小畠。


 二人の夜はまだまだ始まったばかり。

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