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#43 : ボッチ組

 この国の宗教は自由である。


 異教の者が他神の子の降誕祭を国を挙げて祝い、約八割の男女がその流れで不純行為を行うこの世の終わりの様な祝いの日は、年代と共に変化してきた。


 初期は家族で過ごすことをメインにテーマが敷かれ、家族団欒がクリスマスの醍醐味だった。

 少し時代が下がると家族から視点を変えて若者、それも男女の仲に焦点を当てた。クリスマスには恋人と高級な外食をし、高価なブランドのプレゼント、最高級ホテルのスイート・ルーム…。

 今、思い返してみても陳腐なデート内容だ。日本人はこぞって同じ行動を一斉に皆が取る。デートのハウツー特集なども誌面を賑わせた。


 生活様式や習慣を考えると内容は様変わりしているが、バブル崩壊から数十年も経つのに、何一つ変わっていないことがある。クリスマスにおける気持ちの優劣だ。

 家族や恋人と過ごせるリア充組と、一人で過ごすボッチ組。この国には自分の能力とは関係の無いところでマウントをとりたがる輩は一定数いるものである。

 実際にはボッチではないのだが、他人の目からすると『クリスマスに可哀想な人』と写る人達のお話。



 まずは魔法使い見習いの和田。彼は自他共に認めるボッチ君だが、お話の都合上ご足労願った。

 二課に配属されてから密かに森に思いを寄せていたが、自分では叶う事のない恋と知り想いを絶った。その後、バツイチではあるが幼怪(ようかい)である莉加と出会い、矛先を彼女へと変えた。

 経産婦、その淫靡な言葉だけで和田には十分だった。もしかしたらワンチャンあるかも知れない。残業で、外回りで、飲み会の後で…。

 しかし、彼を含めて仕事以外の莉加の事は何一つ知らなかった。ワンチャンどころか休みの予定すら知らない。モテるためには人間的面白さだけでなく、男として頼り甲斐があるところを見せるのも手の一つだが、ハウツー本を読み漁るだけの彼は今年もボッチ確定となりそうだ。



 美希は海外生活が長く、キリスト教国のクリスマスをちゃんと知り得ている。のべつ幕無し騒ぎ立てるのではなく、イエスの生誕を厳かに祝い家族と静かに過ごす。所謂パリピの様なイベントは経験していない。プレゼント交換は近所の友達と行った。高価なものでなく自分が大切と思う宝物を選んできた。イギリスに行った際に一目惚れした紅茶の缶、白磁に青い塗り薬で絵が書かれたカップ、剣が重なる紋章のドイツのソーサー、海外でウケたのは漆塗りの箸と有田焼の箸置きのセットだった。

 人畜無害なあどけない容姿と物腰とは裏腹に、暴力と言っても過言ではない水蜜桃。社内の過半数は聖夜に手に余る水蜜桃に毒牙が及ぶのではないか、と心配している。当日の彼女の予定はラウンド業務後、イベントの後片付けがあるのでそんなヒマは微塵も無い。ある意味ボッチ組。

 時間が合えば小畠と過ごしたいが、彼も販路偵察があるようでサンタへのお願いは叶わなさそうだ。



 瑠海の場合は少し複雑で、彼女が成長するまで父親と会うことが無かったため、クリスマスらしい事を行ってきていない。父親は敬虔なカトリックでツリーの代わりに飾るのはプレゼピオ、プレゼントは年明け一月六日にサンタの代わりに魔女が靴下に入れる。

 当日は彼女の誕生日でもあり、” Buon compleanno( お誕生日おめでとう )” よりも”Buon Natale( メリークリスマス )”を先に伝えられるのが好きでは無かった。誰も自分のお誕生日をお祝いしてくれず、死んでから二千年も経つ知らないおじさんの降誕を祝っている。

 騒ぎに便乗した浮ついた街の焦燥感、不必要な買い物、分不相応なプレゼント、子供の頃から達観していた彼女には理解し難い日本のクリスマスだった。どちらかと言うと美希に近しいイメージを持っている。

 クリスマス当日は商談が午後に一本あるだけで特に予定も無く、一人で飲みに行くつもりなのでボッチ組と言えよう。

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