表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/252

#41 : 商戦期?

 早いもので十二月、冬の商戦期がやってくる。流石に先月は遊び過ぎた。年明けまでキッチリ仕事をし、数字作ってボーナス査定の上乗せを図らねば。


 そう言えば森の引き継ぎ時に出ていた販路の改装の件、どうなったんだろうか?何か手を打っているのか?特に火曜会でも何も言ってこないし、大丈夫なのだろうか。


「お疲れ様です。いつもお待たせして申し訳ございません」

 寒いのが苦手らしく、大分着込んだ麻生が席に着く。

「私は近くなので大丈夫ですよ。それよりこの寒い中の営業、お疲れ様です。温まって下さい」

 恒例のドリンクをどうぞだ。あの時以来、二人とも妙に気を回しオーダーするようになってしまった。今日は気にせず温かい物を頼んでもらいたい。

「いつもありがとうございます。いただきます」

 ホット・ココアか。甘い香りが昼下がりの俺に安らぎと睡魔を運んでくる。本来なら活力が漲る飲み物なのに心が和らぐのはなんでなのだろうか。


「お待たせいたしました!」

 ちゃんと時間前に四ツ谷が到着する。よしよし。時間は大事だからな。

 流石に今日はホット・ティーにするようだ。


「本日は私から宜しいでしょうか?」

 四ツ谷が揃って一息ついた所、麻生が華奢な手をそっと上げて言った。

「冬の商戦期を前にして対策等が不安でして、その辺りをご教示頂ければと存じます」

「私も販売応援の予定でしたが、今期は派遣のガールさんで対応するとの事で、ラウンダー兼店舗マネジメントをする予定でして…」


 麻生も四ツ谷も初めての事だから不安だよな。デカそうな事を言ってはいるが、ボーナス商戦期にどれだけ売上伸ばせるか、ってだけの話で簡単な事だ。しかし現実はそうも簡単にいかず、新規開拓が出来ていない、競合がついている、相手がコミットしないなど日常茶飯事だ。

 問題がわかっていたら解決するだけだ。一番良くないのは『何が問題なのかがわからない』状態でいる事。日本の会議はまず『何が問題なのか』のすり合わせをする。問題はコレで間違っていないか、いや、その様な表記にしたら勘違いする人間が出る、その言い方では法務に問題があると捉えられかねない…実に下らない会議だ。タイトルのレールからはみ出さないでお利口さんな回答をする者が正しいと思われている。


「今日はマーケティングについて話してみようか」

「宜しくお願い致します」

「優しくお願いします…」

 四ツ谷の言い方にドキっとしたがおくびにも出さず説明を始める。


「我々が携わっている商品はB 2 B(ビー・トゥー・ビー)(ビジネス・トゥー・ビジネス、企業相手)と B 2 C(ビー・トゥー・シー)(ビジネス・トゥー・カスタマー、一般消費者相手)と大きく2つに分類されている。その内企業案件が占める売上割合は65%以上、我々一般消費者向けのリテールは僅か10%に満たない」

 前年度の企業収益と事業部の売上高、一課の売上を説明して続ける。

「企業の理念は顧客を創造する事に尽きる。顧客がいなければ商売にはならない。我々リテールは営業と言う数字の積み重ねでしか評価されない業務に、人の心に訴えかけ、製品を継続購入して頂き、新しい市場を拡散して頂くために存在している」

 話しながら紙ナプキンの裏に左側縦に一本、下側横に一本、線を引く。縦の線には”利用者数”、横の線には”時間”と書き添える。


「本来であれば商品が売れて利益が出れば良いだけの事だが、それでは会社は継続しない。ワンショットの取引でお終いだ」

 話しながら先ほどの図に曲線を書き加える。左側の線と下側の線のスタート地点から右にゆっくりと上がり、亀の甲羅を彷彿とさせる大きな曲線を描き、最大値でシンメトリーになる様に始まりと同じように収束する。中高な甲羅の様だ。

「企業は利益で何をするか。製品の改良を図ったり、よりテクニカルに改革したり、事業の変革を求められる事もある、が、本当の所は全く違う」

「どの様な事なのでしょうか?」

 学校で習得しなかった、みたいな顔して四ツ谷が訊ねる。


「…株主様に還元する事さ。利益を上げて、株価に反映させて…。社員に還元されるのはほんの一部。殆どが株主様に戻って行くこととなる」

「会社としては株主から資金を借りている以上、手綱を握られてしまう立場でもあるのですね」伏し目がちに麻生が呟く。冬になってから瞳に憂いが増してきたのではないだろうか?

「ウチみたいに二期決算ですと予定調和も有りますので大揉めする様なことは有りませんが、オーナーと揉めたりすると良くないことは身に染みて分かっています」

 先程の紙ナプキンを二人に見えるように向きを変える。


「コレは”イノベーター理論”と呼ばれているものです」

 そう言いながら中腹が高い亀の甲羅の図に更に縦線を五本、均等に描いていく。

「お二人から見て一番左側、この部分が”イノベーター”、全体の2.5%しかいない貴重な革新者。所謂新しい物がとても好きな人達」

 逆向きに2.5%と書き込む。む、難しい。2と5が逆になるし、パーセントの線はどっち向きだ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ