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#37 : 何気ない日々

 カボチャ祭りの後は嵐の様な一週間であった。


 瑠海の過去に興味を持ち、沙埜と奈央から聞き出したまでは良いが、話の流れで小畠を交え四人で席を囲む事となった。

 研修を終えた後に『会合』と称した若者飲みに付き合ったせいで疲れたのか、珍しく金曜日に定時で上がり真っ直ぐ帰宅した。

 自宅がある駅に着き、コンビニでビールを買う。帰宅までに喉を湿らせておくのが彼の流儀。

 家に着くなり湯船にお湯を張り、ビールとスマートフォンを風呂に持ち込み映画を観る。

 彼のストレス発散と癒しの時間はまだまだ始まったばかり。


 そんな彼に大胆な行動をしたものの全く相手にされず、瑠海にまで邪魔をされ気落ちしている美希。

 “早く経験が欲しい”と思う焦りもあるが、心の底から彼に敬意を払い、少女の様な憧れだけでなく身も心も捧げる気持ちで彼を求めている。

 どうせ誘ってくれるなら研修ではなく週末に泊まりがけで誘われたい。綺麗な夜景に囲まれ、海を一望出来るホテルの最上階で包まれたい。

 思い描く大人の世界は少女の域を脱して無いが、気持ちはとっくに大人の仲間入り。初めてを彼に捧げる事が美希の望みだった。


 一方的に悪者扱いを受けている瑠海は我関せずを貫く。彼女からすれば美希は取るに足らないに等しいレベルだ。あれ位の事でいちいち動揺する美希を見ていると意地悪な心がチクチクと湧き上がり、小畠を独占しようとする行動に制裁を与えている様でもあったが、彼女に新たな障壁が現れた。

 歳下で無邪気な”トラブル・メーカー”沙埜だ。悪意が無い分タチが悪い。酒の勢いで無邪気に彼に絡んでしまう。

 昔馴染みではあるものの目の前で見ていて嫉妬に似た感情を起こし、”奪われたく無い”気持ちで沙埜を小畠から離した時、瑠海は彼に堕ちている自分に気づいた。


 沙埜は自分を形成してくれた姉の様な人物に心酔している。

 グループの系列店で一通りこなした後、新規オープンのクラブへと移動があった。そこで瑠海と奈央と大井に出会い、自分の予期していた将来のビジョンが大きく変わった。変えてくれたのが瑠海だった。ただ酒を飲むだけで無く、会話を盛り上げ、時に聴くに徹してゲストを楽しませてきた。たまに酔っ払うが暗黙の了解が醸成されたゲストは一様に彼女を穢さない。小畠もご多分に漏れないが沙埜からのアプローチに気づいて無いようで、彼女は取り越し苦労を重ねているようだ。


 彼女達の思いに気づかず何事もない様に接する小畠。悪気は無いのだが自信も無く責任感も皆無に等しい彼は、仕事上で関わった相手は仕事の延長線上から決してはみ出させない。彼の流儀はここでも健在だ。

 そんな彼が珍しく社内の人間に気を惹かれた。

 善も悪も遍く一切を吸い込む大きな瞳、その深さは計り知る事が出来ずつい覗き込んでしまう。深淵を覗く者は等しく深淵からも覗かれている、そんな言葉が頭をよぎるが莉加に向けられた気持ち、探究心は歯止めが効かなくなっている。


 なみいる強豪達を退け小畠の眼差しを一点に受ける莉加は、家族との時間を優先しているためなのか休みの動きが謎に包まれている。

 誰も気にしない、気がつかない些細な事だが彼はチェックに余念がないらしく、あわよくばを虎視眈々と狙っている。

 実に彼らしく無い行動は誰も興味が無いのか、社内でスルーされ続けている。


 十一月に入っても火曜会は開催された。美希の暴走の事は莉加は知らない。美希は小畠との秘密を抱える事で優越感の恩恵で焦らなくなっていた。

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