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#32 : 二人とおっさん。

「小畠さん。いらっしゃいませ。いつもご贔屓にありがとうございます」

「先日はありがとうね。楽しかったよ。後から沙埜ちゃん来るからカウンター空いてるかな?」

「こちらこそありがとうございます。素敵な時間のお供ができて光栄です。ご案内致します」

 店長(なおくん)は俺とは違う紳士的な対応をしてくれる。俺は他人と関わりたく無いと言う気持ちが前に出て慇懃無礼となってしまう。これくらいソフトになれたら、と彼から勉強をさせてもらう事も多々ある。



 座るや否やビールが出てくる。沙埜(さや)ちゃんの所でも飲んできたが店に着いたらやはりコレだ。

「今日はココでゆっくりできそうだよ。なお君もどうぞ」

「頂戴いたします」

 なお君は必ず俺の飲み物に合わせてくれる。ビールだろうが、日本酒だろうが、ウイスキーだろうが。こう言うのが徹底されてるから通ってしまうんだよな。


 二杯目のビールに差し掛かった所で私服に着替えた沙埜ちゃんがやってきた。

「遅くなってスミマセン!やぁやぁ伊藤ぱいせん!久しぶり!」

「いらっしゃい。小畠さんにご迷惑をおかけしないように」

「はぁい!ってお兄ちゃんかっ!」

 沙埜ちゃんはいつも元気だ。まるで本当の兄妹に見えてくるから不思議だ。


「改めて!」

 なおくんも交えて三人で乾杯をする。おじさん楽しいなぁ。っと、役者も揃った事だし本題に入りますか。


「いやぁ、こんなおじさんに付き合ってくれてありがとうねぇ」

「何言ってるんですか!小畠さんと初めて会った時、年齢聞いてビックリしましたよ!」

「私も同感です。お歳には見えないですよ」

「褒めても何も出ないぞ!」

 たわいも無い話しで笑ってくれる。それだけで楽しいと思えるのは幸せな事だよな。


「そうそう、江口さんも楽しませてくれたね。何かお礼をしなくちゃ」

「江口…って瑠海(るみ)姉ェ?来てたの?」

「小畠さんもバッタリだったみたい」

「そうか、瑠海さんだったね。下の名前は」

 二人とも認識しているし、特にタブー視されてるワケでも無さそうだが…。


「小畠さんは瑠海姉ェと知り合いなんですか?」

「彼女の面接を担当したんだよ。所属は別だけどね」

「瑠海ちゃん…江口さんはご迷惑おかけして無いでしょうか?」

「ナオ君歳下なのに本当(ホント)お兄ちゃん!ウケる!」

 なお君は本当に面倒見が良いんだな。キリっとした容姿にファンも多いからな。モテ街道爆進だな。


「二人は江口さんと一緒だったんでしょ?あのお店だったの?」

 あのお店とは今や沙埜ちゃんが店長を務める先程の店だ。


「…いえ。別のお店です。彼女も隠してるワケじゃ無いのですが、クラブで三人一緒に働いてました」

「私入店した時18歳!若かったぁ〜!」

「今でも十分若いじゃんか!」

 自然とツッコミを入れる。最年長の前でそれは悲しくなるよ。くすん。

と言う事は、なお君と沙埜ちゃんはその後にあの店で一緒に働いて、更にその後になお君が独立したってことか。


「なお君がクラブって黒服?」

 ソッチ系のお店は詳しく無いので言葉位しか知らないが、大体は想像がつく。ハズだ。

「そうですね。私も小畠さんと同じバーテンでしたが、社長から新規開店のクラブへ異動を聞かされた時は進退を考えました」

「社長ってホント現場見てるのか見てないのかわからないけど、大抵は思いつきで決めるよね!」

 なお君の不幸をも笑い飛ばす沙埜ちゃん。


「最初は知らない事だらけで苦労も多かったのですが、あまり大きいハコでは無かったので何とかなりました」

「ハコ?」

「お店の大きさです!ウチ…元ウチのキャストが最大30人で黒服3人、カウンター1人でキッチン2人でしたね!」

「キャスト?夢の国?」

「あそこでもそう呼びますが、ここではいわゆる”嬢”と呼ばれるお姉さん達です」

 おじさんやっぱり、わからなかった。ごめんね、見栄張って。


「瑠海ちゃ…江口さんは歳が一つしか変わらないのに、とても落ち着いていて、たくさんの事を教えて貰いました」

「常にNo.1(トップ)だったんですよ〜!」

「えっ?No.1ってスゴいんでしょ!?」

「No.に入るだけでも大変な事です。その代わりに本指名、場内指名にドリンクバック、売上バックのパーセンテージが変わるのでやる気に繋がったりもします」

「私もNo.に入ってましたぁ!」

 俺なら沙埜ちゃん推しだなぁ。江口も美人で素敵だが、掌で転がされている感が否めないのがなんとも。


「江口さんがOLをされていると聞いた時は驚きました。聡明な方なので何をしてもこなしそうですが」

「瑠海姉ェは美人でお酒強くて頭も良い、ワタシ勝てる所なんにもなぁ〜い!」

 瓶ビールをそのままラッパ飲みする沙埜ちゃん。底抜けな明るさは江口とも麻生とも対極にあるな。アレ?線がニ本になっても”対極”って言うのか?

「沙埜ちゃんはその明るさがあるじゃないか!どれだけ回りを照らしてくれていることか…」

「ナオ君、小畠さんからご指名戴きました!」

 そうそう、このノリだよ。肩肘張らないのが良い。


 接点が気になり二人から聞き出してしまったが、江口のいない所で話をしてしまい、何か罪悪感を感じる。この二人と一緒に飲めたら少しは罪滅ぼしになるかな。

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