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#31 : 太陽はいつも輝いている

「いらっしゃいま…小畠さんっ!」

「やあ。随分賑やかだね」

「学生さんの団体のご予約が入ってて!ビールですか?」

「若さだね。沙埜(さや)ちゃんもお好きなのをどうぞ」

「ありがとうございます!」

 そうか。世間ではハロウィンか。店内も派手では無いがカボチャや可愛らしいオバケの飾り付けがされている。


「お待たせしましたー!」

「お疲れー!」

 沙埜ちゃんの瓶ビールとグラスを合わせ乾杯する。相変わらずメキシコ産の瓶ビールがお好きなようで。


 沙埜ちゃんのお店は和風テイストのお店だ。ハロウィンテイストに少し違和感を覚えるのは、暖かな間接照明に竹をあしらった店内とチグハグだからだろうか。


「火曜日に奈央君の所に行ってたんだ」

「そうなんですか!元気してました?」

「最初入った時はノーゲスだったけど、帰りがけはほぼ埋まっていて忙しくしてたよ」

「最近行ってないなぁ…、あ、ただいまー!ちょっと行って来ますね!」

 団体客のオーダーを取りに行く。


 かれこれ一年近く前だ。

 いつもの様に残業して帰れなくなった俺は、お目当ての日本酒を探しに隣駅まで足を伸ばし、やっと辿り着いたこの店で飲んでいた。

 店のテイストの割に若者向けに感じたのは、沙埜ちゃんがまだ二十歳だったと言う事が起因しているのかもしれない。

 彼女がヒマそうに飲んでた俺の相手をしてくれたのが嬉しくて、最低でも月に一度は顔を出す様になった。

 沙埜ちゃんの店が終わった後に待ち合わせて飲みに行ったのが店長(なおくん)の店だ。


「ただいまぁ!」

「おかえり。忙しいなら無理しなくて大丈夫だよ?」

「そんなコト言って私が居なくなったら寂しいクセにー!」

 沙埜ちゃんの軽口は嫌味が無くて受け止めやすい。同じ事を同年代の四ツ谷が言ってもしっくりこない。沙埜ちゃんと言うブランドの上でポジティブさが生きている。


 色んな意味で可愛いコだ。俺に子供がいたらこんな感じなのかと考えてしまう時もある。

 四ツ谷にも似たような感情を抱いているがセクハラにならんかな?大丈夫か、俺?


「ありがとうございましたーっ!」

 団体客がお開きとなってゾロゾロと帰っていく。終電まで一、二本前の時間だ。俺にも若い頃があったが若いモンを見ると羨ましく思う。若いって良いな…。


「ちょっと片付け手伝ってきますね!」

 ピューと言う擬音がぴったりな勢いで団体客がいたテーブルへ向かって行く。早いなぁ。


 テキパキと片付けてササっと戻ってくる。普通の飲食店だからそこまで気を使わなくても良いのだけれど、余程の忙しさでなければ大抵付き合ってくれる。

「戻ってすぐに申し訳無いけど、同じものをお願い」

「かしこまですっ!」

 俺も飲むけど沙埜ちゃんも飲む。たまに酔っ払う時もあるが、他人に迷惑をかけない酔い方なのでご愛嬌で留まる所は得しているよな。


「この後どうするんですか?」

 沙埜ちゃんのお店は十二時クローズだ。本来なら三十分前でラストオーダーなのだが、俺は特別に飲ませて貰っている。勿論、沙埜ちゃんの予定を確認してからだが。

「どうせ帰れないからいつものコースかな」

「火曜にいったばかりで申し訳なんですけど、ナオの所に行きません?」

「願っても無い!」

 半分はその為に来たんだとは言えないが。なんだかんだで沙埜ちゃん目当てが俺の本心だろうな。


「じゃあお店(シメ)とくので、三十分後に!」

 二本目の瓶ビールとグラスを合わせ、一気に飲み干す。

「ごちそうさまでした!」

「こちらこそいつもありがとう」

「なにがですかぁ?」

 元気な笑顔(たいよう)に癒されている事に対して、だが、口では言えなかった。


「では後程。先に行ってるね」

「すぐ行きまーす!ありがとうございました!」

 またすぐ再会すると言うのにいつも丁寧に送り出してくれる。おじさん嬉しいよ。ぐすっ。

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