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#23 : 乙女と秋の空

「えーっとですね、喉が渇いていたからと日差しもあって、店内の空調も効いてるのでアイスティーにしました!」

 純粋(ピュア)な眼差しに純粋な答えが返ってきた。良い。なんかすごく良い。おじさん癒されるなぁ。


「小畠さんがお飲みになられていたので、同じ飲み物なら問題が無いと判断し、コーヒーにしました」

 売り場に立ってた人は観察力が違うね。ちゃんと俺に確認しつつ俺に合わせる。指示をしていないが領収証では無く、品名が記載されているレシートを貰って来ている所がニクイ。


「お二人共ありがとうございます」

 やっと飲めると言わんばかりストローに口をつけ、四ツ谷がこくこくとアイスティーを飲み始める。二、三口飲んでストローから口を離し聞いてきた。

「先程の説明に何かあるのですか?」

 良いね。素直に聞いてくれる所が良いね。進めやすくなるよ。四ツ谷は仕事覚えるの早そうだな。


「今のは客観的に物事が見れているか、の簡単な質問だよ。四ツ谷さんの視点は場所にあり、麻生さんは人物、就業先の上長と言う所に視点を置いた。違いますか?」

「そうですね。言われてみると小畠さんの飲み物に合わせた方が無難だ、と意識が働いていた気もします」

 砂糖とミルクを入れたコーヒーを一口飲んだ後、熱かったのかふーふーしながら顔を赤らめて麻生が答えた。

 ナニコレ。可愛い過ぎんだろ。ブレーキ!


「私の視点が場所にあった?どう言う事でしょうか?」

 腑に落ちないと言わんばかりに四ツ谷が聞き返して来た。ナイス・フォロー、ナイス・ブレーキ。

「俺はずっと社内にいるから、陽の光を浴びる事なんて滅多に無い。その()()かはわからないけど、西日が差すこの場所を自然と選んでいた」

 そう言うと少しぬるくなったコーヒーを一口啜る。俺は砂糖しか入れない。勤め先がブラックなもんでね。甘えさせておくれよ。


「四ツ谷さんはこの状況を判断してアイスティーを頼み、麻生さんは相対する俺に合わせてコーヒーを選んだんだよ」

「えーっ!なんか私が自分の事ばっか考えてるみたいじゃないですか!」

 心外だと言わんばかりに四ツ谷が食いついてくる。

「こんな事で四ツ谷さんの見方を変えたりしないし、そんなつもりで聞いたんじゃないから安心してよ」

「それなら良いですけど…」

 そう言ってストローを咥えながら上目遣いで俺を見る。気づかなかったが、四ツ谷の水蜜桃(たわわ)がテーブルに乗せられているではないか!

 ちょ、おま!ブレーキが殺しにくるな!俺の正面にいるからアイスティーを挟んでる様に見えるから!


「本音を言うと、私もアイスティーが飲みたかったんですけど、変に空気読んでしまいました」

 テヘペロでもするかの様に、左側の麻生が珍しく茶目っ気を出して呟く。全アカウントでリプ流しなさい。タグは”#麻生めちゃかわ”で。全てに良いね押すから。もう可愛いすぎて吐血しそう。


 二人は意図してないのだろうが、一挙手一投足が致命傷となって俺にのしかかる。

やっぱり社内でやれば良かったかなぁ…?俺、正気でいられる気がしないよ。



---美希は秋の空を眺めながら一人物思いに耽る。


(でも、コーヒー飲めないもん…)

 決して観察力が無かった事は認めたくないし、莉加に負けた気持ちがするのもイヤだった。

 折角の”小畠会”の一回目から敗者気分はイヤだ。そんな気持ちだとこの先が辛くなりそうで、膝上に乗せた手に力を込める。

 空気は読めないけど変えられる。そう思って水蜜桃を何気なくテーブルに乗せる。羨ましがられたりいやらしい目で見られる事はあっても、本人の気持ちは”重たい”の一言だ。


(空気が読めるって大人なのかな?)

 高校から大学に進学した時、大人になった気がした。就活している時は半分くらい社会人の気持ちだった。入社してからはあの頃と比べられないほど”大人になった”を実感していたが、周りのオトナから見るとまだまだあどけなさが残る。

 そのあどけなさ故、お釣りを返す振りをして彼の手を無意識に握った。その温もりを逃さぬ様もう一度、彼女は手に力を込めた。

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