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#221:パワーランチ

 コーヒーを飲んで気持ちを落ち着けた俺は、自分のデスクで予定表とにらめっこしている。


 四ツ谷と大宮のパワーランチを組もうと思ったのだが、四ツ谷の予定表がビッシリと埋まっている。

 以前、ラウンドする店舗について話した事があったが、これを別所の面倒を見ながら遂行していると思うと、かなり能力が高いんじゃないか?


 そういやこの前、別所の誕生日だからと花を贈ると言い出したのも四ツ谷。自分が貰ったからなのだろうけどちゃんと覚えているってのがこれまたニクイ。確か……アマリリスだっけ?誕生日(別所)の花。


 その別所は部分的にしか予定が入っていない。まだまだやる事・できる事が少ないから仕方がないのだけれど。最悪、別所も同席させるか?と思ったが、田口も俺も来るなと言われた手前、勝手にぶち込む事はできない。

 しゃあない。四ツ谷が帰社するタイミングで本人に空けて貰おう。見た感じだと来月辺りはランチ行けそうな余裕がある。今のうちに押さえておかないとスグに埋められてしまいそうだしな。


 しかし、パワーランチっていくらメシが経費(タダ)で喰えるからって、かなり業務を押し付けられている感が否めないよな。行きたくもないメシ、しかも貴重な休憩時間を使用するんだ、別に手当も欲しいくらいだ。労基に駆け込まれたら負ける案件だよな。



「戻りました!」

『お帰りなさーい』

 渡りに船とはこのこと、四ツ谷と別所が帰社してきた。製品説明時に使う資料を印刷しに来たんだろう。この機会を逃してたまるかっ。


「お帰りなさい」

「ただいま戻りました!」

「戻りました~」

 右手で敬礼をしそうなくらいピシッとした返事に対し、別所は身体全体で疲労を訴えている。スタゲの新章が追加されたからまた夜更かししてるんじゃ……?

 姿勢の良い四ツ谷を見て思い出す。そうか、四ツ谷のお父さんって航空系の仕事してんだっけか?前に近藤さんとお茶した時にそんなこと言ってたよな。それで敬礼なのかな?

 あれやこれやと想像していると、不思議そうな顔で俺を見つめる四ツ谷に現実に戻される。


「あ、ああ。あの、本部長が、近々パワーランチしようって」

 なぜかしどろもどろになってしまう。別にヘンな意味など無いのに。多分。

「え、ええっ!?(わたくし)、何かしましたか!?」

 俺とも行ったことないのに、いきなり本部長となんてびっくりするよな、そりゃ。

「ぱいせん、やらかしたんデスか?」

「……社内では四ツ谷さんと呼びなさいと何度も」

 お、珍しく四ツ谷が怒っている。姉と妹って感じだな。ヨキカナヨキカナ。


「真意は解りかねるが、先日(ワイン)のお礼?なのかな?」

「元々は本部長への半返しなので……」

 そうなんだよな。これじゃエンドレスお礼大会になっちまう。やっぱり他になんかあるんじゃないか?エロ本部長め。


「あのー、パワーランチってナニ話すんデス?」

 言葉を聞いたことがある程度の別所には未知の世界なんだろう。

営業本部(ウチ)は近況・今後の活動とか、面談の要素が強いな」

 企画とかだとブレストしながらメシを喰うらしい。そんなんしながらメシ喰っても味が解らんっつーの。

「えぇ~、それなら普通に面談でいーじゃないデスか!休憩が休憩じゃないみたいデス!」

「ん―、本当はギリギリでアウトだと思う。だから強制は無し。自由参加なんだよ。一応は、ね」

 会社側も逃げ道を作ってはいるが、ホントはやっちゃダメなんだよな。きっと。


「……課長は同席されるのですか?」

「俺は断られた」

「プw」

 俺の顔を見て別所が吹き出す。悪かったな!嫌われてて!四ツ谷がキっと凄むと目を逸らして遠くを見る。この俺にもこんな態度するなんてコイツ(別所)、キモ据わってんなー。


「と言うわけなので空いている日、本部長の予定表に入れておいてくれないか?」

「……かしこまりました」

「ワタシはー!?」

「俺が無いんだ、別所さんも無いよ」

「ええ~!」

 あからさまにガッカリした顔をしている。本部長とだ、美味そうなメシでも期待したんかな。本当に肝が据わっている。否、怖いもの知らずなんだな。()()なのか、そう言う性格なのか。できれば前者であって欲しいモンだ。

 少し離れたところで見ていた柏木に気づいて、二人は俺のデスクからそちらへと向かって行った。


「課長!」

 柏木のデスクから別所が声をかけてくる。


「スタゲの新章はもう?」

「いや、サワリの部分位しか」

「クリアはしていないと?」

「ああ」

 クルっと振り返り、四ツ谷と柏木と目を合わせている。


「では今晩、サークル活動しませんか!?」

「こ、今夜……?」

 これまたいきなりだな。今日は特に予定は入っていないが、莉ったんとのスイートタイムが……。

 返事を考えあぐねていると"ぴた、ぴた"と言う擬音が聞こえてきそうな足取りで俺のデスクへと向かってくる。


「今夜は、ダメなの、デスか……?」

 しなりながら、眼鏡を下へずらし、エロそうな上目遣いで俺を見つめる。ちょ!社内でそんなコトするんじゃあない!どこで覚えてきたんだ!


「ダ、メ?」

 小首を傾げる仕草まで追加される。負けるものか!俺は、俺は――!!


「……そこまで」

「アッツ」

 四ツ谷が後ろから別所に軽くチョップする。た、助かったー!


「課長がっ」

「あっ!」

「お困りっ」

「ひんっ!!」

「でしょうっ!」

「にゃーす!!!」

「お相手の予定も考えずに!」

 一言づつにチョップがかまされる。四ツ谷のこんな面を見れるなんて、なんか可笑しくなって吹き出した。しゃあーねーなぁ。


「おけ。今日は特別に」

「やたー!!」

 急に年相応な表情に戻る。やはりまだ子供なんだな。大きな事故を起こす前に、彼女が深く傷を負わないように教育していかないとだ。


「ひとつだけ。社会人たるもの予定の確認は重要なことだ。同じ社内・課だとしても。今後は事前に確認してからだぞ?」

「はぁ~い」

「返事は伸ばさないっ!」

 ピシ!っとまたもチョップされる。


 何だろう。一課は他の部署より結束が強いと感じていたが、そう見せることに必死でそこまで良い空気ではなかったのかもしれない。ソレも俺のエゴで続けてきてしまった。皆の意見を聞かずに。

 別所と四ツ谷のコンビを見ていると、もっと気楽に構えていて良いんじゃないかと思う。これも莉ったんと付き合うようになって、心に余裕ができたからなのかな。

 場所はどこにしようかと思ったが、一人じゃ行きにくいアソコにするか。後でメッセ送っておこう。

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