#22 : 二人でお茶を
暦は十一月まで残り僅かとなっていた。
小畠は莉加が来てから時間の流れが早く感じられた。
彼女のために”火曜会”と名付けられた個人研修は数回で終了するかと思われたが、引き続きパソコンと営業のスキルアップを目標とした研修を実施して欲しい、と彼女に頼まれ軽い気持ちで彼は承諾してしまい、継続する事となった。
季節の移ろいと共に研修の内容も形も変化していった。
まず、参加者に美希が増えた。莉加と二人きりの研修は自制心に歯止めが効かないと思った彼が、美希に確認もせず勝手に巻き込んだ。だが、密かに彼に想いを寄せる美希にとってはまたとないチャンスの到来だった。莉加と二人きりの研修を邪魔をしたくなったのも事実だ。
次に3人となるためか、彼が社内の目を気にしてなのか、道路を挟んで斜め向かいのカフェにて研修が行われる事になった。
道路と言っても都内の片側三車線の大きな道路だ。自社からわざわざ遠出して休憩や癒しを求める人物はごく限られている。そのため社内では話しにくい事も喋りやすい環境だった。Wi-Fiも無料で電源も確保できる。
難点はドリンクの値段が高めな為、コーヒーでも経費の上限ギリギリだった。オシャレなドリンクは自費で頼まないとならない。
それぞれの思惑がハマってるのかハマって無いのかわからないが、賽は投げられた。もう後戻りは出来ない。
---西日が差す窓際のテーブル席を確保し、二人の到着を待つ。気温も下がりつつあるがそれでも陽の光はまだまだ暖かい。ポカポカを感じるのは久しぶりでこのままお昼寝したくなる。
「お疲れさまです!」
先に来たのは四ツ谷だった。
「お疲れ様。無理言っちゃってごめんね」
「とんでもないです!こちらこそ参加させて頂けて嬉しいです!」
うむ。純粋だ。その純粋さで邪魔をしてくれ。俺の下心にうんと。
「好きなの頼んでおいで。あ、領収証じゃなくてレシートでね」
「かしこまりました!」
少し前にも同じ事言った気がする。あぁ、森にだ。この店で一番高いマキアートに渡した千円ギリギリまでトッピングで埋めてたな。さて、四ツ谷は何を頼むのか。
「お待たせして申し訳ございません」
「お疲れ様です。私も先ほど来たばかりですので。あ、お好きなものをどうぞ」
「お気遣い頂きありがとうございます。あの、コレって御社のご負担となってませんでしょうか?」
待たせた、とは言うが約束の10分前だ。5分前行動が出来ている証じゃないか。素晴らしい!
そんな麻生に格好つけて千円を渡したが、ウチが主体で”火曜会”を開いている訳で無く麻生のお願いから開催しているので、麻生の自腹で無くて良いのかを心配している。
「ご心配無く。経費で落としますので」
「ありがとうございます。では遠慮なく戴きます」
ペコン、と頭を下げてカウンターに向かう麻生と入れ違いに四ツ谷が戻ってきた。手にはアイスティーとお釣り、ちゃんとレシートをもらって来ている。
「ありがとうございます!」
小銭がこぼれない様にレシートの上に小銭を乗せて、片手を俺の手に添えるように渡してくれた。お爺ちゃん扱いされてる気がする…。
「お疲れ様です」
「お疲れサマです!」
麻生はホットコーヒーか。何も言わなかったが、レシートを貰って来ていた。
「ありがとうございます。お釣りです。」
テーブルの上にお釣りが乗ったレシートがススっと差し出される。百円、十円、五円、一円と綺麗に並べられている。麻生らしい几帳面かつ控えめな感じだな。
よし、今回の研修の切り口はコレにしよう。
「お疲れ様です。いきなりですが、二人とも何故その飲み物を選んだのか、説明して頂けますか?」
一瞬、麻生と四ツ谷が目を合わせて俺の事を同時に見る。何言ってんだと思われているな。