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#214:OOH 4

 会社に戻ると営業達から報告がポツポツと上がっていた。


 ふむ……。一課の販路では旗艦店(フラッグシップ)は軒並み交換されているな。

 映像の内容は製品訴求しかないが、大きめのスクリーンだと迫力が違う。まあ、コレは制作・販売側から見た感想なので、一般のお客さんにどこまで関心を持って見られているかが争点だな。


 広告に関する効果測定は営業本部(俺達)の仕事ではないので”こんなんなってましたよ”、と子供のお使いのような報告しかできない。

 報告も仕事と言えばそれまでだが、何とも言えないモヤモヤが残る。対策が浮かばないからだ。広報はとっくに知っているはずだから、今更になって俺たちが中途半端なコトしてもなあ……。


 頭の中であーでもない、こーでもないと問答しながら取りまとめる。大まかに分析をすると約一割程度が変更している。この数字に特に危機感も持っていないが、大宮に突っ込まれた時に面倒だな。この辺は田口に任せるか。たまには仕事してくれ。



「――小畠はパソコンが得意だろう?なんとかならんのか?」

「それとこれとは具合が違いまして……」

 大宮もアナログな人間なので盛大な勘違いをしている。デジサイを取り付けてハイ、終わり。な問題ではないのだ。

 横に居る田口も大宮と似たような顔つきをして俺を見る。アンタ、こんなんで良く今までやって来れたなと心で悪態を吐く。


「お言葉ですが、映像関連は広報が……」

「ふむ、社内でも定評があるお前が出来んのか。副社長が進めている新規プロジェクトに得意な()()がいないかと打診されていたのだがな」

 俺のスキルは業務に直結するソフトがメインだ。プログラミングやHTMLなんてかじった程度なので大っぴらに”得意です!”とは言えない。


「わかった。広報と企画に共有して来週の議題にしよう。お前達も参加しろ」

「かしこまりました」

 田口と本部長室を後にする。田口のスーツからタバコの匂いがして不快感を覚えた。


「と、言うことだ。宜しく頼む」

 そう言い残すとフラッとドアへと向かう。ヤニカスめ。吸ってる時間も給与が発生していると言うのに押し付けやがって。


 そもそも二課に影響が大きく出る懸念があることなのに、一課が主体で取組むみたいになった。

 いつだったか森に言われた言葉を思い出す。

『年齢とか立場とか考えないでたまにはガツンと言ってやればいいんですよ!』

 そうなんだよな。俺は田口や会社の奴隷ではない。自虐的に社畜と蔑んではいるが。

 とは言えやり合う気力も体力も失せた。俺が引っ被ってコトが済むならそれでいいと思っている。負け癖が染みついてきた証拠だな。


 デスクに戻りモヤモヤしていると莉ったんからメッセが返ってきた。

『おつかれズっちゃん♡ほいたら今夜お茶しながらでどうじゃ?』

 んー、電話で聞きだしてじゃーねバイバイってのも寂しいよな、うん。

『お疲れ様。そしたらいつものカフェでどうかな?』

 間髪を容れずに返信が来る。ほぼチャットと言っても過言ではない。おかげで俺も大分早くなってきた。


『えいのう!ほいで途中まで一緒に帰ろうな♡』

 なんか学生気分で良いな!さっきまでのモヤモヤがウソみたいに晴れていく。

 さ、ちゃっちゃと片付けて愛しの莉ったんに会いに行こう!



「かえっぺ乙!」

「……お疲れ様です」

「スタゲの新しい章、もうクリアした?」

「無線トリガーで選択していないのがいくつか残ってます」

「さすが早いね!草生えるよ!」

 小畠とすれ違った後、コピー機で資料を印刷していると和田がちょっかいを出してきた。

 昨日の夜に新章が追加され、楓も和田もスグにとりかかったが、物語終盤の為か難易度が高い。


「ボクもまだトリガー踏破してないから、この後一緒にどうかな?」

 楓はいつかの夜を思い出した。サークル?と言っていたが、個人的にゲーマーが集まるだけの会。それなのに楓は久しぶりに胸が疼いた。誰かと楽しみを共有する、それがこんなにも楽しいなんて――


「……資料を印刷したら出ますが?」

 楓の心に広がる淡い気持ちを悟られないように振舞う。

「どれくらいかかるの?」

「15分程度……?」

「お、おけ!ボクも合わせるから!」

 いつかの冬の夜を彷彿とさせたが、和田は思い出しもしなかった。


「でも、まだ外回りがあるので……」

「あ。まだこんな時間か。たはは!直帰するの?」

「報告書を作るので19時ごろに帰社します」

「おけ!その時間までには終わらせるようにしておくよ!」

 美希に執心していた彼だが、同じ趣味を持つ楓が気になり始めた。ギャルゲーで新たなヒロインを発見した時のような感覚。楓にそんな感情で近づいたのが知られたら()()だ。


「あの、お店?」

 沙埜の店のことだろう。

「い、いや。そう、だな。電源と無料Wi-Fiがあるとこにしよう!」

 沙埜にも気持ちがある和田は、楓と二人でいるところを沙埜に見られたくなかった。ただ単純な気持ちなのだが、浮気をしているような心持だ。


 彼らが知らない夜はまだ始まってもいなかった。

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