#213:OOH 3
『お腹空いたがじゃ!ズっちゃんはまだお仕事かえ?』
目をクルクルと回している鳥のスタンプと莉ったんからのメッセ。お腹を押さえているから腹減ったって感じが伝わってくる。
ここ最近は昼過ぎ位に莉ったんから連絡が来る。彼女の昼休憩の時間がほぼ定まっているんだろうな。
なるべく相対したいのだがタイミングが合わない。少し入れ違いになってからメッセを返す。この返信する時間が俺を昼飯へと誘うようになったのは健康的なのか。
『お疲れ様。たくさん食べてな。今日、仕事終わったら電話しても良いかな?』
『ヴヴッ……』
間髪入れずに返信が届く。息をするようにメッセが送れるって才能だよな。
『お疲れズっちゃん♡もちろんやが!ズっちゃんもちゃんと食べなアカンよ?』
ああ、なんて可愛らしいのだ。画面に映る文字だけでも愛おしく感じる。あれだけメッセを嫌っていたクセにいい気なもんだ。過去の女性達に怒られてしまうだろうな。
気を取り直して仕事へ取り掛かる。さっきの田口の意見を解釈するとこうだな。
”OOHだけでも金かかりすぎって言われているのにDOOH!?”
”ウチもやらなきゃと思いつつできていない”
”何から始めるべきかは小畠に、取りまとめは長野、俺は今後の交渉のために本部長だな”
と、彼なりに役割分担が決まっているのだろう。適材適所、利に適っている。前までの俺なら反発したくなっていただろう。そうしなければ仕事をしている気になれなくて。
上から振り分けられた仕事は一般職で終わり、課長になってからは自分で仕事を掴んでこなして......なんて思っていたが、疲れたので今は止めている。大宮がツッコミたいのは諦めるクセがついた俺なんだろう。
一課のグループ・メッセに出来うるだけの販路、店舗のOOHとDOOH、流れている映像の内容を確認するようにと流す。とは言え大多数は営業に紐付いているラウンダー達がチェックするんだが。
四ツ谷には悪いことをしたかもしれないな、と思っていたら早速返信が来た。
『報告物と同じように競合他社のDOOHを確認しておりました。この形式で良いか確認をお願いいたします』
おおっ。仕事できるじゃない!打てば響くと言うが、打つと予告しただけで響いてくれるのはとても嬉しい。
前月(言うても先週くらいに確認したヤツだけど)のOOHの写真をbefore、今日チェックしたDOOHをafterとして比較しやすいように並べてある。バッチリだ!
『流石だね。バッチリです。そのまま進めてください。よろしくお願いします』
『ご確認ありがとうございます、かしこまりました』
硬い。俺のせいだろうけど23歳が上長に対して硬すぎやしないか?ま、他でご指摘いただくこともないしこのままでいっか。
この調子で拾えるだけ拾う。来週の水曜までに全部周れればいいけど、地方は人が少ないから難しいかな。旗艦店とtierが高いとこだけ重点的に絞るか。
夕方三時、飯でも喰うかとバキバキ背中と腰を鳴らす。柏木がチラと見たが、すぐに画面に目を戻した。煩くしてごめんさいね。
「飯、出てくるね。なんかあったらよろしくね」
「ごゆっくり。行ってらっしゃい!」
取次が必要な案件だったり、アポなしの来客が来たりしたら電話してね、を一言でまとめたいつもの言葉。実際にかかってきたことはないのだが。ホワイトボードに”昼”と書いてから外に出る。
「お、お疲れ様です......」
執務室の入り口で神谷と会う。ちゃんと挨拶できるようになったなんて成長したじゃないか!俺の顔を覚えていなかったってのもありそうだが。
「お疲れ様。ご飯食べたの?」
我ながら素っ頓狂な返事をしてしまったが、神谷と接点を持つようになったのがコーヒーちゃんの店だったから、つい口に出てしまった。
「はい......」
暗い。人のことは言える程度に明るく振る舞う俺は”よかった!”とこれまた頓珍漢な言葉を残して手を振る。気ぃ遣い過ぎたかな。
「こんにちは!」
「やあ」
いつも明るくブレがないコーヒーちゃん。結局ここに行きついてしまう。弁当もコンビニ食も社内で食べるってのがイヤなんだよな。休憩室なんてモノはウチには存在しない。それほど忙しくもないのに昼休憩までデスクに拘束されたくはない。
「ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう。いただきます」
ランチは終わっているので、神谷が食べていたサンドウィッチにする。食べ方がハムスターみたいだったな。
皆からの報告がないと何にもできないのでスタゲでもやるかぁ。