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#204 : ゾウさんのソーセージ

 十一時チェックアウトだと言うのに、直前まで愛し合っていた。


 まるでケノモのように貪り合う。二人ともに心のスキマを埋めるかのように。

 睡眠時間はあまり取れなかったが気分はこの上なく爽快だ。彼女は少しお疲れのご様子。無茶しすぎたかな……。



「無理してない?大丈夫?」

「……アホぬかせ!こないにされて大丈夫もクソもあるか!」

 おっと。求められたから応えたまでなんだがな。彼女にそれだけのキャパがあるからなのだが、ソレに応えられる俺もオレなのか。


 タワーにかかっていた薄雲はすっかりと取れ快晴が寝不足に眩しい。チェックアウトを済ませ嬌声が聞こえたみなとみらい二丁目へと向かう。そのままコスモワールドを通り抜けてワールドポーターズへと向かう。


 駄菓子屋を模したお店を見つけて心が弾む。懐かしいなぁ……!そう言や四ツ谷の世代に通じなかったのがあったけど莉ったんは知ってるのかな?

「田舎を舐めたらアカン。そんなこじゃれたモンあるワケ無かろう!」

 人気無いのかな?俺はあの駄菓子でビールを知ったのだけどな。


 お袋の親せきが集まる正月、叔父さんが泡だけ飲ませてくれた。子供の舌には苦すぎるビールも泡だけならフワフワが楽しくて良くせがんだな。


 渋谷にあったサブカルのお店がテナントで入っている。元は書店だと言うのに所せましとアヤシゲな雑貨が並ぶ。お腹を押すと鳴くチキンもここから流行ったよな。

「こないな本が売っているがか!?」

 アジアのアングラを特集した本。日本では想像できないほど危険とワクワクに満ちた世界。タイ旅行に行った際にお世話になりました。


 黄金町(こがねちょう)初音町(はつねちょう)周辺はその昔レッドゾーン(赤線)だった。人種の坩堝(るつぼ)、千差万別のガイコクジンが居た。金も勇気も無い俺達クソガキは見て回ることしか出来なかった。

 そんな俺達に”お姉さん”と呼ばれていたタイ人が文句を言ってきた。


『オニッサン、ミテルダーケ!マジダ!!』


 彼女の発言が面白くてカタコトで会話を始めた。彼女達(タイ人)のしきたりで先に日本に来ている人を”お姉さん”と呼ぶことがわかった。”マジダ!”と嘆いていた彼女は長姉のようだった。

 その発言から俺達の中で彼女は”マジダ”と呼ばれた。本人は”マリア”と言い続けていたが。レッドゾーン内のタイ人グループTopにいた彼女と仲良くなれたおかげで、あの界隈で面倒ごとに巻き込まれることは無かった。

 タイ人しか入れないレストランにも連れて行ってくれた。そのお店で生まれて初めて食べたパクチーに衝撃を受け、辛さに悶絶し、アラビア数字が通じない世界だと知った。


 何もかもが新鮮でバイオレンス、ドキドキが止まらない街だったのに、新しい市長が就任したら何もかも一掃されてしまった。

 彼女達のグループの中で日本人と結婚していなかった者は強制送還されていった。俺の先輩は置き屋のコに惚れ上げてしまい、水揚げして結婚した。今はもう離婚してしまったがお相手はまだ日本にいるのだろうか。


「ズっちゃんの青春は色々とおかしいがよ!?」

「前にも言ったけど環境がそんなだから、俺の中では普通なんだよね」

 警備課のデコスケとも仲が良かったから手入れの(強制送還)情報とかも知っていた。そんなのが当たり前の世界だったから他人の意見を疑うことも無かった。モールの中にある五十円で遊べるゲーセンが俺達クソガキ共の集合場所だった。


 ワールドポーターズを上から下まで舐めるように回って赤レンガ倉庫へ。ドイツビールのイベントが開催されていて凄まじい人混みだった。俺はドライ派なので好んで飲まないが、滅多に飲めないビールとなると食指が動く。

「……莉ったんのことは気にせんでええけん、好きなだけ飲んじゃり!」

「ありがたき幸せ!」

 意気揚々と飲み比べセットを買う。普段のビールと比べると割高だが、陽光麗らかな日差しに爽やかな潮風、ロケーションは最高だ。場所代と思えば高くはない。ツマミにソーセージの盛り合わせを頼む。


「ズっちゃんのはこればああったがよ?」

「やめなさい!」

 このお姫様は時と場合を考えずに下ネタを直球で投げる。家老の俺は肝を冷やすばかりだ。

 イベント会場はゴミゴミしていたので、そのまま海沿いへと進む。芝生が綺麗に刈り込まれた象の鼻パークだ。もう少し歩くと釣り場になる。回遊魚と居つきのクロダイが釣れる。


「クロダイ……関西で言うチヌだよ」

「高知でもあまり食べんからのう」

 居つきのクロダイはとてもじゃないがニオイがキツくて食べれたモンじゃない。回遊魚のスズキも。良いとこアジ、サバ、サヨリだろうか。磯子辺りまで下れば何とか食べれるレベルになるが。


 海を見据えながらビールとオレンジジュースで乾杯をする。チリチリと射す日差しを冷やすようなビールが美味い。ソーセージもハーブが効いていてツマミにもってこいだ。

「やっぱしコレよか……」

「莉ったん!?」

 近藤さんも莉ったんも恥じらいと言うモノを知って欲しい。貴方たちはファーストレディーなんですからね!?

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