#203 : 過剰防衛
俺達はやっと一つに結ばれた。
遥か昔から決まっていたような、偶然のような、不思議な感情。求め焦がれた君が腕の中にいる。夢心地を通り越し天上界にいる気分だ。今なら死んでも悔いは無い。
『恋愛は理屈やない、”意志”なんじゃ』
彼女の言葉が蘇える。このシチュエーションは俺が望んだ意志。
意思は気持ち、考え。意志は意欲、行動。正に意志疎通。二人が想い行動した結果だ。
「……ズっちゃんがモテる理由がわかったがよ」
半身を俺に覆いかぶさりながら呟く。
「ん?」
「この顔にこのテクニック、随分とオンナ遊びをしてきたんじゃろう?」
「オンナ遊びって程では……」
「ウソこけ!莉ったんをこないにしといて!」
「あ、相性が良かったんじゃん?」
「そうかも知れんがよ……」
ウソではない。鍵と鍵穴がピッタリと一致するかのようだった。心もカラダも相性が良い。断言する。
「こじゃんときゃーん言わされたんは初めてやが」
「ご満足いただけましたでしょうか?」
「こんにゃろー!」
「ちょっ!?息ができなくぁwせdrftgyふじこlp」
コチョコチョ攻撃をされる。お、俺はクスグリに弱いんだ!
「参ったかよ!?」
「はぁ、はぁ、ま、参りました……」
今日イチ疲れた気がする。横隔膜が痙攣しそうだ。
「毎度こないなことしちょるんか!?」
「こんなことって、俺には普通のことだけど……」
特別ナニかをしたワケじゃあない。いつも通りに反応を伺いながらシたまでだ。そこに愛情がプラスされただけ。こんなにも愛おしく抱いたのは初めてかもしれないくらいに熱を注いだ。
「もうこれは封印やのや!莉ったん以外にシてはアカンが!」
「付き合う、って言ってからはそのつもりでいるんですけど……」
「ズっちゃんが良くてもオンナが寄ってくるじゃろう!?公園の鳩のように!」
寄ってくる女性をハト呼ばわりする。面白いが笑ったらどちらにも怒られそうだ。
「鳩はなあ?エサを貰えるとわかるとポッポポッポ言うて寄ってきよる!厚かましいにもホドがあるけ!」
「そ、それは俺がエサを撒かなければ良いんじゃないか?」
「アカン!ズっちゃんが撒かんくても鳩は寄ってきよるが!そう言うモンなんじゃ!」
やけに熱が入っているな。そんなに心配しなくても浮気なんてする気が無い。そのせいで君を失ってしまったら俺には絶望しか残らなくなる。
「良えか?ズっちゃんは黙っちょるだけでオンナが寄ってくるんじゃ。やから”自己防衛”をキチっとせにゃならん」
「自己防衛……?」
「そうじゃ。寄ってくるモンは寄ってきよる。やから自分から”彼女がいます”アピールをして防衛するんじゃ!」
「そ、それは言われなくてもそうするつもりだけど……」
「”つもり”!?そうしろと言うとるんじゃ!」
「わ!わかった!から!くすぐらくぁwせdrftgyふじこlp」
酒を飲んでいたらぶち撒けていただろう。肺も胃もひっくり返りそうだ。
「コレに懲りたらわりことしはアカンがよ!?」
「は、端からする気はございませぬ……」
過剰に反応する彼女に恐怖を覚える。する気は勿論無いが、もしシたなら死罪は免れまい。
「わかったかよ!?」
「はい。わかりました……」
「ズっちゃんは莉ったんのモノ、莉ったんはズっちゃんのモノ、わかったか?」
「仰せのままに……」
息切れしながら判決を受ける。下手な筋トレより腹筋に効果がありそうだ。
「わかったならもう一回じゃ♡」
「ええっ!?マジっすか……?」
「へんしもせんと夜が明けゆうがよ?」
彼女の瞳に映る月を見ながら、ちゃんと運動をしておけば良かったと後悔する。歳は取りたくないモンだね。




