#199 : 「あなただけを」
とうとう本をめくってしまった。物語は始まる。
いつも怖かった。不安だった。ちゃんと読み終えることが出来るのか。
正しいとあろうとする俺と、自由でいようとする俺。どちらも俺なのだけれど生きていくにはバランスが大切だ。今までは偏っていた。常に正義であろうと。
自分を納得させる材料が必要だったんだ。それが無ければ前に進めなかった。材料が揃わなかったらソレを言い訳に逃げることが出来た。でも、もう逃げない。
この手で抱きしめた感覚、体温、彼女の息遣い……。もう、手放すことなどできない。他に替えが効かない。後戻りはできない。
「お待たせやのや♡」
「お疲れ」
俺達は再び桜木町で待ち合わせた。初めて君とデートした場所。思い出となる記念すべき街。
「今日はお腹空いちょるき!」
「たくさん食べられるのか?」
「モチロンじゃ♡」
自然と繋ぐ手と手。柔らかくて、温かく、優しい手。もう、離したくない。
「ズっちゃんは意外と積極的なんやなあ?」
「そうか?」
「この繋ぎ方は”恋人繋ぎ”言うて、ラブラブな二人がする繋ぎ方や♡」
自然と指を絡めていた。そうしていないといなくなっちゃう気がして。
動く歩道で彼女をそっと後ろから抱きしめた。
「なんじゃあ?そないにさみしかったんかよ?」
「……ああ。ずっとこうしたくて苦しかった」
「甘えん坊じゃのう♡」
自分の頬で俺の頬をスリスリしてくる。
「ずーっと一緒に居ろうな?生まれ変わっても、時代が変わっても」
「もう、離さない」
「愛しちょる♡」
「 」
第一部 完