表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/252

#198 : ずっと待っていた。

「ズっちゃん♡」

 天使の微笑で俺を呼ぶ。この笑顔を独り占めできる、そう考えただけで震えそうだ。


 莉ったんは所謂”かまってちゃん”、何かとスキンシップを取ったりチョコチョコと動いている。

 弾幕のようなメッセの理由も理解できるような気がする。常に構ってもらえないと不安になるのだろう。

 本質的には俺と真逆だ。俺は放っておいて欲しいタイプ。犬猫で言うなら猫だ。適度な距離感が良い。

 彼女は猫のように振舞い、犬のような健気さを持っている。二面性……、いつか感じたことを思い出す。そこが魅力的なのだけれど。


「明日は仕事やき、今日は遅くまで居れんがよ」

 眉尻を下げて寂しそうに呟く。コロコロと表情が変わるのも魅力の一つ。

「基本は平日休みなの?」

「販売職やからのう。土日祝は出勤じゃ」

 休みが被らない……。これからお付き合いをしようと言うのにいきなり壁に当たる。前までの俺なら悲観したが、今は違う。君に会うためなら。


「平日、仕事終わりに会ったり、俺が有給を取れば時間は作れる」

「そうじゃな!お互いの時間を調整すれば会えるのう!」

 工夫次第でどうにでもなる。仕事と同じだ。一緒にはしたくないが。


「そいたら来週の月曜はどうじゃ?」

「GWは予定が無いからいつでもOKだよ」

「決まりじゃの!」

「場所はいつものカフェで良い?」

「横浜に行きたいが♡」

 この前行ったばかりじゃないか?


「観覧車の方には行っとらんけ、乗ってみたいがよ!」

 あすこの観覧車は当時は世界一の大きさだったが、いつの間にか追いやられてしまった。俺、高いところ苦手なんだよな……。

「なんじゃあ、ズっちゃんにも怖いモンがあったかよ?」

「饅頭が怖い、じゃなくてまだ良かったよ」

 ロックの合間に落語を聞く。俺の古い言い回しはじいちゃんとばあちゃん、落語の影響を受けている。


「仕事終わりに行くからの!初めてのお泊りやな♡」

 ……いつものように心臓が高鳴る。付き合っていても、いなくてもそういうことだよな……。

 彼女は最初から俺を受け入れてくれるつもりだったんだ、俺も腹を括らなきゃだ。景気づけにウイスキーを飲み干す。

「飲み過ぎはカラダに毒やからのう?」

「わかっている、ありがとう」

 腰の痛みも酒のせいか?本当に歳を取ったと実感する。運動不足もあるだろう。


 次回のデートの約束をし、俺達は店を後にした。



「ニオイ、大丈夫?」

「これもズっちゃんと思えば良い香りなんじゃ♡」

 本当に前向きだな。気にしすぎるのも俺の悪いクセ。彼女が良いと言うなら良いんだ、気にするな。


「今日はここで、また月曜に」

「寂しいのう……」

 本当に寂しそうに呟く彼女。俺まで寂しくなっちまうよ。

「ズっちゃん、サヨナラのちゅーはしてくれんのかのう?」

「……へ?」

 いくら俺が吹っ切れたとは言えここは会社がある駅だ、人の目がありすぎる。


「さ、流石にそれはちょっと……」

「しゃあないのう!今日はコレで勘弁しちゃろう♡」

 そう言うと俺の胸に飛び込んできた。彼女の香りと葉巻の香りが混ざりあって不思議な感覚になる。

「ぎゅうーってしてくれんのかよ?」

 その気持ちに応える様に強く抱きしめた。言葉に出来ない安心感、至福の時。このまま時間が止まってしまえば良いのに。


「来週が楽しみじゃ!気をつけて帰ってな♡」

「ああ、俺もだよ。莉ったんも気をつけてな?」

 いつもでも離そうとしない彼女に切なさがこみ上げてくる。こんなにも愛おしいなんて……。


 前回のようにいつまでも振り返りながら手を振る彼女を見送る。

 独りになった瞬間、寂しさが増してくる。もう、彼女を欲している。


 抱きしめた感触と体温が無くならないように、ゆっくりと改札に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ