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#195 : 年代気候

 会社とは反対方向の歓楽街へと向かう。


 日差しも強くなってきたが、健康のため徒歩で行く。莉ったんもお散歩が好きなようで歩くことは苦にならないようだ。


「ほれほれ、あのビルん中にバーがあるじゃろう?俺も”大井グループ”の息がかかっておるんじゃ」

 手広くやっているんもんだな。会社は副業OKなのか?


「名目上は”相談役”や”顧問”の立ち位置に居ると言っておったな」

「どちらにせよ役員クラスだ、そりゃ良い給料を取っているだろうな」

「常勤?やなくて何ちゅうがかもう一つの方じゃ!」

「……非常勤、か」

 非常勤なら無報酬と言うカタチでも成り立つ。本職があるからな。確定申告でバレてしまう。

 …とは言え、そんなに手広くやっているのに無報酬?キナ臭いが俺には関係のないこと。彼に個人的な恨みは無いし、確証も無いのに騒いでもしょうがない。


 学生の頃に良く言ったカラオケのチェーン店は軒並み潰れちまった。時代の波、何だろうな。俺は歌うよりかは飲んでいる方が合っているだろうけど。目に着いた適当な店に入った。

「時間は2時間でえいかよ?」

「お気の召すまま」

「ほいたら朝までいくぜ!?」

「流石にそれはカンベンしてもらいたいな。二時間にしよう」

 歌い足りなくなったら延長すれば良い。カラオケすら何年ぶりだろうか……!



「ズっちゃんはビールかよ?」

 リモコンを見ながら聞いてくる。会社の飲み会の延長ならビールだが、歌いに来た時はアルコールを取らない。声が出なくなるから。

「ホットコーヒーを貰うかな」

「雨が降りよるぞね……」

 俺が酒を飲むと皆が心配する。飲まなくても心配される。俺はどうしろと……。


「何ごとも”適量”が大切や!」

 俺の適量はどれくらいだろうか?BMIで行ったら”痩せ気味”に分類されるから、アルコール量は数g程度が適量なんだろう。

「莉ったんのBMIはそらあアカンがよ!小学生並みじゃ!」

 これだけ痩せていたらなぁ……。俺も線が細いと言われるが、筋トレをちゃんとやっていた時はそれなりにストイックなカラダをしていた。酒を飲むために筋トレをしていたようなカンジだったけどな。


「莉ったんからいくぜ!」

 最近の若い子の曲は正直知らん。48人いるグループは誰がどれに所属しているのか、下手をするとユニット名すらわからない。唯一わかるのは言い訳がましい曲だ。


 女の子が歌う男の子の片思いの歌。あの作詞家は演歌の大御所の有名曲も書いているが、心情を表す言葉が絶妙に刺さる。好きだと言い出したいのに言い出せない。”多分”と言う言葉で自分自身を誤魔化す。まるで俺みたいだ。

 夏休みが明けた登校日を模しているが、今日のピーカンな青空にもピッタリだ。莉ったんが歌っている間にコッソリ入れておく。


「おいよー!コレは入れ取らんぜ?」

「俺からのリクエストだ。歌ってくれないか?」

「随分と懐かしい曲ばあ入れるんじゃのう!」

 俺のレパートリーはもっと古い。昭和初期の歌謡曲ばかりだからな。


 マイクを通さなくても通る声。鳩尾にダイレクトに響いてくる。それはそれは楽しそうに歌っている莉ったんを見ているだけで俺が楽しくなってくる。ライブ、演りたいな。


「莉ったんばかり歌っちょるがが!ズっちゃんは歌わんのかよ?」

「俺……かぁ」

 あのコがそっと瞼を拭いた歌なんて知らないだろうなぁ……。


「……スナック育ちのオラでも知らんがよ」

 ほれ見ろ。スナック歴で行ったら俺の方が格段に上だ。六十代から七十代の人と飲んできたんだからな。


 母親が仕事三昧だったから、躾や立ち居振る舞いはじいちゃんとばあちゃんに育てられた。だからなのか昭和初期が一番落ち着くんだ。ましろと意気投合したのもそこだろう。莉ったんはもう少し前、大正や明治辺りかな。ファッションセンスにもレトロが組みこまれている。


「後、俺が歌えると言ったら……」

 アメリカンロックンロールにジャパニーズポップスくらいだ。ここ二十年近く音楽の更新をしていない気がする。

「莉ったんが教えちゃるけの!最近の曲でも良いのはこじゃんとあるんじゃ!」

 嬉々としてマイクを握る彼女を見ているだけで満足だった。こんなことならビールにすれば良かったかな。

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