表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/252

#187 : 氷解

 酒を飲んでいるのは俺くらいだと思っていたが、別所もそれなりに飲んでいた。


 見たところ少し酔っているように見える。初めての飲み会で楽しくなったのか?迷惑をかけないなら多少のことは目を瞑る。柏木は酒の席に慣れていることが災い?したのか別所のお守りみたいになっている。


「はるるんぱいせん、全然進んでないじゃないですかぁ~」

「んー、革命が非暴力で出来なかったから……」

「史実通りじゃないですかぁ!」

「ゲームとは言え、ちょっとね」

 柏木は平和主義なのか、ゲーム内のシナリオに心を痛めているようだ。


「……なん、で?」

 神谷が珍しく?口を挟む。非暴力についてなのか、ゲームについてなのかわからない質問。言葉が足りないな。

「小さいころバレエを習っていて、ソビエトやロシアについて学んできた()()()でしたけど、私が憧れていた世界とは違うなって」

「はるるんぱいせん、バレエできるの!?」

 グラスを煽りながら聞く姿はおっさんのようだ。一番若いと言うのに……。


「バレエは中学まで、高校に上がるときに新体操に移って、そのまま大学まで。バレエでできること、できないことで言ったらできない方が多いかナ」

 少し恥じらい気味に語る。なるほど、バレエに新体操、体幹が良いからダーツのスジも良いんだな。投げる時に身体がブレないのはとても大切なことだ。


「はるるんのレオタード……!」

 脳汁をダラダラと溢れ出させている和田をぶん殴ろうかどうか迷ったが、柏木の平和主義を尊重して拳を仕舞う。

「楓さんは何かやってらしたんですか?」

 さり気なく、気を使わせない聞き方に感心する。この流れで神谷の情報を引き出せるのは柏木しかいなさそうだ。


「私、は……、ずっと勉強ばかり」

 陰が一層濃くなる。話したく無いんだろうな。彼女の経歴は知らないが、勉強ばかりしていたってことは頭が悪いワケではなく更に良くするために、だ。地頭は良いのだろうけど、社会人としては及第点だ。


「美希ティーは?」

 脳汁を垂らしながら興奮気味に四ツ谷に聞いている姿は、獲物に興奮するオークのようだ。前に沙埜ちゃんに罵ってもらっていたな?


(わたくし)は吹奏楽部でした」

 だから音楽の話がしたい、なんて言ってたのか。俺は四ツ谷に見合うだけの音楽知識は持ち合わせていないけどな。

「パートはなんだったの?」

「クラリネットです!」

 お嬢様にピッタリだな。俺のイメージはピアノだったけど。


「和田君は……?」

「ボクはバスケしてました!」

 ええっ?と一同似たような顔で和田を見る。以外過ぎるだろう!?

「身長が伸びなかったので辞めちゃいました!」

 俺より少し低いくらいだ、バスケするには足りないな。


「杏樹ちゃんは?」

「私は漫研デス!」

 あちゃあ、と言いたげな顔で別所を見つめる四ツ谷。なんか問題があったのか?

「か、課長は!?」

 今浮かべた表情を悟られないように矢継ぎ早で聞いてくる。

「俺は、軽音楽部。ピアノ以外は全部やる」

 気恥ずかしくなってグラスを煽る。日本酒に切り替えちゃおうかな……。


「それでこの前はギターをお持ちだったんですね!」

「美希ティーぱいせん、課長と会ったんデスかぁ?」

「ほら、この前のDVDの件で」

 二人の過去に触れられた気がして胸が痛んだが、おくびにも出さない四ツ谷に感謝する。


「にしても楓ぱいせん!スタゲ好きとして良いお相手が見つかりました!」

「そ、そう……」

 少し迷惑そうに映ったが、まだ距離感が掴めないってカンジだ。柏木も別所も良く話しかけてくれるので、神谷も徐々に返事が増えてきた。根っから人がキライってワケじゃあ無さそうだ。


「そうだ!ダーツだけではなく、ゲームも合わせてサークルにしませんか?」

「わあ!春香ちゃんソレ素敵です!」

「サークル……?」

 不思議そうな顔で見てくる別所と和田に四ツ谷が説明する。


「師匠~!ナニ楽しいことを独り占めしてるんスか!」

「いや、サークルって言っても俺を含めて三人しかいないしさ」

 珍しく絡んでくる和田。別に隠していたワケじゃないからま、いっか。


「会社とは別の動き方だから、小難しいことは言わない。皆が平等で楽しめるサークルにしていこう」

「やったあ!楓さんもメンバーですからね?」

「え、ええ……」

「強制ではないからイヤなら活動に参加しなければいいだけのこと。もっと軽く考えてもらって良いよ」

「は、はい……」

 フォローにならないフォローを入れるも、神谷は乗り切じゃ無さそうだ。


「サ、サークルは、いつ集まっているのです、か?」

「特には決めていないんだ。今日みたいに突発的に開催する」

 まだ遠慮の方が目立つが興味を持ってもらえたかな?神谷から質問してくるってのはそう言うことだろう?


「この際だから次回を決めちゃおうか?」

 全員了承した顔つきで俺を見る。あっという間に人数が倍になった。目立つことは避けたかったけど楽しめる”仲間”が増えるのは良いことだし、神谷も楽しんでくれたら俺へのご褒美だ。


『ヴヴッ……』

 マナーモードの携帯が”忘れてはおるまいな?”とお知らせをしてくれる。莉ったんが仕事を終えた頃だ。

 ガタガタ言われる前に今日はこれでお暇しよう。残りは若いモン達で楽しんでくれ。恰好つけて会計を済ます。ああ、万年金欠病よ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ