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#178 : 捏造

 正直に降参(バンザイ)しよう。


 適当に受け答えしてまた詰められるのは御免被りたい。

 とは言え記憶が無い……。俺が、本当に、”愛してる”なんて言うか!?


 自慢じゃないが、ちょっとやそっとじゃ”好き”だの”愛してる”など口にはしない俺のガラスのハート。強度は鉄をも上回るってのに。


 どうやってバンザイすっか。メッセから謝った方が良いのか?その前に、優とましろからウラを取るか……。



『お疲れー!カズさんはたしか”電話のヒトに怒られるって”言ってて、12時前には帰るって焦っていたよ?』

 電話のヒト……、莉ったんだろう。一番最初の電話の時にはそんな約束をしていない。スマホの着信履歴を見るが、天辺(十二時)過ぎたくらいの一回だけだ?


『そっか。疲れてるところありがとう。ゆっくり休んでな。』

 俺も相当に酔ったが、ましろも立って居られないくらいに酔っていたな。次の日、つまりは今日が休みだからって飲ませすぎてしまった。お次はアホだ。


『オメーは俺とましろちゃんを殺す気かYo!?テキーラ4本は空けたゾ?』

 そうだ。正確には三本と半分。それでも一人あたり一本は飲んでいる。で、お店のストックが無くなって、ウォッカのボトルを無理言って入れてもらった。テキーラとウォッカだけでお会計の三分の一を占めている。


 ほんで、俺も含めて皆がヘベレケになったのが……二十三時。そうだ!電話が鳴って一旦シラフに戻ったんだ!急いで業務端末の着歴を見る。

 登録されていない番号が二つ。(くだん)の事務局長は時間帯で覚えている。まだ全然飲み始めの頃だ。もう一つの番号には見覚えがある。


 迷子になっていた記憶がよちよち歩きで俺へと向かってくる。もう少し。もう少しで解明される……!

 思い出そうとすると二日酔いの頭痛が増してくる。なんの罰ゲームなんだよ!


『まあだ飲んじょるのか!?わりことしめ!』

 彼女の声が頭痛の脈動と共に再生し始める。


『おうおう、オンナの声がするがよ?なあにしとるんじゃ!』

 ましろがギブアップして、バックヤードに消えて行き、ママを呼んで謝罪をしてる時だ。ましろのタクシー代として万券一枚を渡した。


『莉ったんが今から乗り込んでやるからの?』

 ギターを担ぎながら、アホを支えてタクシーとっ捕まえて、札入れから万券を一枚渡した……。そうだ。これで二枚の行方が分かった。


『なんじゃあ?酔ってるわりにはまともなことを言うのう?』

 ……で、もう一度ギターを抱え直して、”これは業務用だから私用でかけたらダメだ”みたいなことを言った?うん。言った。そしたら、


『私物やとシカトするけの!コッチ(業端)の方にあえてかけたんじゃ!』

 見事に俺の心を読んで私物にかけなかった。それは正解かも、って言ってたな。アホか。俺は。そんで、私物にかけ直させた。


『これからタクシー乗るんか?』

 で、運転手さんにハナシを聞かれたくなかったから、家に着いたらかけるって言って電話を切り、メッセでやり取りしてたんだ。怒りを宥めるため彼女の言う通りにメッセを返信していた。ヘベレケな上に揺れる車内、そこにプラスして薄暗い。だからあんなにも暗号めいた文になってしまったんだ。


 家に着いてギターを所定の位置にしまった後、案の定ベッドに突っ伏して寝た。暫くしてメッセの返事も電話も無いから、痺れを切らして向こうからかけ直してきたんだ。想定する帰宅時間とつじつまが合う。良いぞ。もう少しだ!


『莉ったんを一人にしといて寝るがか!?』

 またもやトップスピードでキレられてヘコヘコ謝っていた。


『謝るんはサルでもできゆうが!誠意を見せんか!』

 誠意?酔った頭では誠意もクソもない。思考が停止しているのだから、こんな状態で恋の因数分解をさせても永遠に答えは出ない。


『誠意っちゅうモンはまごころ、正直なズっちゃんの態度じゃ!』

 まごころ。言葉では簡単に出てくるが、実際に行動に出してみろと言われると難しい。


『そうじゃろう?どればあ莉ったんが心配しちょったか。それに見合うだけの誠意を見せるっちゅうのが鎌が切れるオトコがが』

 かまがきれる?金曜日は”前が切れる”と言われたのに、今度はカマだ。切れなければ研げば良い。


『鎌が切れるんは”処理能力が高い”っちゅうことじゃ。ズっちゃんはたっすいオトコやないがやろ?』

 そうだ。同じ切れるでも意味が違うんだった。こんな俺を男らしいと褒めてもらって、少し浮かれていた。


『誠意はな、莉ったんを愛しちゅうがと言うことじゃ。わかるかよ?』

 ……点と点が繋がり、一本の線になった。俺からの告白は作られた言葉、言うなれば()()された愛の言葉だ!!


 危うく担がれてしまうところだった!誘導尋問に引っかかってまんまと言わされただけじゃないか!しかし、酔っていたとは言え伝えてしまった事実がある。これを覆すためには……反対尋問だ。だが、裁判でも無いのにそんな大袈裟なことをしても意味が無い、か。


 これで俺が弁明すれば”酔っていたとは言え愛には変わらない”とか何とか言って煙に巻かれるだけだな。キリキリと頭が痛む。おのれ二日酔いめ!


 ……おのれ?オノレ・ド・バルザック?痛む頭をもみもみしながらこの名前の主を思い出す。フランス……?の、小説家だ。


 ”恋愛は、必ずどちらかがズルをするゲームだ”


 ったく、こんな時にこんな言葉を思い出すなんて。まだ始まってもいない恋愛をどうしろと言うのだ?

 恋愛。恋は下に心があるから”下心”、愛は真ん中に心があるから”真心”。彼女が取った行動は俺に対する真心ではなく明らかな()()だ!これだ!


 何か言ってきたらコレで返そう。やっと一息入れらる。気づいたら十五時になっていた。せっかくの日曜日を潰してしまった……。これに懲りて深酒は止めよう。


 迎え酒しちゃったから、四ツ谷との約束を反故してしまった。

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