#175 : 善友の怒り顔より、悪友の笑顔
「この前の電話のお相手だったりして!?」
ましろも、と言うか俺以外?はカンが働くし、客観的に物事を見ている気がする。
「なんだ、カズにオンナできたんか?」
不服そうに優がちゃちゃを入れる。ったく。
「彼女とかオンナとかじゃなくて、だな」
言葉を続けようとしたら、業務端末が鳴っている。四ツ谷か?
『お世話になっております……』
委託先の事務局長だ。遅いっての!とは言え向こうさんも休みのはずだから相身互い、しがないサラリーマン家業は辛いやね。
事務局長から電話越しに謝罪を受け、火曜の期日までに報告書を送付するとのこと。委託先と言っても二年に一回、コンペで決める。ココは二期目に入ってるから四年の実績があるというのにヘタ打ってくれたな。
「あ、ほんとだぁ~!」
「人の顔を見るなり何だよ?」
「な?仕事ん時は目つきが違うダロ?」
人がいないところでナニを勝手に話してたんだよ。
「カズはさ、良いことも悪いことにも真面目なんだヨ」
「それって褒めてんのかよ?」
「良いこと、は解るけど、悪いことってどんなコト?」
グラスを傾けながらましろが聞いてくる。
「俺らは人のモンや大切にしているモンをパクったり、キズつけるのはご法度だったんだヨ。無意味な暴力も。カズがそこら辺の線引きをしたんだ。校内でウラからまとめていったってカンジ」
「今日のオメーはやけに饒舌じゃねーか?」
過去をペラペラと話され少しイラついてくる。
「ほら!やっぱり優しい人が起こる時が一番コワいんだよ~!」
おっと。優に向けたのにましろをビビらせてしまった。いかんいかん。
「そうなんだヨ!カズが切れたらいっちゃん”メンドクサイ”!」
「そろそろいい加減にしとけよ?」
「もーいーじゃねーかYo!何十年も昔の話だ、誰も覚えちゃいねーYo!」
そりゃそうだけど、俺の気持ちとか色々あるんだってのに。
「カズ、オラァ昔にはホコリを持って語ってんだ、あの頃の輝きを曇らせるようなマネはしてくれんなヨ?」
オラ、一人称では関東でも使うが、麻生のはやはりイントネーションが違う。
暴走族上がりの優のワードセンスは読んでいた本の影響もある。不良ばかり掲載され、不良向けの雑誌なのにやたらとロマンティックな言葉で見開きや紹介文を書く。今読み返すと気恥ずかしくなるようなセンスだが、あの頃はなぜかカッコ良く見えていた。
「ムカシ、ムカシって言う割にはオメーは変わんねーじゃんかよ?」
「オリャー死ぬまで16歳だからナ!」
「ステキな16歳だね!」
おいおい。アメリカンポップスが不良ソングになっちまうよ。
「で、彼女とかオンナとかはどうなんだヨ?」
「覚えてやがったか」
「人をトリみてーに言ーな!」
おかしいな?こいつの頭ん中はトリ以下だと思ったのに。
「……ってことがあって、昨日ジャズバーに行ってきた」
「なんだヨ!帰るんなら声かけろし!」
「スグルさん!デートなんだからそれじゃお邪魔虫だよ!」
「俺も久しぶりだったけど、アソコは相変わらずみたいだったよ」
街並みを、風景を伝えると感慨深い顔つきで優がグラスを煽る。
「そっか。変わらねーんだナ。あの街も、俺たちも」
「お前はともかく、俺は変わった気がするんだけども?」
「カズさんが電話してる時にスグルさんから聞いたけど、カズさんは根本的に変わってないと思うな?」
にゃろめー!ナニを吹き込んだんだ!?
「困ってる人を放って置かない、問題から逃げ出さない、仲間を心から想う。言葉で言う分には簡単だけど、周りの人からそう認めてもらえるのってスゴイことじゃない?」
優は話を盛るクセがある。今回の件で委託先に少し針小棒大にクレームつけたけど、コイツは針がチョモランマみたく吹聴する。
「コイツの話は十分の一以下で良いから」
「ちょっ!せっかく良いこと言ってやったのにYo!」
「ホント仲良しさんだね!」
何だか高校生の時の放課後みたいな感じだな。懐かしさを覚える。よくベンチでこうして並んで腰かけて、くだらない話ばかりしてたっけ。他のヤツラも元気してっかな?
ましろが言ってくれた言葉はあながちウソではないと思っているが、自分から言うことでも無い。俺を求めているならそれに応えるだけだ。……瑠海が似たようなことを言っていたな?
『私は常に形態反射を繰り返すだけの人間だったのよ。』
彼女も俺も、似たようなところがあるのかも、な。
「カズさん?大丈夫?」
「なんだヨ!これくらいで酔ってんのかYo!」
瑠海は孤高な存在だ。彼女自ら望んでそうしている。俺もそうだと思っていたけど、こうして皆が居てくれる。最近は不思議な安心感さえ覚える。歳を取ったってことなのかな。
「俺に酒でケンカ売るなんて一億光年早いってんだ!ましろ!テキーラ持ってこい!」
「おおっ!久しぶりにヤルかぁ~!?」
「カズさんが壊れた~!」
壊れた、じゃなくてこっちが正常なんだろうな。過去に囚われ過ぎるのも程々にして、今を楽しまないとだ。
……金欠なの忘れてたYo!




