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#160 : 水曜日の爆弾

 昨日はとんでもない目にあったな。未だに実感が無い。


 家に帰ってからも麻生とのメッセは続いた。文字を打ちすぎて両手の親指が痛い。ってことは夢ではないんだよな。きっと。

 今朝は今朝とて嵐のようにメッセが飛んでくるから、出勤時から気が気でない。今どきの若いモンは皆こんなにメッセ送ってるのか!?そんなに話したいことがたくさんあるのかよ?


 会社に着くまでメッセのやり取りをする。

『あまり無理せんようにな♪』

 やっとひと心地つけた……が、定例会の資料が八割がたしかできていない。急いで仕上げなければ。


「……前週対比だけで見ると落ち込みが懸念されますが」

『ヴヴッ……』

 手帳の上に置かれた私物携帯(プラケー)がメッセだよ♪と無言の合図をくれる。会議中だろうが何だろうがお構いなしだ。麻生も今日は仕事だよな!?

 構わずに会議を続ける。


「失礼しました。引き続き、春の商戦期中は」

『ヴヴッ……』

 しつこいなあ!こっちゃ仕事してるんだっての!


「メンバー間での情報共有を軸に」

『ヴヴッ……』

 いい加減にしないと俺も怒るんだからな?話しながらジャケットのポケットに突っ込む。


「垂直・水平展開をとりつつ応援販売で」

『ヴヴッ……』

「……大丈夫か?」

 田口にまで心配されちまったじゃないか!


「申し訳ございません。このまま続けさせていただきます」

 会議が終わるまで、会議が終わるまで耐えるんだ……!


 その後も息をするかのように俺の私物携帯(プラケー)は鳴り続けた。


 なんだってこんなに送ってくるんだよ!?メッセアプリの数字を見て俺は背筋に嫌な寒気を感じた。

「さ、三十二通……!?」

 今日の会議はまだ期が始まったばかりなので報告する内容も薄い。約一時間。二分に一通のペースで送ってきている!


『やほ♪お仕事はどないや?ズっちゃんは無理しすぎるけ、ほどほどにな♡』

『莉加っちはこれからランチじゃ!』

『お弁当手作りしちょるんよ♪かわええやろう!』

 の、後に弁当の写メ。麻生の弁当箱は俺の掌サイズ、確かに可愛いのかもしれない。が……


『卵焼きにはこだわりがあんねや!今度ズっちゃんの分も作っちゃる♡』

『ズっちゃんはお昼もう食べたかよ?お忙しいんか?』

『お昼はちゃんと食べんとアカンよ?』

『なあなあ、お返事できひんのか?』

『(´・ω・`)ズっちゃん……』

 読むのだけで疲れてくる。俺からの返信が無いのにひたすらメッセを送り続ける彼女は、いったい何がしたいんだ!?


 自分のデスクに戻り、取り合えずの返信を送る。

『会議中だったので。それと、基本的に昼メシの時以外は返信はできない。』

 まだ痛みが残る親指で打つ。なんか以前よりかは早くなったような気がする?


 あんなにも送りつけといて、麻生からの返信は無かった。




 外出から戻った楓は、入口で挨拶もせず無言で帰社する。


 入口での挨拶は強制ではないが、社会人たるもの最低限必要なマナーである。それすら面倒に思う楓。

 外回り時に配布する資料が切れたので印刷しに帰ってきたのだが、できれば一秒たりとて会社(ヴァルハラ)に居たくなかった。


(マジでだりー。しかも水曜。田口(ヘイムダル)の機嫌が悪い日だよ)

 数字が良くても悪くても田口はいつも機嫌が悪い。ように感じているのは周りだけで、当の本人は通常運転だ。

 焼き鳥屋で美希に話していたように和田は気づいていたようだが、小畠はやっと理解を示すくらい、楓は『拒絶』しかない。


 その田口が首を捻りながら喫煙室から戻って長野と話している。

「いつもは会議中に鳴らないのに、今日に限ってやたらと鳴っていた。もしかしたらご家族とかに何かあったのかもしれない。和田でも誰でもいいから、それとなく聞いといてくれ」

「……私よりかは和田の方が適任でしょう。伝えておきます」


 丁度よく和田が通りかかる。

()()()()おかえり!」

「も、戻りました……」

 正直に言って楓は和田が苦手だ。こちらにお構いなく距離を縮めてくる。小畠ほどではないが、彼女も人との距離感がわからない。近くなってウザがられるくらいなら最初から近づかない。いつしか楓の癖になっていた。


「和田、ちょっといいか」

 長野が割って入ってくる。これ幸いと離れる楓。とはいえコピー機は目の前なので、どうしても近くになってしまう。

(早くどっか行かないかな)

「……と言うわけなんだけど、心当たりは?」

「いやあ、無いッスねえ!」

「それとなく確認してくれ。くれぐれも二課(こちら)からなんて言うなよ?」

「大丈夫っスよ!」


 なんとなく聞こえてきた会話に、昨日こっそり遠目から撮影した写メを思い出す。

(そんなバクダンみたいに送るの、あの人(メンヘラ)に決まってんじゃん……)

『同類』と称したのなら自分も爆弾クラスなのだろう。

 莉加のように猫を被っているわけではないが、誰とも交流を持とうとしない楓は浮いた存在だった。


「かえっぺ、この後って予定あるの?」

 和田がこちらにお構いなしに詰めてくる。

「ちょっと一課に用があるから一緒に行こうよ!」

「な、なんで私が……」

 面倒ごとはごめんだ。『ラグナロク』だとしても当事者にはなりたくない。


「この前の飲み会のお礼も兼ねて挨拶に行こう!向こう(一課)にもちゃんと覚えてもらって、皆でやっていこうよ!」

 小畠に育てられただけあり基本的に仕事が軸の彼は、飲み会でもつまらなさそうにしていた楓を心配していた。誰とも関わりたくなかった楓にとっては良い迷惑でしかない。


(なんで一課(アッチ)に挨拶しに行かなきゃいけないの?)

 楓も会費を払っている。礼を受けても返す立場ではない。

(もしかしたら、この人がロキだったりして)

 彼女はもう少し、人生経験が必要だ。和田を『ロキ』なんて言ってるうちは。

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