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#152 : 終着点は、出発点である。

 毎度おなじみの月曜日にござい。ひと段落したら気が抜けちまったな。いかんいかん。


 瑠海へのお返しの紙袋をこっそりとキャビネの中に仕舞う。バレちゃったらサプライズにならないしね。後はどうやって渡そうか?今日は会議があるけどまだ新年度がスタートしたばかり、遅くはならないだろう。麻生からも火曜会の連絡がないから明日でも良いかな。こんな高価なモノを手元に置いておきたくないと言う気持ちもある。


 そんな俺の悩みとも言えないような些細な問題を無視し、珍しく月曜からニコニコしながらリンが挨拶に来る。月曜は数字を拾いに行くから、一課はバタついていてそんな余裕などないはずなのに。


「おざーす!こないだはゴチになりました!さっすが課長!俺たちにできない事を平然とやってのける!そこにシビれる! あこがれるゥ!」

「朝イチからうざいなあ!」

 何事かと柏木がこっち見てるじゃないか!


「で、どうでした!?」

「ナニがだよ?」

 わかっていながらすっとぼける。いくら俺が前よりかは自己開示をするようになったとは言え月曜の朝イチ、社内で話すことじゃあないし、相手の了承も取っていない。軽々しく話していいことじゃない。


「気になるじゃないスかぁ~!」

「リンの方こそどうなんだよ?」

「こ、ここではちょっと......」

 一体ナニがあったというんだ?気にしたら負けだ。仕事しよう。


「会議終わったらちょっと良いスか?」

 どうしても話したいらしい。正直、他人の色恋に興味は無いし、瑠海への贈り物もあるから別の日にしてくれないかな......。

「ったく。外出るか?」

「そうしてもらえると助かります!」

「こういう時だけはちゃんと頭下げるんだから!さっさと数字拾ってこい!あっ、領収書出してから行けよ!」

「わっかりましたぁ!いてきまーす!」

『いってらっしゃーい!』

 新メンバーが増えたためか、合唱団の皆様も気合が入っている。


『ティロン♪』

 メッセージが届いたと不機嫌そうに携帯が呟く。朝から忙しいこと。そりゃ月曜だしな。


『お世話になっております。先日は楽しい会にお誘いいただきましてありがとうございました。』

 麻生からだ......!


『先日、お願いしておりました火曜会の件ですが、ご都合がよろしければ明日、ご予定はございますか?』

 あっても空ける!脊髄反射には頼らない!


『お世話になっております。こちらこそお付き合いいただき、ありがとうございました。新年度ですが私は空いております。』

 ウソだ。本当はそれなりに忙しい。でもこのチャンスを逃してたまるか!チャンスの神様は前髪しか無いのだ、掴み損ねたらそこで試合終了ですよ!


『ご確認いただきありがとうございます。お手数をおかけいたしますが、宜しくお願い致します。』

 良かった。俺の隕石のせいで嫌われてしまったかと思った!しかし皆いきなりだよな。あ、俺もか。ましろに何度怒られたことか。


 週次会議も滞りなく終え、しっかりとスタートダッシュが切れている。アホなこと言ったりやったりしてるが、皆きちんと仕事をこなしてくれている。今年も勝つぞ。


「かっちょ~!」

「わぁーったっての!」

 会議が終わったと同時にリンのヤツがすり寄ってくる。何だっていきなり?社内では話しにくいとのことで何時ものカフェに行く。


「お疲れ様です!暖かくなりましたね!」

「良い陽気になってきたね。ヘンなヤツが増えるから気をつけてね?」

「何で俺の方を見ながら言うんですか!?」

「ご忠告ありがとうござます!」

 何時ものコ、“コーヒーちゃん”とでも呼ぶべきか、リンの憤慨に笑っている。

「お、俺はヘンなヤツじゃないからね!?」

「必 死 だ な」

「課長!頼んますよー!」

 リンはアイスコーヒーにするようだ。


「んーで、何だってんだい?」

「課長に連れて行ってもらったお店なのでちゃんとお断りを入れようかと」

「なんのお断りだよ?」

麻里(マリ)さん、坂井さんとお、お付き合いをば......」

「ブフォッ!」

 コーヒー吹いちゃったよ!毎度ながら飲んでるときにやめてくれってんだよ!


「そ、そりゃリンとマリさん、坂井さん?との問題だろ?俺に断り入れる理由がどこにあるんだよ?」

「いやぁ、課長は昔っからそういうのうるさかったじゃないですか?」

「そりゃ社内の問題だろ?今回のは社外だ、関係ないだろうよ?」

「......沙埜ちゃん、江口さん、お二方が関わりあるので」

「お前いつからそんな気が使えるようになったんだよ?」

 ただのチャラチャラしてる、ラッキーパンチで何とかなっているとしか会社から評価されていなかったリン。元泉と並んだ時、田口が選ばなかったのがリンだ。本人は知らないだろうが。


「麻里さんから少しだけ、課長のことを伺ったんです。仲のいいグループの一人だって。そこに無断で、土足で上がり込むようなマネはしたくなじゃないですか!」

「お前、大人になったな。お気遣いありがとう。二人の事に関して俺がどうこう言える立場では無い。二人の幸せだけ考えろ。いいな?」

「あ、あざっス!」


 優の受け売りみたくなっちまったな。マリさんの事だから、俺と瑠海のことは話さないだろう。それにしてもあのリンがねえ......。口だけで案外チャラくないのかも?新たな()()にぬるくなったコーヒーと、氷が解けたコーヒーで乾杯をする。


「で、課長の方は?」

「俺のコンプラ具合は知っているだろう?」

「そ、そうっスよね!あの(ケイ)にだって(なび)かなかったんだから」

 K?外人相手でもダメなのに、なぜ瑠海は俺の事を......っと、『恋と咳は隠せないって』紀元前から言われているからな。丸さんの時みたくバレたらたまったもんじゃない。俺の人生が終わっちゃう(終着点だ)よ。


「ってかさ、その納得具合が腑に落ちないのだが?」

「ささささーせん!許してヒヤシンス!」

 テーブルに頭をこすりつけるリンを、レジカウンターから見て笑うコーヒーちゃん。相変わらず可愛いなあ。

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