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#141 : 睡魔 〜sleepiness〜

 二組とも食事を終えて、社内の研修会議室へと向かう。


「お疲れサマです!」

「美希ティーお疲れ!アンアンもお疲れ!」

「ア、アンアン……?」

杏樹(あんじゅ)ちゃんだから!ね?」

「は、はい。朝イチに付けられました」

「和田先輩!何してるのですか!」

 テヘヘと誤魔化したが美希はまだガミガミ言っている。コンプラに抵触することと、自分へのあだ名の件の腹いせのようにも見受ける。


「では、午後から座学に入ります。資料に直接書き込んで頂いて構いませんが、コンフィデンシャルなので取り扱いは注意して下さい」

 最初は社内の簡単な沿革、今後の展開など。それから社内のルール。交通機関利用時、経費で落とすために必要な物、経費で落ちないもの等。


 座学を午後に行うのはしんどい。出来れば朝イチか昼前までに終わらせるのが良い。食後は特に眠くなるからだ。杏樹の目は半分閉じている。仲村はちゃんとコントロールできるようだ。


 次に業務に関する内容。仲村は莉加から引き継いでいるのでわかっていたが、杏樹への説明を聴きながら復習している。貪欲とでも言うのか、やる気は十分に感じられる。が、いかんせん前面にやる気が見えてこない。ポーカーフェイスもあるのだろうが、何を考えているのかわからない時がある。


「仲村さんは莉加っち……麻生さんから引継されてましたが、わからないところとか大丈夫でスか?」

「今のところは大丈夫です。後は実戦あるのみです」

 経験者は違う。和田も美希も仲村の言葉の力強さに息を呑んだ。


「別所さんは?」

「わ、わからないことが、わからないというヤツです」

「最初はしょうがないもんね。ゆっくり覚えていこうね!」

 張り切っている美希はお姉さんのようだ。


「ではキリが良いので休憩に致しましょう」

 美希が和田に振る。問題なさそうなので休憩となる。

「つっかれたぁ〜」

 半分居眠りしていたのに疲れている杏樹。頭を使うのは苦手そうだ。


「仲村さんは大丈夫ですか?」

「ありがとございます。この年でも覚える事がたくさんあって勉強になります」

 この場に小畠が居たら仲村の言葉に喜んだだろう。残念ながら二課の人財だが。


「アンアンはどの辺が疲れたの?」

「全部です!」

「身もふたもないな!」

「実は昨日、深夜アニメを見てしまって……」

「それで朝からテンション低かったのですね!」

 緊張しているのかと心配した美希が呆れる。


「アニメ?昨日だと……スタゲ?」

「知ってます⁉︎面白いですよねー!」

 スターリンズ・ゲーム。通称スタゲ。自分の出自のせいで迫害にあい、報復に粛清を起こすスターリンを止めるべく、ポチョムキンをタイムリープ・マシンに改造し、トロツキーが同志と革命を起こしディストピアを阻止するアニメだ。

 元は携帯ゲームだったが人気が爆発しアニメ化された。視聴者からは『記憶を消してもう一度観たい』と言わせるほどの名作だ。


「またアニメですか?」

 テレビに疎い美希が間に入る。

「小畠さんも絶賛してるんだよ!」

 小畠が入社したての頃、業務用の携帯は二つ折りがまだ主流だった。社内のルールで紛失防止策としてストラップをつけることが義務付けられており、帰りに缶ビールを買うコンビニでそれっぽいのを買ってつけた。この時はまだ小畠はゲームもアニメも知らなかった。

 翌る日、小畠の業務端末にスタゲの登場人物『ムッソリーニ』を付けているのを和田が見つけ、喰い入るように話しかけて来たのがより仲良くなるキッカケでもあった。


(小畠さんもご存知なのね……!帰ったらチェック!)

「はいはい。そろそろ始めますよ」

 美希先生が心の声を抑えて二人を諌める。スタゲの話で目が覚めたのか、杏樹は最後まで眠る事なく耐え抜いた。


「では、これで終了です。お疲れ様でした!」

「ありがとうございました」

「お疲れ様でしたー!」

「別所さんは今日はこれで退勤です。タッチ忘れないようにね」

「はい!」

 元気良く返事をする。研修終了と同時に睡魔は去ったようだ。


 スタゲのことを思い返して目が覚めた杏樹は、まんまと出退勤記録にタッチをし忘れた。小畠が嫌味を言われながら田口に承認してもらう姿が目に浮かぶ。

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