#135 : あの日の気持ちはテキーラの味。
流石に疲れが出始めたのか、皆んなマッタリモードに入る。時刻は朝の四時前。電車もまだだ。
和田は寝てしまい、四ツ谷と柏木が仲良くおしゃべりしてる。リンはカウンターでマリさんと、元泉はテーブルで瑠海と、俺は沙埜ちゃんと別のテーブルで飲んでる。
「今更なんだけどさ、この前、ありがとうね」
「急に言わないで下さいよ!」
「あの後、忙しくなってお店にも行けなくてさ」
「嫌われたかと思ったし…!」
二人だけの話なので要所要所を小声で話す。瑠海は地獄耳だから用心せねば。
「小畠さんはどうです?もう平気?」
「ありがとう。ちょっとショックなこともあったけど、沙埜ちゃんのおかげで乗り越えられたよ」
「ショックなこと?」
「んー、好き、とまではいかないんだけど、気になってた人が会社辞めちゃうんだ」
「マ?小畠さんが?」
「何その反応!」
「だってヒトに興味無さそうだから」
「俺は冷徹じゃないよ!」
「あははー!すません!でも意外!てっきり瑠海姉ェだと思ってたのに!」
「彼女は俺には勿体ないよ。年も容姿もセンスも釣り合わない」
「……なんでいっつもそーかなぁー!」
アレ?おこ?
「大体ですね、あの瑠海姉ェが自分から誘うなんてただの一度も無いんですよ!だって瑠海姉ェが望むものは向こうから勝手にお土産付きで走って来るんだから!」
「そ、そうなの?」
「ハッキリ言って瑠海姉ェは小畠さんのことスキです!」
「いや、そうだとしても、さ…」
「自分に焦点が当たると超絶ポンコツなんだから!テキーラ飲ませますよ?」
「ご、ごめん。戴こうかな」
カウンターまで行ってテキーラを受け取る。マリさんもリンに満更でも無さそうな感じだ。年上の余裕?いくつかは知らないけど。
「いただきます」
「そんなお通夜みたいに飲まないで!」
「そこまでわかってるならちゃんと話すけど、瑠海の気持ちも認識している。けど、どうしたら良いかわからないんだ。彼氏・彼女って何なんだろう?今だって俺達の関係を知らない人が見たら、俺と沙埜ちゃんはカップルに見られるだろう?」
「もー!考え過ぎ!好きなら一緒にいたい!それでいーじゃないですか!好きって気持ちで相手を満たして、相手からの好きで自分も満たされる、普通にしてるだけで良いんです!釣り合うとか合わないとか関係ない!今の小畠さんは相手の気持ちからただ逃げてるだけ!」
沙埜ちゃんがトーンを抑えながら熱弁する。薄らと涙を浮かべながら。
「ワタシの気持ちからも逃げたんですよ?」
「……え?」
「あの日、まだ自分の気持ちの整理が出来なくて。憧れなのか、お兄さんみたいなのか、異性として好きなのか。タクシーに乗せられた時、覚悟は決まってました。小畠さんにならナニされても良いって。それなのに…」
ヤバい。涙が溢れそうだ。
「……っと、楽しい席で話す事じゃないですね!ごめんなさい!」
「いや、俺こそ、その、ごめん」
「謝らないで下さい!ワタシが勝手に想ったんだから」
「サヤー!リン君がダーツのお詫びしたいってー!」
「はーい!ちょっと行ってきますね!」
女の子ってスゴい。気持ちの切り替え方が半端ない。もういつもの沙埜ちゃんに戻っている。いや、スゴいのは沙埜ちゃんなんだろうな。
「小畠課長、宜しいですか?」
「ああ、どした?」
四ツ谷と柏木が沙埜ちゃんが離れたのを見計らってやって来た。
「何回かやったことはあるんですけど、春香ちゃんから伺っていたらちゃんとやってみたくて」
「春香ちゃん?」
「わ、私です…」
「ご、ごめんなさい…」
「皆さんでダーツサークル作りませんか?」
そうきましたか。四ツ谷も友達できたし、俺も鍛えてもらえるかな?
「それなら会社を通さないサークルにしよう。会社通すと予算貰えるけど活動報告を出せとか色々うるさいからね」
「わあっ!ありがとうございます!」
胸の前で手を合わせ喜ぶ四ツ谷。そうか。このコの気持ちからも逃げ出したんだ。逃げてばっかだな。俺の人生。
「カズ兄ぃー!そろそろー!」
もうこんな時間だ。なんか色々あったな。楽しいはずなのにココロに棘が刺さったみたいだ。
俺が逃げ出した相手はもっと痛くて、切なくて、苦しくて、やるせないんだろう。また皆んなに助けられてしまった。いつになったらオトナになれるんだろうか。年だけは取りやがってよ。
「お疲れしたー♪」
マリさんと良い仲?になったリンはご機嫌で帰っていく。
「俺も帰ります。ご馳走様でした」
最後までヨレずに決める元泉。瑠海は落とせたかな?難攻不落の要塞だぞ。
「私達も帰ります!ありがとうございました!」
「サークルの件、ありがとうございます!リベンジお待ちしてます!」
四ツ谷と柏木は一緒に帰るのか。年も近いからすぐ仲良くなったな。
「アイナちゅわ〜ん!ま、またね〜!」
寝ぼけ眼でもしっかりと沙埜ちゃんを認識する和田。良く頑張ってくれたな。ちゃんとお礼しないとな。
「ワタシはこっちなんで!お邪魔しました!」
沙埜ちゃんは徒歩圏内に住んでいるのでそのまま帰る。店から二十分くらいって言ってから、ここからだと五分くらいかな?
「貴方はどうするの?」
「流石に疲れたよ。遠足の引率ってカンジ。早く風呂入って寝たいよ」
欠伸を噛み殺しながら瑠海に返す。皆んなが散り散りに帰っていった。瑠海もタクシーを拾うようだ。
「……また」
「ああ。遅くまでありがとう。おやすみ」
何とも濃い飲み会となってしまった。カラダがついてこない。運動しろとは言われるけれども、ナニをどう動けば良いのやら。
恋愛に関してだけ、いつも逃げ回っている自分がいる。
誰がどうしろとも言っていないのに、自分で作ったルールに縛り上げられ自滅して行く。滑稽だ。家帰ってビール飲むかな。