#131 : 穴があったら埋まりたいので私を埋めて下さい。
「ありがとうーございましたー」
バイトのコが伝票を持ってくる。この人数でこの食事、そしてこの値段。本当に良店だな。バイト増やしたらもっと良くなるのに。純利益が増えるまで時間の問題かな?
「おう、小畠」
ハーレム席から大宮が人の間を器用に掻い潜って入口までやってくる。おっ!お待ちしておりましたよ!
「さっきのは無かったな。いきなりとは言え対応出来るようにネタ用意しておけよ?それと今回の分だ。釣りは要らんから二次会に回せ」
「ご期待に添えず申し訳ございませんでした…。ありがとうございます!ご馳走様です!」
本当に俺の現金なこと。歩くPOSレジとでも呼んでくれ。銀行の封筒に入っていた黄金色は…十枚!なんと太っ腹!
それにしても無茶振り過ぎんだろ!会場を一気に氷河期へ突入させちまったぞ!俺はギャグセンス皆無なんだって!
「ここの代金分が払えちゃいますです…」
柏木が受け取った封筒の中身を見てどうするか考えている。紙の上やモニターで億単位のやり取りしてる人がビビッてどうするの。と、手汗をかいている俺が言いますよと。
「四ツ谷さん、良いかな?」
「は、はい!」
元泉と話していた四ツ谷を引き離す。意地悪したワケじゃないぞ。
「本部長からお心付けを戴いたんだ。半返ししたいから、お返しを一緒に考えてくれないかな?」
「え、ええ。かしこまりました。半返しはいかほど…?」
「5本」
「…大きいですね。父と年齢が近いので、それとなく本部長のお好みを聞いておきます!」
「ありがとう!頼むね!」
「かしこまりましたっ!」
小さく敬礼して水蜜桃がたゆんっと返事をする。ひ、久しぶりに見たけど破壊力あるな。ごくり。
「課長?」
柏木に絶対見られたな。もう今更な感が否めないがクールを装う。
「はーい!皆さん出ますよー!忘れ物無いようにねー!」
「課長のセンスの無さは昔からなんです」
「旦那怒ってるかなー?二次会行こー!」
「だから俺は性病じゃ無いって!」
「江口さん、この後のご予定は?」
「生憎と約束がありますの。失礼します」
「いやー、最後のアレは無いわー!」
「私も息子が塾から帰ってくるので帰ります」
思い思いに行動するようだ。まだ二十一時台だし飲み足りない。大宮からの無茶振りの記憶も消し去りたい。アソコ行けるかなー?
「それじゃあお疲れ!ハメ外しすぎるなよ!」
「ご馳走様でした!お休みなさい!」
「俺も帰るよ。腹は膨れたしな」
大宮と田口は帰るようだ。田口はメシで元を取ったな。三人前位食べてたような…。
「私も帰ります。彼女が待ってるんで」
えっ⁉︎長野に彼女いたの⁉︎だからあんまり食べなかったのか!わざわざこんなとこで言うかよ!ムカつくヤローだなー!
「お幸せに!お疲れ!」
イヤミっぽくならないように言ったけど本心だからな。
「私達も今日はここで。お誘いありがとうございました」
吉岡、横山も帰るんか。あれ?気づいたら大沢がいない!隠密かっての!
「課長、お先です」
クニとムロは酒の席が、大勢が苦手だからしょうがない。お休みなさい。
残ってるのは…俺、リン、井出、柏木、四ツ谷、元泉、仲村、和田、あ、神谷もいない…。
場所も場所だしどーすっかなー。一応お伺い立てておくか。
『今日は来てくれてありがとう。たまには皆んなと飲むのも良いモンだろう?残りのメンバーで沙埜ちゃんのお店行こうと思ったんだけどどうかな?』
瑠海さんはヤキモチ妬いちゃうからね。
『お誘いありがとう。いつもとは違う時間を過ごせたわ。ただ、騒がしいのは苦手なの。奈央の所で飲み直してる』
そっちかー。しゃあない、このメンバーで突入するか!
Saya Hinami
「小畠さーん!超久しぶりー!」
抱きつかれんばかりに迫ってくる沙埜ちゃん。後ろのメンバー達は呆気に取られている。
「急にお願いしてごめんね」
「丁度入れ替えで空いたので!奥へご案内します!」
いつも一人だから個室は初めてだな。
「か、課長?誰スか?可愛いっスね?ミニっスね?彼氏いるんスかね?」
「飲み友達だよ。手ぇ出すなよ」
「ではお友達からなら問題無いと言うことですね、わかります」
リンと元泉が沙埜ちゃんに爛々だ。
「師匠!紹介してください!」
「珍しいな!」
「日曜七時のアニメ『転生したら幼女になってゴム跳びで異世界を救いました♪』の主人公アイナちゃんにそっくりなんです!」
鼻息が荒いし近いよっ!なんだそのニッチすぎるアニメは!
「転ゴム面白いですよねー!」
井出が乗っかって来る。子供いるから知ってんのかな?
「こちらへどーぞー!」
やっぱ沙埜ちゃんのしっかりとしながら緩い感じ、堪らないなあ。個室と言っても下半分が囲われ、上半分は竹が並んで隙間から様子が見える。完全密室にしないところが閉塞感がなくて良い。
個室の入口から見て左右に四角いテーブルが一つずつ、四人がけだから八人、丁度全員座れる。良かったー!
向かって左のテーブルの一番奥に俺、隣に和田。正面に井出、隣にリン。右側のテーブルの奥に柏木、四ツ谷が並び、四ツ谷の対面に元泉、仲村が並ぶ。ごめん。仲村いつからいたんだ…?
和田以外アルコールを頼み、再度乾杯する。
「改めてお疲れ様でしたー!」
『お疲れ様でーす!』
ああ!この気兼ねなく喉を通るビールの美味いこと!最高だ!しっぽり瓶も良いけどやっぱり生に…ってアレ?ヤマさんは?
『トイレ行って戻ったら誰もいないから帰りましたよ〜』
「ごめーん!気が付かなかったー!今度穴埋めするから!気をつけてね!」
「ヤマさん忘れたの⁉︎ひどい!」
井出に怒られる。小さい子から目を離したらいかんってか?
「会社の方達ですかぁ?」
沙埜ちゃんがオーダーを持ってきてくれる。
「そうなんです!小畠課長と同じ会社、同じ課で働いている林原です!気安くリンちゃん、って呼んでね!」
「課は違いますが同じ部署の元泉と申します。以後お見知り置きを」
早速声をかけるナンパ師ども。そこに座ったのはこの為か!策士め!
「沙埜でーす!宜しくお願いしまーす!」
「課長とはどのようなお知り合いなのですか?」
四ツ谷が追従する。そっか、二人とも会ったことないんだった。
「えーっとぉ、小畠さんがお一人で良く来られてて、お店終わった後に一緒に飲み行ったりしてます!」
皆の顔色が強張っていく。言いたいことはわかる。俺は幼女趣味じゃない。
「し、失礼ながら、成人されておるのですか?」
魔女っ子にギラギラした目でアホなことを聞く和田。
「ちゃんと大人です!ちょっと小さいだけなんですっ!」
いつもの腰に手を当てて大きく見せるポーズを取る沙埜ちゃん。可愛い。可愛すぎるぞ。
「そ、そのまま『オークのクセに!』って言って貰えますか?」
「お、オークのクセに?」
「ぶひぃっ!ありがとうございます!も、もう死んでもいい…!」
昇天したか。安らかにな。
「……グー、パー、踏んで、ジャンプッ♪悪いコにはゴムパッチンでユートピアだぞ〜♪」
そのまま異世界へと転送されたか。達者でな。
今回もPicrewの「シルエットメーカー」マサキ様のを利用させて頂きました。ありがとうございます。