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#130 : ファイナル・ラウンド!

 日本酒を飲み始めたら席がオープンになってきた。


 皆んなてんでバラバラ、飲みたい相手と飲んだり、社交辞令だったり。瑠海も上座の方へ行ってしまった。


「リン、飲み過ぎじゃねーの?」

「大丈夫っスよ!ねー?」

「お、お水お持ちしますね…」

 四ツ谷に絡み酒しそうになったリンを止める。酒が飲める保育園ってしんどい。


「サミシイ人は節操が無いからね」

「うっせ!さんずいつけんな!病気じゃねー!」

 元泉がジェントルメン気取りで優雅にリンを落とす。普段なら面白いのだけど今日はハレの日、面倒事は絶対に阻止だ。


「飲み放題だからって()()()()なよ?元なんか取れないんだから」

「かちょー、ちょずくってなんスか?」

「調子ずくって言わない?」

「どこのほーげんスか!」

 井出も良い感じになってきてる。旦那怒らないのかな?


「あー、縁たけなわだが、ここで発表がある」

 お誕生日席で瑠海と柏木に挟まれて上機嫌な大宮がその場で立ち上がる。あすこだけ高級クラブにアキバの萌えバーと化している。別料金発生するだろう…!

 ザワザワしていた空間が静かになり、微かに演歌のBGMが聞こえてくる。渋い演出だぜ。


「今年は少し早めに達成が見えていたので、上方修正した上での達成となった。(ひとえ)に皆のおかげだ。改めて感謝申し上げる。そこでささやかではあるが、一年を振り返って功績を表彰したい!」

 ザワッと皆んなが顔を見合わせている。まぁ現ナマとマッサージ機、プリペイドカードなんだけどね。社長賞は海外旅行とかだから皆んな期待しちゃうのかな。ガッカリさせたらごめんな。


「えーまずはラウンダー賞!」

 言うてもここには四ツ谷と神谷しかいない。

「日々、多くの店舗巡回に取引先との折衝、そして接客、販売に貢献をしてくれる縁の下の力持ち。いつもありがとう!」

 用意していたシアトル・カフェのカード五千円分を四ツ谷と神谷に渡す。拍手が巻き上がり、二人とも恥ずかしそうだ。


「狭いからその場で良い。神谷の方が先輩だから一言を」

「は、はい。良くランチしたり報告書作るのに利用してるので助かります。ありがとうございます」

 またも拍手の嵐。他のお客さんからのクレームって話し声とかがうるさいってのがあるが、拍手喝采は良いのかね?


「このような賞を頂きありがとうございます!私も同様に良く利用をしております。入ったばかりなのにこんなにも良くして頂いて感激しております。有り難く頂戴いたします!」

 少し涙目の四ツ谷。肩を抱いてあげたくなるのは下心なのか?瑠海をチラと見たが関心が無いようだ。


「この前の報告会でもラウンダーは賞賛されていたからな。今後も頼むぞ!後人の育成もしっかりな!」

 はい!と大きな声で返事をした四ツ谷に、かぼそい声でかしこまりましたと返す神谷。覇気がないなぁ。


「次はなんと!課長様からだ!」

 おおーっ!と会場が騒めく。そりゃケチで有名な田口が出すとなったら驚きだよな。


「一課は柏木!二課は横山!」

 一堂にハテナマークが浮かんでいるだろう。営業やラウンダーなど前に出る人間は表彰される機会も多いが、バックオフィスはそうそうない。去年はやらなかったが社の忘年会ビンゴくらいだ。

「いつも我々の経費で無茶を言って申し訳無い!今日を持って期日が過ぎた経費は俺が絶対に承認しない!二人とも手伝わなくて良いからな!」

 俺は遅れることがないが、リンの顔色が青冷めて行くのを見るとアイツ、期限過ぎたの(ねじ)じ込んでるな。


「私たち裏方にもこのような賞を頂き感謝いたします。本部長のお言葉通り、今後は期限の徹底をいたします。大切に使わせていただきます」

 和かにエグいことをいう横山。元泉が目を逸らしている。似たもの通しか。


「あ、あの、ありがとうございます!パソコンばかりで肩がこって仕方なかったのですが、原因は目にあるとのことでコレは大変嬉しいです!今後も精進してまいります。ご指導、ご鞭撻のほど、宜しくお願いいたします!」

 俺の顔色を逐一見てるだけあって若いのに難しい言葉を使う。もっと砕けても良いぞ。あ、リンに手をつけられちゃうな。


「田口、お前からも」

「はい。今回の課長賞は本部長が仰った通りだ。我々はバックオフィスのおかげで安心して仕事に励める。いつもありがとうございます」

 し、信じられない…!あの田口が感謝と頭を下げたぞ!雪⁉︎雪が降るの⁉︎


「小畠」

「はい。伝えたいことはお二人がお話してくれたので。この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます。それと、月末・月初にまとめて出すのでなく、毎週月曜日の正午までに前週分を出すこと!一課は今日から徹底します!」

 今度はヤマさんが暗い顔をしてる。まとめて出すからなー。


「次は特別賞だ。その名の通り特別に、だ。林原!」

「ふぇっ⁉︎自分っスか⁉︎」

「チャラチャラした仕事してるクセにチームのピンチの時に大口を獲る。普段から大口獲ってこいよ!」

「あいすいません!もっと頑張ります!ありがとうございます!」

「本当だな?期待してるぞ。中身はAmezonのギフトカードだ。普段から大口獲れるサプリでも買っとけ!」

 会場に笑いが起こる。瑠海も、四ツ谷も、麻生も笑っている。仲村は…表面上は和かだが、なんか心から喜んでいない、そんな気がする。彼が悪いワケではないが彼のせいで麻生が辞める、そんな思い込みがそうさせてしまうのか。小せぇヤローだな。俺は。


「さあ、最後は優秀営業賞だ!皆ちゃんと見習うように!元泉!」

 呼ばれた本人がびっくりしてるようだが、取り繕うようにいつものニヒルな顔つきに戻る。

「ほら、一言」

「は、はい。このような賞を頂き、誠にありがとうございます。今後も二課を、社を盛り上げて参ります」

 確かに元泉の売上はピカイチだ。リンのアメギフが五千円、元泉は一万円分のカタログギフト。倍の差がついちまったな。来年は勝つぞ、リン。


「と、本来はここまでなのだが、今回は俺から『本部長賞』を進呈する!」

 今日イチのざわめき。中身は黄金色した紙幣が三枚入っている。何杯飲めるかな…。

「吉岡!」

 一際大きな拍手が起こる。昼行燈なんて言われてるけど、見てる人はちゃんと見てるんだな。田口と大宮を見る目が変わりそうだ。


「私のような若輩者がこのような賞を頂けることに感謝致します。これに慢心する事なく今後も精進して参ります」

 手のひらが赤くなるほどに祝福を送る。日の目を見れて良かったよ。若輩者って俺より一つしか変わらないやん。


「そして最後になったが、麻生さんが月末で退職となる。今まで多大なる貢献と実績を残してくれた。心から感謝します。お疲れ様でした!」

 サプライズ。お店に頼んで置かせてもらった花束と皆んなの寄せ書きを渡す。

「わ、私のような派遣社員にまでありがとうございます。ここで得た知識と経験を新天地で活用させて頂きます。短い間ではございましたが、大変お世話になりました。誠にありがとうございました」

 声量は少し小さいが、いつもの清流がそよそよと流れるような語り口。耳へのご褒美だ。


「さ、そろそろお開きだ。今日の発起人の小畠が最後に超絶面白いシメをしてくれるぞ!」

 いや、聞いてねーよ!しかもハードル上げんなよ!美人と可愛い子ちゃんに挟まれて調子乗りやがって!どーすりゃーいーんだー!

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