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#123 : 春疾風

 春疾風(はるはやて)がビルの森を駆け抜け、気温も高くなりめっきり春らしくなる。日差しの強さが格段に変わり、ジリジリと肌を焼く。背中にうっすらと汗をかきながら、レンタル大会議場まで歩みを進める。


 北は北海道、南は沖縄までの支店長や役職者も参加する決算報告会に向かっている。社内向けなので説明会や株主総会ではないが、それなりの資料を作り込まなければならない。


 Balance(賃借) sheet(対照表)(B/S)、

 Profit() and loss() Statement(計算書)(P/L) 、

 Cash Flow(キャッシュフロー) Statement(計算書)(C/F)…。


 勿論、営業本部全体の数字の取りまとめをするので、一課、二課分の取りまとめとなる。田口はこの手の仕事は苦手なので、俺と長野に振ってくる。最初は言葉の意味すらわからなかったが、この報告書のために色々と勉強したな。未だにわからない部分もあるが、俺らは数字を積み上げて行くのが仕事。職務を間違えない様にしなければ。


「お久しぶりです!お元気そうで!」

「ご無沙汰です!忙しさにかまけて顔出しもしないですみません…」

「まだ雪は降ってますがいつでも歓迎してますよ!」

 出張族だった二年目、新潟支店で世話になった丸山さん(支店長)と道すがら一緒になった。家族の様に迎えてくれて、温かい支店だった。丸山さんの人柄もあるのだろう。俺もこんな組織を作りたくて頑張ってたなぁ。


 会場に着くと指定された席へと向かう。俺は本社の営業本部なので田口と並んで座る。大宮は役員席だ。田口はこう言う時、大阪支店の社員くらいしか話し相手がいない。過去に大阪出張していたからだが、東京本社より大阪支店のほうが見ていて自然体な気がする。


 アットホームな組織作りを意識してはいるが、東京は新潟や大阪に比べると”冷たい”雰囲気はあるようだ。それは俺のせいや部下のせいでは無く、土地柄がそうさせてしまうのだと思う。

 都内はとにかく忙しない。矢継ぎ早に次から次へと仕事が降ってくる。なので余計なことにかまけず、ムダを省いていくしか対処出来ずにバタバタする。他から来たメンバーは『蔑ろにされた』感は否めないだろうな。


 特にウチの会社は体育会系でパワハラめいた言動が体質的に強い風潮がある。『撒かれた場所で花を咲かせろ』と言われるが、咲かせる場所くらい自分で選びたいモンだよな。

 ざわつく会場をピシャリとシメる副社長の一声。睡魔と戦う楽しい時間の始まりだ。


「…でありまして、今期は未達成となり、申し訳ございませんでした」

 仙台支店は未達だったようだが、この手の報告会で謝罪は不要だろう。いつも聞いていて違和感を覚える。

 結果は事前資料でわかっている。謝罪よりもいつまでにどうやって数字を取り返すか、が重要で必要な事柄ではないのか?次年度の予算にマイナス分を上乗せして再計算した数字の達成プロセスが大切なのでは?考え方の違いかもしれないが、謝るくらいなら事前に知恵と努力を怠らないべきだ。


「仙台はどうやって数字を取り返すんだ?」

 ほれ、副社長様からご指摘ですよ。

「そんなんだから達成できないんだ!予算振りがあった時点で計画的に仕事をしていない!お前のチームは普段どんな仕事をしているんだ!この場で言ってみろ!」

 ボロカスに言われるが、数字を作る仕事の人間はコレも込みで給料が支払われている。だから手当やボーナスも高い。


「…の遠因もありcompetitor(競合他社)との折衝もありましたが、営業とラウンダーとの連携を密にし、情報戦にて先回りしほぼ独占販売へと漕ぎ着けました。この事例を課内で水平展開し…」

 ここ最近で羽振りの良かった話を盛り込み発表する。最初はこんな大勢が集まる会場で話すことに緊張したが、目標達成していると気持ちに余裕があって話しやすい。心の中で部下達に感謝をする。


「大宮本部長からは達成が危ういと中間報告を受けていたが、本社一課が達成できたのはラウンダーの動かし方にあったのか?」

 副社長は元銀行の役員クラスだった人なので、職業柄なのか細かいところに目がつく。田口とは違うスミの突き方をする。四ツ谷の件を近藤さんの部分は伏せて副社長へ報告する。


「次年度も新卒や中途が増える。ラウンダーは営業の基本だ。本社一課のように使い方、動かし方を再考しそれぞれの…」

 何とか切り抜けたけど、四ツ谷のおかげでキチンと報告できた。あ、ありがとう…!


 朝から報告会が始まり午前中に閉会、昼は懇親会を含めた食事会となる。残念ながら酒は出ない。

 午後から次年度の予算の話となり散会だ。な、長い…。サラリーマン家業も板についてきたと思うが、会議は苦手だな。いや、面倒くさいからキライなんだな。早く酒が飲みたい。

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