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#122 : 攪拌

「ええ、二十人なんですけど…、ああ、空いてます?その日と、その次の週ですね、じゃあ最後の週にお願いします。オバタと申します」


 沙埜ちゃんと行った焼き鳥屋を予約する。一課・二課の営業と関係者で十人ずつ、増えそうなら事前に連絡しよう。値段もリーズナブルだし、会社にも通しやすい。後は今期の数字とあの二人をどうにかすれば任務完了だ。


 今期の退職者は麻生しかいない。異動も無いからセレモニーっぽく無いんだよな。かと言ってさよならパーティーみたいにしたら麻生は来ないだろう。時期も時期だから決まってしまって強制参加、の流れになるのかな。


 それを言うと瑠海も来ないだろう。どうすれば参加するだろうか。ウラをかいたところで正攻法が一番だろう。直接誘う方が良い。


『参加は業務命令かしら?』

 やはり一筋縄ではいかないようで。

『個人的に、だよ。たまには皆んなと飲もうよ』

『貴方が誘ってくれるなら行く』

 あら、素直じゃないの。よしよし。なんか瑠海の態度が柔和な気がする。残りの二課は和田にお願いするか。ほんじゃ本丸落としに行きますか。


「珍しいと思ったら、嫌がらせか?」

「ご挨拶ですね。久しぶりにどうでしょう?今期も達成ですし、区切りも良いんで」

「オタクのようにモトが取れるなら良いけどね、飲めない俺なんか(わび)しいもんだ」

 何だかんだ言って誘われるのは嫌いじゃないようだ。このオッさんも素直じゃない。


「部全体でもと思いましたが、会場が抑えられなかったので主要メンバーだけですし。本部長にもお声掛けしようと…」

「いつからそんな嫌らしい手を使うようになったんだ。本部長が来るなら参加せざるを得ないじゃないか」

 和田と目論んだ通りだ。

「全体は祝賀会かキック・オフでやろうと思っとりまして。一課は新卒がまた入りますので、今いる人間だけでも可愛がってあげたいんですよ」


 田口はやり方がネチっこい上に高圧的で敵を作りやすいが、攻撃こそ最大の防御を実践しており、着実に席次を上げている。誰も田口を咎めたりやり込めるだけの材料や武器を持っている人間がいない。悔しながら俺も至らない。そんな彼だからか仲間は少ない。自分から遠ざけているようにも思える。もしかしたら孤独を感じているのかもな。


「良いだろう。音頭は任せる。必要な事があれば言ってくれ」

「急なお願いなのにありがとうございます!」

 それにしても俺の現金なこと。酒に関しては一歩も譲らない。それにしても田口のヤツめ、可愛いとこあるじゃないか。『必要な事があれば言ってくれ』だと?今まで一度も聞いた事が無いぞ!


 背中に悪寒を感じながら和田の元へ。

「こないだのハナシ、まとめといたから二課の方よろしくね!」

「ひえっ…やっぱりやるんですか?」

「もう決めちゃったし、お店も抑えたし。あの、ほら、麻生さんの後釜の人…」

「仲村さんスか?」

「そうそう。仲村さんにも声かけておいて」

 驚愕している和田を尻目に一課へと戻る。自分で面接しといて名前を忘れるなんて酷いな。後は——。


『お誘いありがとうございます。子供がおりますのであまり遅くまではお付き合い出来ませんが』

 麻生も承諾を得たぞ!ああ、良いのかな?良いんだよね⁉︎いきなり動揺してきた!

 麻生は何飲むんだろう?あまり強く無いようなことを言ってたが本当かな?あの見た目でビール煽ってたらそれはそれでイイ!


 おっと、四ツ谷にも声をかけておかないと。

『お誘い頂きありがとうございます。失礼のない様に致します』

 カタい。人のコトは言えないが、あんなに可愛らしいのにこんなオッさんみたいな文面は良くない気がする。俺のせいなんだろうけど。


 三月も大詰め、年度末をしっかりと着地させる。皆んなで勝利を味わいたいじゃないか。特に新卒の四ツ谷や瑠海なんかは期末を迎えるのは初めてだし、個人目標も達成しているんだ。麻生も達成してたのに家庭の事情じゃあしょうがない。

 今考えてみればたった二週間足らずで森の販路を引き継いで、ずっと数字作ってるんだからポンコツなワケが無い。仲村さんも特に話が上がってこないってことは問題無いのだろう。


 麻生がいなくなる日が近づいてくる、その現実が焦燥感を急き立てる。飲み会は麻生のさよなら会になってしまうのか。せっかくだし楽しくしよう!良い思い出となるように!

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