表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/252

#111 : 言わずもがな

「…待たせてしまったわ」

 シルクの上下のパジャマ姿の瑠海は、ピンクの色も相まって可愛らしさが前面に出ている。大きめのくるみボタンがさらに愛らしさを際立たせる。


「あ、あまり見ないで…」

 自信家の瑠海から身を捩られながら怒られる。

「ご、ごめん。なんか雰囲気違うね?」

「寝る時はパジャマを着るでしょう?」

「俺は部屋着のまま寝るからな。短パンにTシャツ、冬はスウェット」

「男性はそうなのかしら…」

 いや、育ちですよ。ヤローでも寝る時にパジャマに着替えるヤツはちゃんといる。俺が不精なだけだ。


 そうだ。体調悪いんだから寝かせないと。そのために来たんだから。部屋まで来るつもりは無かったけど。

「休まなくて平気なの?」

「大分落ち着いたわ。ありがとう」

「礼には及びませぬ」

 酸味よりも苦味が強いコーヒーを一口飲む。お湯割と聞いたが中々に美味いじゃないか。


「ベ、ベッドは向こうなの」

 寝室は別なんですね。一度そう言う関係になったとは言え、あんだけ怒られて反省はしたが成長しきれてない俺は、瑠海と同衾することに幾許かの抵抗がある。


 瑠海が怒ってくれた気持ち、教えてくれたこと、考えさせられたこと。俺がちゃんと理解し、体現してこそ認めて貰える。そう信じてアレからはストイックにしている。飲みには行くがな。あ、沙埜ちゃんとホテル行って、ましろのハダカも見てしまいました。ごめんなさい。今は瑠海の体調が一番、早く寝かせよう。


『カチャ…』

 キッチンを横目にリビングを出て、一つ目のドアを開ける。ドアの隙間から瑠海の香りがふわっと踊り出る。いつものよりかライトに感じるな?

「同じ香りのルームフレグランスよ」

 電気を点けながら瑠海が教えてくれた。良い香りだ。


 部屋のほぼ中心にフレーム・ベッドが置いてある。サイズはダブルだが、目を引くのは大きさだけではない。洗練されたフォルム、重厚なウッドから気品が漂うモダンなシルエット、寝るための家具なのに芸術性さえ感じる。一人で寝るには大きすぎやしないかね。


 ベッドの上に目を引くものがもう一つ。この部屋に似つかわしくない、クタクタになった大きい枕?みいぐるみにしては装飾も顔も何もない。あんなに青冷めていた顔を真っ赤にして、慌ててソレを抱き寄せる。

「これは私が生まれたときに作ってくれたTopponcino(小さなお布団)なの」

 おくるみとか、ぬいぐるみとかずっと手放せないのってあるよな。なんだか今日の瑠海は可愛さに溢れていて微笑ましい。


 ベッドサイドのランプを点ける。俺のジャケットとYシャツをハンガーにかける。ネクタイはマリさんのお店でとっくに外してある。ズボンがシワになってしまうが、瑠海のためなら喜んでシワだらけになろう。

「消すわね」

 部屋の電気を消灯すると、ボワっとベッドサイドが明るくなる。


 言わずもがなでベッドに入る。お、お邪魔します…。左手は瑠海の枕となるので、先に用意して待ち構える。

「あのね、今日は、その」

 左手を伸ばして待っている俺を見ながら、もじもじとしている。可愛いなぁ。

「…俺のせいでもあるんだ。買う時間があったのに飲んだくれて忘れてた。前回の穴埋めと、ホワイトデーのお返しにと思って誘ったんだ。事前に用意していればこんなにはならなかった」

 この状況でましろのことを伝えるのは自殺行為だ。ここまで来て他の女の話はタブーだろ。


「私は誘ってもらえて嬉しかったわ。突然とは言え何も用意していなかった私もいけなかったの」

「瑠海が?何の?」

「そ、それは、その…」

 っと、タクシーで気づいたんだから詮索はよそう。この手のハナシは価値観が違うと相手を傷つけかねない。男には無い苦しみ。毎月大変だよな。


「おいで」

「…うん」

 スッと背中からベッドに入る。俺のベッドがセミダブルだから、ダブルは30センチ程大きい。瑠海との距離が遠く離れている感じがしてもどかしい。ちょこん、と頭を乗せ、俺の方に振り向く。

「ありがとう。理解してくれて」

「こちらこそ付き合ってくれてありがとう」


 右手で瑠海の頭を包み、子供をあやすようになでなでする。不思議な安らぎ…。気を許した俺は酔いの残りもあり、そのまま寝落ちしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ