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#105 : 上カルビは若気の至り

 これほど会社に行きたくないと思ったのは初めてだろう。


 昨日はましろに焼肉をたかられ、調子に乗って食べすぎた。焼肉でこんなに胃もたれ起こすなんて…。

 胃もたれは焼肉のせいだけじゃない。後任者の合否を伝える日、麻生が辞める決定打になる日。せめて、もう少し話しができていたら。ましろに言われた完璧主義。否定できない。


 田口からの返答は可もなく不可もなし、相変わらずの言い方だがツッコむ気も起きないので放っておく。さて、大井さんにお電話しなきゃ。


「…では、問題がなければ麻生に引き継ぎを」

「宜しくお願い致します」

 派遣会社が一緒だとこう言う利点があるよな。でも同じ派遣ばかり贔屓にしてると色々と面倒なんだよな。気をつけなければ。


 気は乗らないが仕事はやるしかないのだ。年度末は待ってくれない。業績も止めるわけにいかない。やる時はやるが、俺が身体を壊さない程度で良い。他のヤツに迷惑はかけられん。


 今回の週次会議はちゃんと機能していた。先週飛んだところを議事録で補習したおかげだ。議事録の書き方も人それぞれ”クセ”がある。何度か読んでいると文体から作成者を当てることもできる。仕事上で何の役にも立たない特技だ。


 ノートパソコンを小脇に抱え、会議室からデスクへと戻る。今日は遅くとも終電で帰るぞー。


「お疲れ様です。小畠課長」

 瑠海だった。

「お、お疲れさま」

 毎度マヌケた返事をする。

「お疲れっしたー!」

 部下達がこれ見よがしに挨拶しながら横を通り過ぎる。君達、自重しなさい。


「相変わらずお忙しいのですね?」

 今夜は空いているのか?と脳内変換される。

「嬉しい悲鳴です。今週、来週までは特に」

 来週まではこんな調子だと遠回しに伝える。

「年度末ですものね。お引き止めして申し訳ありません」


 彼女がスッと椅子から立ち上がる。いつもの香りが漂う。このまま帰るらしい。ごめんな。俺が意地を張らずにあの日に行ってれば良かったのに。

「お先に失礼します」

「お疲れさまです」

『お疲れさまでしたー!』

 いつもの合唱に、一課からのムサい声が多かった気がするのだが。


 人間、慣れって怖いな。社内で話すだけでもドキドキしたのに、今じゃ平気の平左で話している。相手の言葉の意味を読むことも。

「課長〜!マジ飲み会しましょうよ!」

「一課・二課合同でか?費用は?向こうは絶対出さないぞ」

「俺らカンパしますからー!」

「お目当てが来なくても文句言うなよ?」

「のぉー!」

 ったく。目標達成したらやってもいいか。年度末だしな。大宮と田口をどう巻き込むか、が問題だな。


 悔しいが、こう言うことは田口の方が断然上手い。狡猾とも違う、老獪と言うのか。年齢が上、と言うこともあるが経験値でモノを言う。経験則でないだけまだ良いが、所謂”物差しの基準が俺”のタイプなので俺とはソリが合わない。


 俺の基準値は背伸びせずに相手に合わせる。コレが田口には面白くないらしい。基準値が変われば数字の持つ意味も変わってくる。田口が数値と合わせて言いたいことはわかる。”俺に従え”だ。でも俺は抗い続けた。田口の下にいたらずっとこのままだって気づいた時から。今は諦めたがね。


 二課は和田くらいしか言うこと聞くヤツいないからなぁ。皆んな田口にドヤされるのが怖すぎて、田口以外からの依頼は”田口に確認を取れ”しか言わなくなる。田口経由で依頼されたものしか受け付けない。仕事でも、私事でも。


 そんなんだから自然と社内行事以外の飲み会に二課は参加していない。個人的に誘うヤツもいるが、最初だけ来て後から来なくなった。

 田口が飲み会を断る理由は簡単、相当な下戸だからだ。酒飲めない人間からすれば飲めるヤツらだけ楽しんで会費は同じ、しかも役職者だから多めに支払うってのも面白くないのだろう。そう思うとちょっと可哀想だな…。


 ま、楽しい酒の席なら無礼講ってことで良いでしょ。いや、その前に目標達成しないと。

 今日のデータから月末までの予測を立てる。水曜の定例会で二課の数字確認をして、概ね順調なら話し切り出してみるか。まずは忍者・和田に諜報活動してもらわなければ。

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