#103 : 自分を見られることに抵抗がない人
『お返事ありがとう!明日お休みだけど撮影なんだぁ…カズさんも来る?撮影!』
フラれたかと思ったが、ワンチャンありそうだ。しかし撮影か…。興味が無い、と言えばそれまでなのだが、それから脱却しないといけないのだ。ましろが来いと言うなら行っても問題無いのだろう。おし、行こう。
『行っても平気なの?』
『平気へいきー♪』
スタジオの場所が送られてくる。沿線沿いだ。
『カメラも来るけど気にしないでね!』
そうだよな。撮影するんだもんな。やはり別の男も参加するのに行って良いものか…。
それにアチラさんはましろに謝礼を払って撮影してるんだろう?それとは別にスタジオ代金もかかるはずだ。ド素人の俺がふむふむ言いながら見てて良い状況じゃないだろうに…。
スタジオ代金折半するか。そんで見学させてもらおう。
十五時から撮影とのことなので、掃除と洗濯の合間に軽いブランチを取り現場へと向かう。電車で二十分、会社と逆方面へと進む。こっち側あんまり来たこと無かったな。
「カズさーん!」
スタジオの外でましろが待ってくれていた。10分前だと言うのに早いな。
「カメラがせっかちで…」
時間にルーズでは無いのだろうけど、急かされるのは苦手なのだろう。俺もプレッシャーに感じるからイヤだ。そんなにも気合が入ったヤローに馴染めるかしら…。
「お待たー!」
「もう、遅いよ」
「お、おじゃまします…」
「え?」
カメラを睨んでいた人物が振り向いた。中世的な顔立ちに身体つきだが、確かに女性だ。二十歳そこそこの女の子を撮影する、カメラマンはてっきり男と決めつけていた!
「ましろ…?」
「カズさん!コッチ香織!」
「人のことコッチ呼ばわりしないで」
香織と呼ばれた女性は言い方に拘りがあるようだ。
「急にお邪魔して申し訳ありません。小畠と申します。撮影に支障があるようでしたら席を外します」
気分を害してしまっただろう。外で時間潰してよう。
「…ご丁寧にありがとうございます。瀬名です。今日はスチールだけですのでどうぞごゆっくり」
思ったより物分かりが良い方で助かった。心の声が聞こえたら怒られるかな。スチールってなんぞ?
「スチールは静止画、動画の反対語で使うんだ」
ましろが横から補足してくれる。STEALもスチールって言うよな。コッチの語源ってなんだろう?
「声も音も入らないのでごゆるりと」
瀬名さん?はカメラと照明のセッティングに戻る。
「大体一時間で終わると思うから」
ましろがそう言うと、カメラが向いている方へと歩いて行く。
後ろ姿はましろなのだが、空気が違う。誰だ?別人かと錯覚させられる。
『バシャッ…!』
大きなフラッシュが強い光を放ち、映し出されるましろ。メイクも着ている服も店にいる時と違うのはわかる。けど、本当にましろなのか?俺に声をかけた”あっけらかん”とした彼女はどこにもいない。
『ピピッ!』
ファインダーを覗きながら、カメラから顔を離しながら、三脚に立てて、手持ちで、様々な角度でましろを写しだす。照明やフラッシュに照らされる彼女の顔つきは店に居た時と別人で、とても妖艶で淫靡でもある。その目からは揺るぎない自信が伺える。ほわほわしてる彼女から想像がつかない。
「しつれーい」
不意にましろが俺に声をかけ、その声を合図に俺の金縛りが解かれる。し、集中し過ぎた…!目が乾いた感じがする。瞬きも忘れていたのかよ。
と、涙も枯れた乾いた目を見開くことが目の前で起こった。スルスルとましろが脱ぎ始める。えっ?
「…ちょ」
声をかけようとしたら、こちらを見ないで瀬名さんに左手で制止された。騒ぐな、と言いたいのか。
あっと言う間にワンピース一枚となる。下着はつけていないようだ。脱いでいる時もましろから想像がつかない卑猥さを感じた。不覚にも反応してしまう。アホか、俺は。
ましろはワンピースも脱ぎ始めるが、肝心なトコは見えないようにちゃんと隠してある。う、上手いな。