#102 : 自分を見られることに抵抗がある人
優は家に泊めろと煩かったが、お帰り頂いた。
ちゃんと終電に間に合う時間に帰したんだ、偉いモンだろうよ。
異性が接待してくれるお店に通った事は無かったが、ましろは不思議な女性だった。
仕草に不自然さがなく、動きに無駄が無い。時代劇で御三どんの演技を見ているように。モデルだけあって見られる仕事をしてきたからか、全てをソツなくこなす彼女は魅力的だ。
が、そこまでなんだよな。
俺はそこからもう一歩踏み込もうとしない。心の中で『どうせ』と思っている。
どうせ、俺じゃなくて俺の財布目当てだろう?
どうせ、彼氏いるのにいないって言ってるんだろう?
どうせ、その場だけ話し合わせてるだけで、店の外に出たらシカトすんだろう?
こんな下らないことを常に考えてしまう。メリット・デメリットでしか物事を捉えられない。
…そうか。これも俺の悪いクセなんだな。なんで俺は『どうせ』って思うんだ?本人に聞いたワケでは無いのに。俺をガッカリさせた出来事は数多かれど、こんなに捻くれるほどキツいモノでなかったはずなのに。
『ヴヴッ…』
メッセージが届きましたと微かに鳴く。
『今日はご馳走になりました!今度はお休みの日にデートしよう!』
ましろは懐に飛び込むのが上手い。俺も優もすっかりハマっている。アレか、自己開示が上手いと相手も勝手に開示していく、ってヤツか。
昨日の夜にフラっと立ち寄っただけなのに、ましろに心を乱される。でもコレは恋愛感情では無い。異性の友人と言ったところか。同じ趣味を持っている、それだけで距離が近い気がする。それなのに心のどこかで否定をする。
中途半端な気持ちが焦燥感となって責め立てる。俺は何が見たいんだ?何が知りたいんだ?心の問題に対処していかないとなのに、息を吸うだけで悩み事が増えていく。考えすぎなのかな。
『ヴヴッ…』
今度は優からメッセを受け取る。
『テメーましろちゃん泣かしたら許さねーからな!』
壮大にお節介を焼いてくれる優。気持ちはありがたいが大外れだぞ。ましろも俺をそういう風に見ていない。親権を取られた父親って表現されたんだぞ。そんくらいラフに考えているんだ。
考えたくなかったが、考えることをやめたら終わりだ。
優には出来て俺に出来ないこと。それは、自分を曝け出すこと。
答えはわかっているけど、素の自分を他人に見せるのは、俺にとっては怖いことだ。
なんで怖いの?笑われるから?嫌われるかもだから?引かれたらどうしよう?
そんなことばかり気にして、会話をちゃんと楽しんでいたのか?飲んだ酒の、食べた料理の感想を言い合う程に会話をしたか?ましろの犬が好きって、なんでだったか覚えているか?
自分ばかり楽しんで満足してなかったか?
考えることはやめないが、下らないことを考えるのはやめだ。そう思いスマホのアプリを開く。
『今日はありがとう。次はいつにしようか?』
自分からこんなことをするなんて。この歳になって発情してどうするんだよ。いや、俺には経験がある。いみじくも年長者としての自負もある。次はましろを楽しませる。仕事の延長線上にあったとしても、店にいない時は俺を客じゃなくて俺として見て欲しい。人間として。
『ヴヴッ…』
ましろから返事が来た。