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#91 : お門違い。

 瑠海のお誘いをお断りし、チョコとワインの巡り合いを堪能した次の日、余韻を断ち切るように電話が鳴った。アホからだ。


『一時間後に行くからよー!』

 時計を見ると十一時。昼メシに照準を合わせてきやがったな。本当に傍迷惑なヤロウだ。休みだから寝ると言っても聞かない。こりゃアイツ自身に何かあったんだな。面倒臭いことこの上なく。


 昨夜の瑠海とのやり取りを思い出しながら支度をする。仕事と関係の無いやり取りするなら私物に、とメッセージ交換しといたが、初めてのやり取りがこんなカタチの幕開けになるとはな。


 いつもとは違うバイクの音。巨大ザリガニがバンザイしたようなアメリカンの音だ。

 先端が魚の尾鰭の形をした”フィッシュ・テール”と呼ばれたマフラーから、爆音とパン!パン!とアフター・ファイアーを撒き散らしながらのご登場だ。そろそろぶち込まれてくれないかな、コイツ。


「久しぶりじゃねーか!ラーメン食いに行こうぜ!」

「オメーはなんで毎度ラーメンなんだよ」

「男ってモンは腹が減ったらラーメンなんだよ!」

 年末に会った時もラーメンだった。こうも毎回ラーメン喰ってると昔の面影が無くなるんだな、と勉強させてもらう。


 あんなにイケメンで誰もがトリコになった(スグル)は、二十歳半ばから急激に劣化した。加重、が正しい表現だろうか。止まるところ知らず、あっという間に三桁手前まで駆け上がった。

 流石に本人もヤバいと思ったのか少しはダイエットしたが、高校生の時の二倍はある。俺と大して変わらなかったのに。


 俺?俺は酒を飲む分、健康には気を遣っている。少しでも体重が増えると絶食して元に戻す。そのために新しく服を買うのがバカバカしい。まぁ素人の絶食は逆に良くないと言われたが。酒で栄養を摂取しているのでなるべく固体で摂らない。米は液体派だ。


「今日は家系が良いんだけどYo!」

「毎回じゃねーか!」

 インスパイア系は好きだが完食できないため遠慮したい。勿体ないし、作って戴いた方に申し訳が無い。いつも少な目で頼む心苦しさよ。

 え?男らしくないって?喰ったら穴という穴から出てくるのを耐えろと言うのか。人間、向き不向きってモンがあるんだよ。


「今日は俺がチョイスする。蕎麦だ」

「だったらよ、カズん()に置かしてくんね?」

「このバカデカいザリガニを?」

「ソバっつったら飲みたくなるじゃん!」

 確かに飲酒運転は犯罪だし幇助も罪だ。それにアイツは弁当持ち、軽犯罪でも捕まればぶち込まれる。憎たらしさから心をよぎったが、友達として敢えてその道を歩かせるワケにも行かない。しゃーねーなー。


 マンションの駐輪場は場所が決まっているし、大型バイクは止められない。少し歩いたコインパーキングのバイク置き場に置くがはみ出してしまう。なるべく邪魔にならないように斜めにして停める。


「お前まさか泊まるとか言うんじゃねーだろーな?」

「ケチぃ〜」

「気持ち悪ぃからやめろ!」

 優は喫煙者だ。俺もマンションも禁煙、ベランダも換気扇も不可だ。世間のルールを無視するコイツは家に上げたくない。前のマンションの時、勝手にベランダでタバコを吸われて組合から警告された。


 目当ての蕎麦屋までタクシーで行く。

「っしゃい!」

 相変わらず粋な大将に安心する。まずはビールと板わさ。これに尽きる。

「オラよっ!」

 グラスをガチ!と合わせてくる。コイツは加減と言うものを知らない。板わさの半分が一口で持ってかれる。風情がないねぇ。ったく。


「で、どーしたんだよ?」

「わかっちゃう?やっぱわかっちゃう?」

「あんまりウゼーと違法改造通報すんぞ」

「後一年は弁当背負ってんだからやめれ!」

「なら簡潔に話しやがれ」

 会社や取引先の人が見たら驚くだろうな。品行方正で通している俺がこんなに荒い言葉で話すなんて。優との時しか話さないが。他の友達でもこんなに砕けた話し方はしない。


「…彼女が出来たんだよネ」

「ウッザ。酒が不味くなる」

「おま、コレ見てもそう言えんのかコラッ!」

 そう言いながらスマホで写メを見せてくる。

 褐色系の肌にかなり濃いめのメイク。コイツのギャル好きは最早病気の域だ。だが、スマホの中でアヤシゲな笑みを浮かべる彼女、コレはギャルでは無く…


「…何人?」

「インドネシア人!」

 ついに国際化してしまったか。日本語もまともに話せないクセに。お相手は苦労するだろうな。

「クラブでナンパされてるの助けたらついてきた!」

「お前さぁ、弁当持ちなんだからあんま首突っ込むなよ?」

「義を見てせざるは、ダロ?」

 まともに話せないクセに難しい言葉を知ってやがる。かく言う俺も学生時代は同レベルだった。俺達はお情けで卒業させて貰えたんだ。学校から膿を出すと言う名目で。


「んーでそのご自慢か。めでてーな」

「向こうから結婚したいって言ってきてさ!その相談!」

「ちょい待て。俺は差別も区別もしない。だからお前なんかとも(つる)む」

「もうちょっと優しく言えよ!」

「そのお前だからこそ本音が言えるんだよ。歳はいくつだ?」

「28って言ってた!一人で来てるんだって!」

 インドネシアの平均結婚年齢は日本より相当早かったハズ。写メを見ただけだが、濃いメイクとは言え目鼻立ちが良い。スッピンでも可愛いほうだろう。こんなコを放っておくワケが無いよな…。


「友達として、男として言わせてくれ」

「式は挙げねーよ!金無いから!」

「そのコ、本当に独身か?」

「お前、人のオンナ疑うのかよ!?」

「良く考えろよ。そんな可愛いコを地元民も日本人も放っておかないだろ?事実、ナンパされてたワケだし」

「じゃあなんで俺なら良いんだよ?俺にミリキがあるからダロ?」

「魅力、な。ナンパしてきた相手を選ばなかったのは既婚者だったから、だろう。お前を選んだ理由は独身だからだ」


 天ぷらが運ばれてくる。天ぷら蕎麦の台抜きを頼むには後五年は通わなくてはならない。そして、天ぷらは親の仇の様に喰え。


 食べ終わるまで優は放置だ。

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