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#90 : 掛け違い。

『ヴヴッ…』


 私物携帯からお呼び出しを受ける。もう二十時になろうとしている。どーせ(アイツ)だろうよ。明日は休みだからワインとチョコのマリアージュをじっくり楽しみたいんだがね。オマエはチョコに負けた男なんだよ。残念だったな。


『今夜のご予定は?』

 …瑠海からだった。

 先日、和解したとは言え唐突なお誘いに戸惑ってしまう。未だかつてこんな事は無かった。

 初めてはなお君のところで偶然に、二回目は沙埜ちゃん経由で。三回目は…そうだ。駅でバッタリ会ったんだ。誕生日だと聞かされ”待ってる”と一方的に迫られ、そのまま関係を持ってしまった。

 思い返すと瑠海からも俺からも明確に誘ったことは一度たりとてない。四回目は社内で堂々とだが、俺への糾弾だったから楽しいお誘いではなかった。


 ふむ。どうしようか。

 昨日の今日で御赦しが出たとは言え、ハイそうですかとホイホイ出張るのも些か軽すぎやしないか?瑠海に怒られるのがイヤ、と言うわけではなく、なんか自分が惨めな感じがする…。俺からは何もアクションが起こせないヘタレみたいな。

 出ましたよ。優柔不断(アイツ)が。あんなにも開放感で一杯だったのにイザとなると及び腰になる。


 三月は年度末、繁忙期と重なるからそこそこ忙しい。自分の時間を作るのだけで精一杯だ。終電ギリギリまで詰めておこうと思ってたし、家で飲もうと思っていたのにな。

 戴いたチョレートさんは消費期限ごとに食べるようにしている。それでも三分のニ程度しか消化していない。瑠海から貰ったチョコは勿体無くてまだ手をつけていない。感想を聞かれたらどうしようか。


 …俺は初めてお誘いをお断りする事にした。

 瑠海と今夜飲みたく無いってワケじゃあないんだが、さっきまで泣いてたカラスがもう笑ったみたいなのが気に病んでしまう。清々しくないと言うか。

 しかも会ったら絶対に求めてしまう。そんなゲスいことは避けなければならない。 少なからず気持ちはあるけれど、今はそんな事をして良い状況でもない。


『お誘いありがとう。折角なのだけれど、今夜は用事があって』

 嘘をつくのは好きでは無い。特に人を傷つける嘘は。半分は事実で半分は嘘の返信をする。

 勿体ぶるように返事が来ない。瑠海も打つのが遅いほうか?いや、バレンタインの日は矢継ぎ早に送ってきてたぞ。既読にもなってないから確認していないのだろう。


 仕方ない。瑠海には申し訳ないがキリが良いところまで仕事しよう。そう決めて集中する。


『ヴヴッ…』


 おっ、返信来たかな。申し訳ないね。


『嫌われたかしら?』

 …そうじゃないんだよ。好きとか嫌いとか。こんな事を最初に言い出したヤツはどんなヤツだ?

 好意が無ければ返信すらしないよ。一回くらいお断りしたくらいでそう決めつけないで欲しい。自分だって沙埜ちゃん経由のお誘いを断ったのだし。


『そうじゃないよ。年度末で仕事もあってさ』

『仕事って便利な言葉ね。それなら帰る。無理はしないでね』

 (なじ)られた。どっちなんだよ?一緒にいたいのか、仕事して欲しいのか。一緒にいたいならそうとハッキリ言って求めて欲しい。それなら今すぐにでも会いに行くよ。俺はアホだから言葉に込められた意味を(おもんぱか)ることができない。


 スッキリとしないが仕方ない。今度何かで埋め合わせしよう。ホワイトデーに(かこつ)けるのが良いかな。何となしだけど二人の気持ちが()()違っているようだな。




 ため息を吐いてメッセージアプリを閉じる。

 瑠海から誘ったのに小畠は仕事を理由に断った。不器用な彼だから他に女がいればもっと狼狽えているだろうから、本当に仕事が忙しいのは伝わってくる。それなのに詰ってしまった。宣戦布告を受けて焦っているのか。()()()()()。いつか彼に言った言葉が、今度は自分を責めたてる。


「今日はこれで帰るわ」

「もう?早いね」

「…()()に負けたの」

 スマホで出来る賭け事はたくさんあるが、あの瑠海がギャンブルをするなんて。奈央は訝しげだったが、かつての盟友のことだからハマり過ぎないだろうと高を括っていた。


 奈央の店を出た後にタクシーに乗り、いつものマスターの所へ直行する。陸軍少佐に慰めてもらいに。

 少佐は要塞を護った。私は何を護るの?攻められていると言うのに護るべきモノ、方法がわからない。


 彼はいつも瑠海の心を掻き乱す。

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