願望と覚醒
『ここは……?』
身体が動かせない。目を開けることもできない。
だが直前のことは覚えている。
病院の帰り、俺は信号無視で突っ込んできたトラックに撥ねられたのだ。
『……俺は死んだってことか?』
負傷した脚では咄嗟に逃げることもできなかった。
まったくなんて日だ。
人生最悪の思いをしたと思ったら、
まさか人生そのものが終わってしまうなんて。
撥ねられた後のことは少しだけ覚えている。
全身から血が流れ、慌ただしく駆け寄る人、人、人。
そして痛みはすぐになくなり寒気に襲われ──
記憶はそこで途絶えている。
『つまりこれは死ぬ前の……走馬灯のようなものか』
身体はピクリとも動かせる気がしないが、意識だけはハッキリしている。
肉体と精神がズレているような、奇妙な感覚。
きっとこうしている一分一秒が、俺に残された最後の時間なのだと悟った。
『そういえば……先月の交通費、支給されてねーな……』
死ぬ間際で考えることがこれかよ! と自分でも思う。
『大学中退して、就職も失敗してから……無心で働いてたもんな』
こうなったのも自分が原因ではある。
それでも真面目に働けばいつかは報われると信じていた。
『前の店長はいい人だったんだよな……。
それで俺もこの人みたいになりたいって……』
もっと早く気づいていればよかった。
俺はただただ使い潰されていただけってことに。
『最後に願おう……。生まれ変わったら、
もっとまともな待遇を受けたい……』
「願いは【受理】されました」
『せめて毎日の……交通費……くらいは……。
あとは時給もちゃんと上がって欲しいよな……』
「スキル、【無限交通費】【無限時給】を獲得しました」
『シフトの管理も全員の希望に合わせるの、大変なんだよな……。
本当はやりたくなかったよ……』
「スキル【時魔法】を獲得しました】
『それと……。あの新しい店長だけは許せねえ……。
怪我をして、働けなくなったのもアイツのせいだ。
呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる……』
「スキル、【呪殺】【治癒】を獲得しました】
『俺の……"闇"を思い知れ……』
「極大魔法属性【闇】を獲得しました」
『はぁ……なんて言ってもしょうがないな……。
もう俺は死んじまったんだし』
『もういいや……寝よう……』
『おやすみ……』
「以上、すべての願いが受理されました。
固有能力、魔法のほか派生スキルがギフトとして付与され──」