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仮題 恋

作者: 辛夷

振り返ると、自分が誰かと恋に落ちていることを人に話したことがあっただろうか。

いつもそれはひそやかに行われ、そして人知れず終わったように思う。


言えない恋をしていたわけではないけれど、第三者を間に入れることはなかった。

いつでも中途半端な迷いがあったのかもしれない。


会いたいと求める気持ちの先にはいつも、家族という形を選択することを強く望む気持ちがあって、それは私の恋を複雑にして、言葉を失わせるには十分だった。

いいなと思う人といつの間にかひそやかに恋は始まっていて、あちらこちらへと求めたり、離れたり、見失ったり、意味のないことを繰り返していた。

結局、求める人ではなくて、求められる人と、それは恋ではなかったけど家族となり子を育てた。

結婚という枠にはまってみることも、子を育てることも、人と同じようにしてみたかった。

それは私の切実な望みであったことは間違いない。


家族愛の傍らにある寂しさに、私はいつ気が付いたのだろう。


自ら手放した過去の人を、もう一度手繰り寄せることを思い描いて、そこには切ない気持ちと、満たされていない思いを抱く自分自身を抱きしめて可哀想に思いながら、甘美な夢に浸っていた。

自由な恋を夢想して、それが手に入らない自分を可哀想に思うだけで、それでやり過ごすことはできなかったのだろうか。

一歩を踏み出すことより、踏み出さなかったことを後悔するのは嫌だと、どうして思ったのだろう。

若くもなく、といって老いているわけでもなく、その中途半端な容姿が映る鏡を見るたびに、時間がないという焦りが私を包む。


25年前、10年前、そして今、私は彼に連絡を入れる。

それこそ思い上がりなのだが、彼は私を拒絶することはないという不思議な確信は、彼に連絡を入れることを私に躊躇させない。

彼は、私が名前を呼べば、私が名乗る必要なく、私だと気づく。

だから、会いたいと伝えることはたやすく、そしてそれは簡単に許可されてしまう。

それは、私の勘違いとうぬぼれに違いないのだろうけど、彼が私を拒絶することを思い描けない。

私はただ甘やかされたくて、そうしてくれる男がいると知った時、それを放っておくことなどできはしない。


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