05:面接試験3
俺たちはマリアに続いた。その途中、例の冒険者風男に声をかけられた。
「おまえ、知ってるぜ。【偃月の宴】をクビにされたコルトだろ」
なるほど。俺を知ってるってことはやはり冒険者か。
しかしクビにされたことはもう噂になってるんだな。ロイの奴が言いふらしたのか。
「ああ、悪いな。元Aランク冒険者として遠慮なくやらせてもらう」
「ぶっ!」
男が盛大に吹き出す。
「元Aランクだあ!? ロイから聞いてるぜ、てめえは本当に器用貧乏の役立たずだったってな! AどころかCランク相当のスキルしか使えねえんだろ? 俺様はBランクだ! てめえなんざ敵じゃねえよ!」
たしかにAランクの【勇者】が使えるのは他のジョブのCランク相当のスキルになる。
が、それは俺がCランク相当の実力しかないという意味ではない。
戦闘能力は足し算ではなく掛け算だ。C相当とはいえ、全てのジョブの全てのスキルが使える【勇者】の戦術的価値はAランク相当、いやそれ以上だろう。
が、そうした事情は使用者本人にしかわからないらしいな。
「俺様の名はガブラ! フェテル伯の遺産は俺様がいただくぜ!」
「なあ、その遺産ってなんなんだ? さっきから聞くんだが」
「あ? てめえ本当に無能なんだな。それも知らずにここへ来たのか。今回の執事募集はな、老いぼれの現役フェテル伯に代わって家督を継ぐ小娘の助言役探しなのさ。当然右も左も知らねえガキに政治ができるわけねえ。助言役の執事になれば事実上、フェテル伯の遺産を好きにできるってわけだ」
「ふうん。別に興味ねえな」
「なに?」
「でもありがとう、親切に教えてくれて」
「馬鹿が! 逃した獲物が大きいほどてめえは後で悔しがる。元Aランク様の醜態を見るのが楽しみだぜ」
「そうはならないと思うが……まあ、お互い正々堂々やろう」
「ああ、正々堂々《・・・・》な……」
そして俺たちは訓練場についた。マリアがルールを説明する。
「第二課題の合格条件は、四人全員の乱戦を生き残ること。床にある訓練用の武器は何を使っても構いません。ただし相手を殺そうとした場合は失格です。よろしいですね?」
「殺したりしねえさ。なあ、おめえら」
「そりゃそうっすよ」
「オラはロリメイドさんと戦いたかったな~」
あいつら、やっぱり随分と仲が良さそうだ。どんな手を使ったか知らないが、組んでると見た方が自然だな。つまり一人対三人か。
マリアはこれを容認しているのか? あの課題を考えた彼女が気がついたてないとも思えないが、まあいいか。全員倒せば問題ない。
「それでは第二課題を開始します」
マリアが宣言するのとほぼ同時。ガブラと他の二人が勢いよく俺に迫る。
あー、やっぱそうなるよな。ていうか組んでるのを隠す気もないのか。
「悪く思うなよ! 器用貧乏野郎!」
ガブラが木製の模擬刀を振り下ろす。まあまあの速さ。Bランクというのは嘘じゃないらしい。
だが【加速】した俺には遅すぎる。
「まずは取り巻きから潰すか」
俺も模擬刀を拾い上げ、取り巻き二人に【侍】の必殺技である【刹那斬】を放つ。ただでさえ亜音速の攻撃に【加速】が乗り、常人にはまず見切れない。低めの威力も【戦士】の基本的なバフスキル【豪腕】で補った、俺のお気に入りのコンボだ。
名付けて【刹那斬・改】。
「ぎゃっ!?」
「ぐえっ!?」
情けない悲鳴が二つ上がる。Bランクのガブラと違い、こいつらはCギリギリってとこだった。まあ一撃だな。
「……てめえ、今何しやがった!?」
ガブラが叫ぶが、戦闘中に答えてやる義理はない。
そして俺は再度【刹那斬・改】を放つ。しかしガブラもただではやられてくれないらしい。模擬刀のぶつかり合う激しい音。
「てめっ……本当にCランクなのか!?」
「いや、だからAランクだって言ってるんだが……」
「くそっ、【豪腕】!」
げ、こいつも【戦士】なのか。俺の【豪腕】と違いBランクの【豪腕】だ。
まともにやれば力負けするな。俺はとっさに後ろに飛びのく。
「どうした! かかってこねえのか!?」
そりゃそうだ。勝てない力比べをしてもしかたない。代わりに俺は魔法職で攻めてみる。
「【氷炎の吐息】!」
これは【魔術師】の炎魔法と【退魔師】の氷魔法、それに【狩人】の風魔法の合成スキル。熱と冷気だけでなく、両者がぶつかり合う際の爆発的な水蒸気が敵を薙ぎ払う。
が、弱点として少々大振りすぎる。それと本気でやると殺傷力が高すぎるので、威力をかなり控えめにせざるをえなかった。
結果、ガブラはダメージは受けているが、まだ倒れるには至らない。
「て、てめえっ! 卑怯だぞ!」
「かかってこいってそっちが言ったんだが……」
ならお望み通り近接戦闘にしよう。だがまともには殴り合えない。BランクとCランクにはそれだけ大きな差がある。
【勇者】の豊富なスキルを活かすコツは、けして調子に乗らないことだ。一つ一つのスキルは弱いということを自覚することが、かえって勝利に結びつく。
「はっ! もらったあ!」
ガブラが吠え、俺を切り捨てる。その俺の姿がまぼろしのように揺れ、消えた。
「あ……?」
「すまん、残像なんだ」
「がぁっ!?」
模擬刀をガブラに叩き込む。もちろん手加減はして。とはいえしばらく動けないだろう。
「い……今のは……クソっ……」
「【幻術師】の【鏡像】だ。Cランクだから自由には動かせないが、接戦だと棒立ちでも有効なんだよな」
ばたり、とガブラが倒れた。立っているのは俺一人。つまり、
「おめでとうございます、コルトさん。第二課題、合格でございます」
よし、これで職を手にできる。俺はほっと人心地ついた。
「驚きました。あのガブラたちをここまで圧倒するなんて」
「あれ、知り合いだったんですか?」
「知り合いと申しますか……ガブラ! いつまで寝てんのよ!」
「……え?」
突如としてマリアが豹変し、這いつくばるガブラの胸ぐらを掴み上げる。
「ひいぃぃぃ! 許してくださいメイド長!」
「まったく、大見得切っといてだらしないわね! なにが『俺様はBランクだ!』なのよ! かっこ悪いったらありゃしない!」
「あ、あの……」
困惑する俺に、マリアがにこりと微笑む。
「この連中はフェテル伯様の用心棒なんです。まあ、普段は冒険者としても活動しているようですが」
「えっとつまり、最初から仕組まれてたってことですか? 三対一を止めなかったのもそのせい?」
「はい。外部の者だけで模擬戦を行なっても、その時々のメンツで難易度が変わってしまいますから。第二課題は、こちらの用意した用心棒を倒すこと、とさせていただきました」
「はあ……その割にはその人たち、マリアさんにセクハラしたりしてましたけど」
「それはあえてです。参加者が同調して下品な振る舞いをしないか確かめているのです」
「え、じゃあフェテル伯の遺産の話も……?」
「はい。遺産を狙う不届き者を採用するわけにはまいりませんから」
なんという巧妙な。第二の課題はずっと前から始まっていたのか。ガブラの下卑た振る舞いに同調すれば、その時点で不合格だったのだろう。
「しかし、コルトさんは全ての課題をクリア致しました。おめでとうございます。あなたは類い稀な知力、素晴らしい人格、際立った戦闘力、その全てを兼ね備えている方だと証明されました」
「いや、俺なんてただの器用貧乏野郎ですよ」
「とんでもございません。あなのような万能な人間こそ執事になっていただきたかったのです」
まあ、褒められて嫌な気はしないな。ゆくゆくは同じ職場で働く相手だし、印象がいいのにも越したことはない。
「さて、最後の課題に参りましょうか」
「え、まだあるんですか?」
「といっても簡単なものです。しかし同時にこの課題は最も重要かつ、能力では突破できません」
なんだかすごそうだな。が、ここまできたらやるしかない。
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