04:面接試験2
周りのメイドが俺たちの前に紙を置く。ここに答えを書けということらしい。文字が書けるかもチェックされてるんだろう。なかなかよくできているな。
学校は出てないが、パーティのリーダーとして手続きをする機会が多く、文字はかなり苦労して学んだ。やっぱり努力は嘘をつかないな。
俺は答えを端的に記し、マリアに渡した。
「絶対にこっちだ……間違いない……絶対だ……くそ、俺が間違えるわけないんだ……」
モリアはなおもぶつぶつ唸っていたが、観念したように答えを記し、マリアに渡した。
そしてマリアは二つの解答用紙を一瞥し、静かに宣言した。
「以上で面接を終了させていただきます。まずコルトさん、別室でお待ちください。おって次の課題をお伝えします」
どうやら合格したらしい。確信はあったが、それでもホッとする。
「ありがとうございます」
「次にモリアさん。誠に申し訳ありませんが、本日は不採用とさせていただきます。ご期待に添えず申し訳ありません」
「バカな!?」
モリアが勢いよく立ち上がる。
「なんでおまえみたいな学歴もない冒険者くずれが通って俺が不採用なんだ! 俺は名門の学院を出てるんだぞ!?」
「なんでって……俺は正解して、お前が間違えたからじゃないか? ですよね、マリアさん」
「はい、その通りです」
「だからそれがありえないんだよ! どう考えても俺の選んだ皿の方が高価だった! 間違いないんだ! お前はどっちを選んだんだよ!?」
「どっちって言われてもな……」
俺はマリアさんに目で尋ねる。勝手に答えを話すのはまずかろうと思ったが、彼女は何も言わなかった。なら、話してもいいか。
「結論から言えば、俺はどちらも選ばなかった」
「は……? どういう意味だよ! なんで選ばなかったのに合格なんだ!」
「それは、そもそもこの課題の本質が『どちらかの皿を選ぶ』ものじゃないからだ」
マリアがそれを肯定するようにうなずく。
俺は最初に【商人】の【鑑定】スキルで二つの皿の値段を調べていた。値段を調べればすぐに終わる課題だと思ったからだ。
が、実際にはどちらの値段もほぼ同じだった。プロが調べたとしても、好みや流行によっていくらでも値段は逆転するだろう。そこまで価値が近いと、高いから家宝の皿だと簡単に答えるわけにはいかなかった。
しかし、スキルを使っても問題が解決しないそういうことは、【勇者】にはよくある。他のジョブのようにレベルのゴリ押しが効かないからだ。
そういう時に頼りになるのは頭だ。器用貧乏の【勇者】を活かすため、俺はずっと考える力を鍛えてきた。
そして、俺には一つ疑問があった。
そもそも先代国王から賜った家宝を、こんな素性も知らぬ俺たちに触らせるものだろうか? 指紋や傷がつくかもしれない。最悪の場合盗まれるかもしれない。いくら採用試験のためとはいえやりすぎだ。
更にもう一つの疑問。そもそも単純な二者択一では、適当に選んでも2分の1で正解できてしまう。それでは能力を見抜くための課題の意味がないではないか。
そこで俺は気がついた。そもそもの前提が間違えているのだ。
マリアは二つの皿を自由に調べてよいとは言ったが、そのどちらかが家宝の皿だとは一言も言わなかった。ただ「家宝の皿を見抜いてください」と言っただけ。
「つまり」
混乱するモリアに俺は告げる。
「そもそもこの場に家宝の皿はなかったんだ。だからどちらも選ばないのが正解。ですよね、マリアさん」
「はい。私は初めに申し上げました。貴重な品々の管理が執事の仕事の一つだと。その観点からすれば、このような場に家宝を持ち出すなど言語道断です。いくら輝かしい学歴があろうと、それに気がつかない者に執事を任せることはできません。大切なのは、考える力なのです。納得していただけましたか? モリアさん」
それがトドメだった。モリアはがくりとうなだれた。
○
他の連中の面接が終わるまでの間、俺は別室で待機していた。硬いソファに寝転がっていると、課題を乗り越えた者が一人また一人と入ってくる。が、それはすぐに止まった、
執事志望者は最初40人近くいたはずだが、結局残ったのは俺を含めてたったの4人だった。
まあ、あの課題はかなり難しかったしな。他の連中もモリアと同レベルだとすると、無理もない。
最後にマリアさんが入ってくる。
「お疲れ様です。では次の課題を説明します」
俺たちのうち一人がそれをさえぎる。
「なんだ、まだ何かあんのか? 俺たちはちゃんと自分の能力を証明したはずだぜ?」
ガラの悪い男だった。冒険者ギルドにいても違和感がない。いや、実際に冒険者かもしれない。
残る二人も似たり寄ったりだった。最初に来た時は気がつかなかったが、こんな連中も紛れていたのか。
「……申し訳ありません。ですが、採用できる人数は一人だけです。今しばらくお付き合い願います」
「ちっ、まあいいけどよ。んでなにをするんだ? 美人のメイドさんと連続組手か?」
「そりゃいいっすね!」
「オラはロリメイドさんがいいだな~!」
ゲラゲラと三人が笑う。こいつら、互いに知り合いなのか。ていうかめちゃくちゃ印象悪いな。本当に合格する気があるのだろうか?
が、セクハラ発言にもマリアは動じない。
「次の課題が最後となります。執事たるもの、荒事から主人を守らなければならない時があります。したがって、ある程度の戦闘能力は不可欠です」
「やっぱ組手じゃねえか」
「……当たらずとも遠からずです。これから訓練場へ案内します。そこで一次面接を通過した四名の皆様には――」
「互いに殺しあえってわけだ! こりゃいいや!」
冒険者風の男はいちいちマリアの言葉を遮る。が、マリアも否定はしなかった。
「殺し合いは困りますが、模擬戦をしていただきます。では、訓練場にご案内します」
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